第九十八話:走るサキ
「ちょっ、ちょっと待って!待ってってば!」
「良いからいいから。」
「こ、こけちゃう!」
「大丈夫大丈夫」
ハルはサキに色々声をかけ続けていた静止を訴えていたが、サキは止まる様子がなかった。サキの走るスピードは速く、足が無理やり走らされ動かされている、そんな気がしていた。
(うう!足を動かすのを止めると、転倒してしまう・・この人は止まろうとする気が、欠片もないし!一体どこに連れていかれるのかしら・・!)
右腕を引っ張られながら、色々考えつつ必死にサキについていく。
元々ハルは警備護衛たちをしゃがみながら偵察していた為、足が若干痺れていた。その状態で走っていた為、足が完全に上がらない時があった。
「あっ」
「!」
ハルは屋根の突起に足がひっかかり、転けそうになった。
(転ける!)
ハルは右手が不自由なため左手で顔を隠し、来るであろう痛みに耐える体勢をとった。
ハルが転倒しそうになっていることは、右手を引っ張っていたサキにも伝わった。握っていた手に力が加わったため後ろを見ると、未来の衝撃に耐えようとしているハルがいた。
「はあ、仕方がないわね!」
サキは呟き、腕力でハルを引っ張り上げるとお姫様抱っこをした。
「んえ!?」
「ハル、今度は舌を噛むかもしれないから黙っていたほうが良いわよ。」
そう伝えると、サキは先ほどよりもスピードを上げ走り出した。
「ん、んぐぅ」
更に動揺するハルを置いて、スピードアップしたサキは夜のクレアトン邸を駆け抜け、ルイザの部屋へとたどり着いた。
「・・ルイザ様、おそらく、もう少ししたらサキが来るのではないかと。」
「シイナ、そうね。そしたらドアを開けていてくれる?大きな音を出されると困るから。」
「分かりました。」
「?」
シイナは今までの経験上、サキは勢いよく帰ってくるのではないかと予想していた。それはルイザも同じで、こういう時はいつも興奮して帰ってくることを知っていた。2人は頷きあい、ドアを開けた。
その様子を見ていたハクは良く分からなかったがとりあえずその様子を見守っていた。するとドアを開けて一分もしないうちにサキがハルを抱いて帰って来た。
「戻りました!」
「サキ!小さい声で。」
「っは!すみません!」
サキが戻った挨拶をすると速攻シイナから叱責を受ける。サキは少ししょんぼりしながら、ゆっくり腕の中に抱いているハルを下ろした。
ハルはずっと目を瞑っていたので、床に降ろされた時にそっと目を開けた。目の前にはこちらを覗いている、ターゲットであるルイザがいた。
「ひっ!こっ!ここは!?」
「ハルさんですよね?夜分遅くにごめんなさい。少し話がしたくて。」
「っ!」
ルイザに名前を知られているとは思っていなかったので、返事に詰まった。
(ど、どこかに退路は!逃げ道は無いのかしら…!)
ハルはキョロキョロとあたりを見回した。後ろにはサキ、ルイザのすぐ後ろにはシイナがいた。サキにここまで連れてこられた身としては退路は無いように感じた。
ルイザからの問いかけに返事をしないハルに対してサキは苛立ったように声をかけた。
「ねえハル、返事は?」
「え」
「ルイザ様に聞かれたでしょう?返事。返事は?」
「は、はい!わ、私がハルです!」
サキからの圧力に耐えきれなくなり、ハルは懸命にルイザに返事をした。ルイザはにっこり笑って言った。
「答えてくれてありがとう。ここに来てもらったのは、あなたについて教えてもらいたかったからなの。」
「・・わ、私についてですか?」
(もうバレたんだ・・ルイザ様の暗殺計画がもう・・そしたら私ももう首を切られるしかないんだ・・)
ハルは絶望を感じていた。自分に付いて尋ねるというよりは、ルイザの暗殺計画について全てを吐けと言われるのであろうと推測ができていた。
(そう思っているんだろうな・・。まあ正直どんな計画を立てているのかを知りたいけれど、まずはそこじゃないのよね。)
目の前で顔を青くして震えているハルを見てルイザはそう思い、口を開いた。
「あなたに聞きたいのは、私の暗殺についてではないの。あなたの弟についてよ。」
「え!・・弟ですか?」
ハルは顔を上げた。暗殺計画についてバレていることは百も承知だったが、まさかここで弟のことが出てくるとは思っていなかった。
「そう、弟・・。後ろを向いてくれる?」
ハルが後ろを向くと、そこには神妙な面持ちをしたハクが立っていた。
「ハ・・ハク・・」
「ハル姉・・」
2人は改めて自分の姉弟をじっと見つめた。




