第九十七話:うまくいかない
「そ・・そしたら私がガスティン侯爵のためにやってきたことは・・?どういう・・?」
ハクは顔に手を当て俯いた。自然と肩が震え、止まらなかった。その震えは何からきているのか自分でもよくわからなかった。
(信じられないわよね・・命を懸けていたのに、騙されていただなんて・・)
ルイザはその気持ちに寄り添いつつ、言葉を選びながらハクへ尋ねた。
「・・あなたたち家族は、その、侯爵に良いように扱われていた可能性が高いわ。ハク、あなたお姉さんと話す機会とかないの?・・話を聞いてい見るのが一番早く真実が分かると思うわ。」
ハクは少し顔を上げて言った。
「・・私、アリスお嬢様に異常に気に入られていて、常に行動を見られている気がしているのです。明日からも多分ですが・・自由に動けないでしょうし、そんななか私が姉と話しているところをアリスお嬢さまに見られたら、姉に被害がある可能性があります。」
サキは、ハクの話を聞いて確かにと思った。アリスのハクに対する思いは強く、他メイドに対して「絶対に近づくなよ。これはアリスの物」と威嚇しているような様子が今日、常にあったからだ。
(でも、ハクの姉ハル。日中に話しかけるよりも夜の方が良いかもしれない
。あの子は夜遅くいつも動いている。その時に話ができたら・・。)
サキはそう思いルイザに報告件提案をした。
「あの、ルイザ様。私、ハクとハルのことについての報告はもう1つあるのです。」
「そうなの?なに?」
「はい。ハルは夜、同室メイド全員が寝静まった時間に外に出て何か調べているようです。」
「え!ハル姉が!?」
「はい。多分次の暗殺者として動いているのではないかと推測しています。そのための夜間の行動ではないかと・・。」
ハクは驚き、サキを見た。サキは「ただ・・」と少し詰まりながらも自分が日中見ている姿についても話し始めた。
「・・彼女、夜間は調べもの、日中はメイド業務をしているためか顔色が悪く、おそらく寝不足から来ていると思うのですが足が覚束ないことが多々あります。こちらを暗殺する前に多分倒れるのではないかと・・。」
「ハル姉・・。」
ハクは悲しくなった。自分が家族のためにと思ってやっていたことは騙されていて、家族の1人であるハルは次の刺客として昼夜ずっと働きづめで、倒れそうになっているということを。それも、ハル姉自身のためではなく、アリス達のためにしているということを。
「そう・・。いつも彼女はこのくらいの時間から動くのかしら?」
ルイザは少し考えた後、サキに尋ねた。サキは時間を見てから頷いた。
「もう少ししたら動き出すと思います。」
「サキ、そしたらその子、捕まえて連れてきて。」
「お任せください。連れて来ます!」
サキはとても良い笑顔で敬礼をし、さっそうと走って出て行った。
ハクはその姿を見送りながら、夜も十分に眠れず仕事をしている姉のことを考えていた。
ハルはクレアトン邸と外部を繋ぐ道を屋根の上から偵察していた。
ここ1週間、見張りの騎士がどの時間帯で交代しているのか、人数が手薄になることは無いのか、そして曜日によって違うことは無いかをずっと確認してきた。でも特に手薄になることも無ければ、寧ろ見張りの騎士たちの意識は高く、大体騎士3名体制で見張りを行い、見張り交代時は必ず騎士たち全員で警戒ポイントの確認を行うなど、見張りはとても徹底されていた。
(少なくともガスティン侯爵邸はこんなに強固ではなかったのに・・どうしてここ、クレアトン邸はこんなにしっかり警護をしているの?ここはやはり抜け道は無いのかしら・・。)
ハルはここ1週間の成果が出なかったことに対して肩を落とした。
(後はどこの抜け道があるかしら・・橋を渡ったら、街には出るけど、ここの門をくぐらなければ外に出ることはできないし・・。仲間がいたらどうにかできたかもしれないけど、今回は1人での仕事だし・・アリス様に報告してどうにか人員を増やすしかないのかぁ・・。)
クレアトン邸から少し離れたところに川があり、その橋を渡れば街に出れる。だが、出口は3人体制で見張られている裏門、ここが唯一であった。
「はあ・・しょうがない。今日は戻ろう・・。」
ボソッと独り言を言ってから立ち上がり、部屋に戻ろうとハルが後ろを向くとそこにはサキが立っていた。
「ひっ!!」
ハルは思わず叫びそうになったが、必死で声を殺し、口を抑えた。サキはにっこり笑って話しかけてきた。
「やっほ、ハル。ちょっと来てもらえる?」
「え・・ええ?」
ハルの動揺をものともせず、サキはその手を握り夜の伯爵邸を走り始めた。ハルは今なぜ自分がサキと走っているのかわからなかった。




