答え合わせ
「変だな……」
口に手を当てたまま高橋が呟く。
「ああ、やっぱり変だよな」
あれから半分くらい調べる事が出来た。
二年前位から売上目標が増やされる月があることがわかってきた。
そして、何故か真田の営業所だけは、決められた目標から減らされることはあっても、増やされることが一度もないことがわかった。
「真田の営業所で減らした金額を、他の営業所の目標額を増やすことでカバーしてるよな」
「なんでこんな事に……目標額を増やされたせいで達成出来ない営業所が出てきてるじゃないか」
「待てよ、この目標額を作っているのは確か……」
所長室のノックが鳴ったので、急いで資料を見えない場所へ隠す。
「どうだ? 元気にしてるか」
笑顔で入って来たのは渡瀬部長。
ガタイがいい50代男性。定期的にジムに通っていると言っていた。
「渡瀬部長!! お久しぶりです!」
今日訪問すると連絡があったのに、集中し過ぎてて忘れてた。
俺は実はこの方とは個人的に飲みに行ったりした事がある。
それというのも10年前、よく研修で会っていた渡瀬部長、その時は課長だったが、上司と知らず気さくなオジサンだと思ってよく話していた。
その流れでご飯に行っていて、どんどん出世されて今は社長の下の部長になられた。
出世しても偉ぶった態度をとらず、誰とでも気さくに話してくれるので社内でも好感度は高い。
「成瀬君も高橋君も元気そうだな」
一社員の名前もちゃんと覚えていて記憶容量の高さが伝わってくる。
「部長はお忙しそうですね」
「いや〜もう年だからあんまり働きたくないんだが、何かと忙しくてな…」
部長が何かに気づき、足元の紙を拾う。
しまった!! 一枚落としてた!?
「過去の目標額の見直しをしてるのか……
偉いなそこまでしてるなんて。
売上目標は白井課長に一任してるから、
俺の手元にはこの表来ないんだよな……」
高橋と目を合わせる。
そうだ!白井だ!アイツが課長になったのが二年前。
そこから狂い始めてる!!
渡瀬部長が帰ったのでまた再開することにした。
「白井課長と真田に接点があるってこと?」
高橋が何か考え込んでいる。
「そうなるよな……二年以上前、確かまだ白井は所長だったはず……」
「真田の営業所じゃん」
「!」
「!」
二人で驚き振り返ると阿部が立っていた。
「お前かよ……マジで心臓止まるかと思ったわ」
「二人が所長室にいるの見えたから、驚かせようと思ってこっそり入ってきちゃったよー」
高橋の顔がパッと明るくなる。
「そうだ!真田のとこの所長で、真田はその時副所長だった!!」
阿部は頷き、そしてニッコリ微笑む。
「しかも真田は白井の甥っ子だ」
「は!?」
高橋と俺の声が重なる。
「そう言えば口調とか顔とか少し似てる様な……」
「性格の悪さは遺伝って事か……」
納得出来る。違和感ない。
「へぇ〜、二人でこんな事してたんだ〜」
阿部が資料を手に取り始める。
とりあえず今までの経緯を説明、阿部は資料に目を通しながら話を聞いている。
「コレとコレとコレもかな……」
阿部がそう言いながら、見ていた書類を数枚並べる。
「この月は真田の営業所の売上目標が著しく減ってるだろ」
「……確かに。その分で他の営業所の目標が他の月より多めに上乗せされているな……」
「ここは前月に大きな契約解除があった月だ。
だから最初から目標額を減らしたんだな……」
「お前……こんなに役に立つ奴だったとは!」
阿部の肩を掴んでぐらぐら揺する。
「ようやく線と線が繋がってきたな……」
高橋が安堵の表情を浮かべる。
「あれ? そもそもお前今日何しに来た?
滅多にここに来ないって言ってたのに」
「そうそう、俺、再来月から課長に昇進で本部に行く事になって。だからその前に、自由に動けるうちに営業所見ておきたいと思ったんだよ」
「え? じゃあ白井は?」
上にいくということは、そのポストが空くってことだろ……
「白井は次長に昇進」
「今の次長が辞めるって事?」
「いや、次長を二人体制にするらしいよ〜」
高橋が俺の肩を掴む。
「てことは、もしこの件を白井に詰めるなら来月の本部会議の日しかないぞ。次長から上のクラスは本部会議に出ないから、もう会うことが出来なくなる」
「やるしかないな……」
この件は何も動かなくてもいいのかもしれない。
でも知ってしまった以上、今後働いていく中でずっと心にモヤが残るだろう。何か起こるたびに動けば良かったと後悔するかもしれない。
「大丈夫? これ失敗すればクビかもよ?
しかも白井はここの事務所潰したいらしいし」
阿部が心配そうに俺たちの顔を見る。
「お前動かなくていいよ、俺一人で掛け合うから」
高橋の意外な一言に驚きを隠せない。
「なんでだよ!
ここまで一緒に調べてきたのに!?」
「……調べてる時にどんどん巻き込みたくないって気持ちが強くなって。お前家庭もあるし。
その点俺は独身だから、クビになったとしても一人で生きていく分ならどうとでもなる。
それに俺がクビになったらお前が所長になるだろうから、安心してここを任せられる」
仏の様な笑顔で俺を見てくる。
「やめろよ、そんな悲しい事言うの。
ここまで一緒にやってきたんだから最後までやらせてくれよ!じゃないと俺一生後悔する……」
わかってる。残される営業所社員たちの事を考えれば高橋の案が正しいって。
俺一人が掛け合ったとしても相手にされないだろうから所長クラスが動いた方がいいって。
「高橋〜、こう言ってるんだから一緒にやってあげなよ〜」
阿部の言葉が空気を変える。
「昔からこいつ言い出したら言うこと聞かないじゃん。このまま置いてったら一生恨まれて後味悪くなるよ。それより華々しく二人で散りなよ」
「ちょっと……散れって失敗前提じゃないか……」
高橋が笑い出す。
「お前は昔から一言失礼だったな」
高橋の笑顔につられて笑ってしまう。
阿部が来てくれて良かった。
「協力出来そうな所は俺もやるし。二人の泥舟が沈んで行くのをただ見送るだけなんてしないよ」
俺たちの覚悟が決まった。




