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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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【1話】私は、リゼル

私の名前は――


いや。


それは、もう前の人生のものだ。


会社で呼ばれていた音。

怒鳴られた音。

急かされた音。


その名前を、私はあの白い場所に置いてきた。


終電を逃した夜だった。


「無理してない?」


「大丈夫です」


そう言って、画面を見続けて、そこで終わった。


目を開けると、白い空間に立っていた。


光に包まれた存在が、私を見ていた。


「よく、頑張りましたね」


それだけで、涙が止まらなかった。


「次は、急がなくていい人生を」


与えられたのは、祝福。


生きるのに困らない金貨。

ゆっくり老いる身体。

大きな不幸から外れる運。


「そして――」


神様は少し微笑んだ。


「新しい人生、せっかくだから新しい名前で生きてみて」


その言葉に、私は頷いた。


目が覚めたのは、異世界の宿屋だった。


机の上には革袋。

中には、十分すぎる金貨。


私は数えながら思った。


もう、誰かに呼ばれる名前じゃなくていい。


私は自分で、自分を名乗る。


宿屋で暮らした数か月。


街は賑やかだった。


商人の声。

馬車の音。

子どもたちの笑い声。


誰も私を急かしていないのに、胸がざわついた。


“何かしなきゃ”


その焦りが抜けない。


だから私は、街の端へ歩いた。


石畳が途切れ、土の道になる場所。


森の匂いがする。


そこに、小さな家を見つけた。


静かだった。


本当に。


私は金貨を払い、その家を買った。


初めて、自分のためにお金を使った。


家を整え、庭にハーブを植え、看板を作る。


木を削りながら、私は考えた。


新しい名前を。


急がない。


焦らない。


風みたいに、静かに生きる。


そうして、私は決めた。


私は、リゼル。


意味はない。


ただ、響きがやわらかいから。


誰にも怒鳴られたことのない音だから。


休業日、営業時間は気まぐれ。


メニューは三つだけ。


今日は、お客さまゼロ。


でも、焦らない。


金貨はまだある。

明日も生きていける。


それより大事なのは――

私は、もう自分を削っていないこと。


売り上げがなくても、私はここにいる。


名前を置いてきた代わりに、

静かな時間を手に入れた。


私はリゼル。

ここで、ゆっくり生きる。

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