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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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9/9

【9話】灯りを消すと決めたから

その日は、昼から少し静かだった。


客は二人。


どちらも常連になりかけている人たち。


帰り際、ひとりが言った。


「今夜も……灯り、ついてますか?」


私は、少しだけ考えてから答えた。


「今日は、お休みします」


その人は驚いた顔をしたが、何も言わずに頷いた。


その表情が、胸に残る。


日が沈む。


いつもなら、私はランプを磨き、芯を整え、火を入れる。


今日は違う。


磨いたけれど。


整えたけれど。


火を、つけない。


ランプは、ただのガラスの器になった。


窓の外は、暗い。


店内も、暗い。


私は椅子に座る。


胸の奥が、そわそわする。


誰かが、来るかもしれない。


扉を叩くかもしれない。


灯りが消えていることに、落胆するかもしれない。


それを想像するだけで、落ち着かない。


「……これは、私の問題ですね」


誰もいない空間に、声が落ちる。


前世。


あの会社で倒れる直前も、似た感覚があった。


“今日は帰りたい”


“今日は断りたい”


でも、断ったら迷惑がかかる。


期待を裏切る。


必要とされなくなる。


だから、続けた。


そして、倒れた。


私は両手を握る。


「違います」


今は違う。


ここは異世界。


私はリゼル。


スローライフを送るために、ここにいる。


誰かのために燃え尽きるためじゃない。


外で、足音がした。


胸が跳ねる。


扉の前で、気配が止まる。


……数秒。


そして、足音は去った。


追いかけたくなる衝動が、胸を叩く。


今からでも火をつければ間に合う。


走れば、呼び止められる。


私は立ち上がる。


一歩、進む。


……止まる。


「今日は、消すと決めました」


静かな声。


自分に言い聞かせる。


しばらくして、夜は完全に深くなった。


誰も来ない。


灯りもない。


私は久しぶりに、何もしない時間を過ごした。


本を読むわけでもなく。


片付けをするわけでもなく。


ただ、暗闇の中で、呼吸する。


不思議なことに。


怖さは、少しずつ溶けていった。


代わりに、別の感覚が広がる。


——静かだ。


これが、本来の夜。


私の夜。


布団に入ると、すぐに眠気が来た。


いつもより、深い。


夢も見ない。


翌朝。


目が覚めた瞬間、体が軽い。


久しぶりに、頭が澄んでいる。


窓を開けると、冷たい朝の空気が入る。


胸いっぱいに吸い込む。


「……悪くありませんね」


私は笑った。


罪悪感は、少しだけ残っている。


でも。


それよりも、確かなものがある。


私は、自分を守れた。


たった一晩。


それだけ。


でも、それは前世の私にはできなかったことだ。


昼過ぎ。


ミアが来る。


「昨日、暗かった」


「ええ」


「死んだかと思った」


「生きています」


ミアはじっと私を見る。


「顔、明るい」


私は少しだけ肩をすくめる。


「夜は、休むことにしました」


ミアは、ふっと笑う。


「森も、夜は寝る」


夕方、ルゥも来る。


「昨日、灯りなくて……ちょっと寂しかったです」


素直な言葉。


私は頷く。


「私も、少し寂しかったです」


「でも?」


「でも、休みます」


ルゥは考えて、にこりと笑う。


「それなら、いいです」


夜。


ランプを前に、私は少しだけ迷う。


そして。


今日は、普通の営業の灯りだけをつけた。


夜のための灯りは、つけない。


完全には消えない。


でも、燃えすぎない。


「ゆっくりで、いい」


私は、静かにそう呟いた。

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