【5話】森のお茶会
「今日は、店休みにしませんか」
朝、来ていた二人になんとなく私はそう言った。
自分で言って、少し驚く。
前世の私は、休むという発想がなかった。
でも今日は、空気がやわらかい。
「森、いい天気」
ミアが窓の外を見て言う。
ルゥは少し不安そうに私を見る。
「……お客さん、来ないですか?」
「今日は“休み”って札、出しておきます」
言いながら、少しだけ胸が軽くなる。
休むと決めるのって、こんなに静かなんだ。
かごに焼き菓子を詰める。
ハーブティーは水出しにして瓶へ。
ルゥは「持ちます」と言って、大きなバスケットを抱えた。
ミアは森の小道を先導する。
木漏れ日が落ちる、丸い空き地。
柔らかな草。
風がゆっくり流れている。
「ここ、好き」
ミアが言う。
彼女の場所なんだろう。
私は布を広げる。
ルゥはそっと座るけれど、草が少し焦げる。
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「大丈夫。ちょっとあったかいだけです」
ミアがくすっと笑う。
「ルゥ、湯たんぽみたい」
「ゆ、湯たんぽ……?」
水出しのハーブティーを注ぐ。
森の匂いと混ざって、涼しい香りになる。
焼き菓子は少し崩れている。
「……店より、ゆるいですね」
ルゥが小さく言う。
「それでいいんです」
私は空を見上げる。
雲がゆっくり流れていく。
時間が追いかけてこない。
「リゼル、笑ってる」
ミアが突然言う。
「え?」
「店にいるときより、少し」
自覚はなかった。
でも頬があたたかい。
「外、気持ちいいですか?」
ルゥが聞く。
「ええ。とても」
本当に。
何かを提供しなくてもいい。
誰かを待たなくていい。
ただ、ここにいるだけ。
少しして、ミアが横になった。
ルゥも、恐る恐る寝転ぶ。
私は迷ってから、同じように草の上に横になる。
空が広い。
前世では、こんなふうに昼間に寝転ぶなんて考えたこともなかった。
「……平和ですね」
ルゥがつぶやく。
「うん」
ミアは目を閉じたまま。
「こういう日も、必要ですね」
私の声は、思ったより柔らかかった。
帰り道。
私は気づく。
“何もしない日”を、自分で作れた。
それが、少し誇らしい。
「また来たい」
ミアが言う。
「お弁当、作ります」
ルゥが続ける。
私は頷く。
「営業してない日なら、いつでも」
三人で笑う。
森の風が背中を押す。
喫茶店は、逃げ場。
でも今日は、森そのものが居場所だった。




