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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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【4話】火を吐けないドラゴン

その日は、風が強かった。


窓枠がかすかに鳴る。


午後四時を少し過ぎたころ。


からん。


鈴が鳴った。


でも、いつもの軽い音じゃない。


扉が、ゆっくり、重たそうに開いた。


立っていたのは、背の高い少女だった。


赤茶色の長い髪。

瞳は琥珀色。

どこか不安げに揺れている。


「……あの」


声は小さい。


けれど、空気が少しだけ熱を帯びた気がした。


私は微笑む。


「いらっしゃいませ。営業中ですよ」


少女は、ほっとしたように息を吐いて、席に座った。


椅子が、ほんの少し軋む。


よく見ると、髪の間に小さな角がある。


背中のあたり、服の下が少しだけ盛り上がっている。


尻尾……は、今は隠しているらしい。


「ご注文は?」


「……あ、あたたかいものを」


震える声。


私はいつものハーブティーを淹れた。


湯気が立つ。


少女はカップを両手で包み込むように持った。


そして、小さくつぶやく。


「熱くない……」


「飲みものですから」


思わず笑ってしまう。


彼女は少し困ったように、でも安心したように目を伏せた。


「……ここ、森の近くですよね」


「ええ」


「だから、来ました」


ぽつり。


しばらく沈黙。


言うか迷っている空気。


私は急かさない。


「……私、ドラゴンなんです」


やっぱり、という気持ちと。


だからか、という納得。


「戦う種族です。狩りをして、生きていく」


指先が、カップをぎゅっと握る。


「でも……私、火がうまく吐けなくて」


視線は下を向いたまま。


「狩りもできないし、威嚇も怖くて」


小さな声が、震える。


「群れに、いられなくなりました」


静かな店内。


外で風が鳴る。


そのとき、からん、と軽い音。


「リゼル、いる?」


ミアだった。


いつも通りの、柔らかな森の匂い。


でも、店内の空気を察したのか、少しだけ声が落ち着く。


「……お客さん?」


ドラゴンの少女はびくりと肩を揺らした。


私は穏やかに言う。


「うちの常連さんです」


ミアは少女を見つめ、少し首をかしげる。


「熱い匂いがする」


「……す、すみません!」


慌てて立ち上がりかける少女。


「怒らないよ」


ミアはあっさり言った。


「森にも、いろんな生きものがいる」


そして、私を見る。


“ここは追い出さないよね?”という目。


私はうなずく。


「ここは、狩りをしなくてもいいですよ」


私はドラゴンの少女に言う。


「火を吐かなくてもいいし、戦わなくてもいい」


彼女は、ゆっくり顔を上げる。


「……でも、何もできません」


「お茶は飲めます」


「え」


「椅子にも座れます」


少しの間。


「それで十分です」


ドラゴンの少女の目が、じわりと潤んだ。


火ではない、熱。


「……いても、いいですか」


「営業している日なら、いつでも」


約束はしない。


でも、拒まない。


「名前は?」


ミアが聞く。


少女は少し迷ってから、答えた。


「……ルゥ」


小さな声。


「私はミア」


「リゼルです」


三人分のカップから、湯気が立ちのぼる。


火を吐けないドラゴン。


森で生きるエルフ。


前世で燃え尽きた人間。


不思議な組み合わせ。


でも、この店では、ただの“お客さん”。


その日、ルゥは夕方までいた。


何度も「すみません」と言いながら。


帰り際、扉の前で振り返る。


「……また、来てもいいですか」


私は微笑む。


「営業している日なら」


ミアが小さく笑う。


「ここ、ちょうどいいでしょ?」


ルゥは、こくりと頷いた。


からん、と鈴が鳴る。


外の風はまだ強い。


でも、店の中は少しだけ、あたたかかった。

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