第九十六話:反故
(ど・・どうしてここにハル姉が!?)
ハクは動揺してしまいハルから目を離せなくなっていた。こちらを動揺した様子でずっと見てくるハクに気づいたハルは小さく首を振った。
(こっちを見たらダメ。気づいて!)
(はっ!そうだ、ハル姉と関係性があることを知られてはいけない!俺はスパイなんだから!)
首を振ったハルの様子を見て自分の状況へ意識が戻ったハクは気持ちを切り替え、ヨハスや、そのほか全員へ顔を向けた。
「・・ヨハス様、私を紹介してくださりありがとうございます。改めて皆さま、これからよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね、ハク。アリスの側にこれからずーっといてね!」
アリスは上目遣いでウルウルとした瞳を向け、ハクの所まで小走りでやってきて腕にぎゅっと抱き着いた。
(うわこの人、本当に俺のこと好きなのか・・やばい人に目をつけられちゃったな。)
ハクは心の中で少しげんなりしたが、顔には出さず、できるだけ笑顔で答えた。
「はい、アリスお嬢様。これからよろしくお願いします。とりあえず、他の護衛騎士にも挨拶をしてきます。」
「はーい!終わったらすぐここに戻ってきてね。」
「はい、では。」
ハクは退室して行き、アリスはその姿が見えなくなるまで手を振っていた。
ハルはその姿を見送った後、無意識に止めていた息を吐き、今起こったことを整理していた。でも整理できなかった。頭の中が更にぐちゃぐちゃになった気がした。
(一体・・なんだったの、なぜここにハクがいるの・・?ハクがここにいるのであれば、なぜ私はここにいるの・・?)
ハルはずっと疑問に思っていた。村で家族と一緒にいるはずのハクがなぜここにいるのかを。
一方ハクも他の護衛騎士と挨拶を交わしながら頭の片隅でずっと考えていた。村で家族と一緒にいるはずのハルがなぜここにいるのかを。
(しかもアリスの所だぜ・・せめてルイザ様の方だったら良かったのに・・どうしてここにいるんだよ、ハル姉・・!!)
ハクは手をぎゅっと強く握った。直接ハルと話をしたかったが、自分はアリスのお気に入りのため難しいことは分かっていた。
(とりあえずルイザ様に夜報告しなければ・・)
ハクは今夜ルイザに報告することを心に決めた。
サキもずっと2人の、ハクとハルの関係性を考えていた。
(ハクは、スパイで今回アリスの要望があってここに来た。そしてハルを見てあからさまに驚いた様子だった・・。ということは二人は知り合い・・もしくは知り合い以上の関係なのかも・・?)
サキはハクがハルを見て目が離せなくなるほど驚いていたことに気づいていた。シイナからの前情報でハクの今までのことを知っていたが、あの驚いている様子からは何かが絶対にあると確信していた。
(今日、ルイザ様たちに報告しなくては。)
サキも夜、ルイザたちの所へ行くことを決めた。
夜も更け皆が寝静まった頃、ハクはルイザの所まで来ていた。
「ルイザ様、少し報告したいことがあります。」
「ハク、入って。」
「はい。」
ルイザの許可を得て中に入ると、アリスの部屋の中で見たメイド1人がルイザとシイナの前に立っていた。
「あ、もしかしてあなたが・・」
「そう。この前話したサキよ。あなたと同じ、こちらからのスパイ。」
ルイザから紹介されたサキはハクに向かって会釈をした。
「昼間はどうも。私はサキ、シイナ様の後輩メイド件スパイよ。よろしくね。」
「あ、どうも。ハクです。」
ペコっと簡単に挨拶をし、ハクはルイザに向き合った。早くルイザに相談を、話をしたくて仕方がなかった。
「ルイザ様、あの報告なのですが・・。」
「ええいいわよ。」
「その・・あの、信じられないのですが・・アリスお嬢様の所に、ここにいるはずのない、私の姉がいたのです。」
「あなたの姉・・?」
ルイザは顔を歪めた。話を聞いていたサキは口を開いた。
「もしかして、その姉ってハルのこと?」
「え!ご存じですか?」
「まあ、だって同僚だしね。」
「あ、確かに。・・そうなんです。姉は村で家族と一緒にいるはずなのですが、なぜここにいるのでしょうか・・。」
ハクは下を向き、考えだす。
「なんで家族と一緒にいるはずだって思うの?」
サキは咄嗟に口を出す。ハクは少しどもった後答えた。
「だって、ガスティン侯爵からは俺が行けば家族は離れ離れにならないって言われたし・・。」
ルイザがハクに質問をした。
「・・ちなみにどんな約束をしたの?」
「えっと、俺がガスティン侯爵の指示で働けば、村の家族は安心して過ごすことができると・・。姉や妹が出稼ぎに出なくて良いと言われました。」
「でもあなた、ガスティン侯爵たちには死んだものとして考えられているでしょう?その約束、反故されてるんじゃない?」
「!」
ハクは目を見開いた。自分は死んだものとして扱われているならば約束は守られないということを・・。
「じゃ・・じゃあ姉は、家族は・・?」
「多分、第二のあなた、もしくはこの前殺されたメイドのような存在・・かしらね。家族については・・きっと悪いようにはしてないと思いたいけど、相手はガスティン侯爵だからね・・。」
ルイザにそういわれたハクは、目の前が真っ暗になった気がした。




