第九話:血祭りにあげたい
バンっ
無言で扉を強く開けたルイザは中に入り、目にもとまらぬ速さで家庭教師の胸倉を掴み上げ、壁に向かって投げ飛ばした。
「ぎゃあ」
ドシンと家庭教師が投げ飛ばされた音が室内に響いた。
シンシアは来るであろう鞭打ちの痛みに目をつぶっていたが、家庭教師の叫び声といつまでたってもこない痛みに何かあると思い、恐る恐る目を開けた。
目を開けるとそこには鬼の形相で立っている母、ルイザの姿が目に入った。
「な、何!何なの!ひぃ!」
家庭教師は起き上がり、誰が侵入してきたのかわからずキョロキョロしていると目の前に怒りで湯気がゆらゆら出ているルイザが立っており驚愕した。
「ああ?何って当然のことだろうが。あんたこそ、私の娘になにしてくれてんだ?」
ルイザは家庭教師の手から落ちた鞭を拾い上げ、床を鞭打ちながら聞き返した。
家庭教師はすぐさま反論した。
「何って!教育ですよ!わからないんですか!」
「はあ?これが教育?ただの脅しだろうが。てめえが優越感に浸れるよう、10歳にも満たない子供に対して脅すことが教育か?あんた本当に家庭教師か?ただのあほなんじゃねえのか?ああ?」
(ルイザ様、怒りで騎士団の頃のオラついた言葉がでてきています・・)
シイナも最初はルイザ同様、怒りで殴ってやろうかと思っていたが、ルイザの裏稼業専門家のような家庭教師への詰め寄りを見て冷静になっていた。
チラっとメイドと騎士を見ると、何か慌てているように見えた。
(あのメイドは最近入ったメイドですね。聞いた通り仕事は疎か・・。この状況であれば基本的に私まで報告が上がるはずなのに・・。そしてエリはいないと。)
騎士の方も見たことのない人物であることにシイナは違和感があった。
(あの騎士は初見ですね。あれもヨハス様の推薦?)
シイナはドアの前に立ちメイドと護衛騎士が逃げられないように退路を塞いだ。
ルイザは家庭教師を睨みつけながらシンシアへ近づいた。
シンシアはビクっとしたが涙を浮かべ、上目遣いでルイザを見た。
「・・お母様・・その・・」
震えながら見上げてくるシンシアをみてルイザはシンシアを強く抱きしめた。
「ごめんね、シンシア。私があなたのこの状況を知らないなんて親として失格だわ。本当にごめんね。」
抱きしめられたシンシアはこらえていた涙がポロリと落ち、ルイザの胸の中で泣き始めた。
「うわああああん、お母様・・」
シンシアを抱きしめる手を緩めることなく、ルイザはシイナに命令を出した。
「シイナ、こいつ等3人を縛り上げて。それから私のアタンとニックも連れてきて。」
「かしこまりました。」
シイナはルイザの命令を聞いてその場であたふたし始めたメイドの後頚部に打撃を与え、メイドは意識消失した。
護衛騎士はそれを見て、
「僕、何もしていないですよ!」
と弁明を始めたがシイナは問答無用で回し蹴りを食らわせ、膝をついた騎士の前に立った。
「シ、シイナメイド長!」
「弁明は後です。腕を出しなさい。」
しぶしぶ、両腕を出した騎士の腕と胴体を縛り上げた。
その後家庭教師も同様に腕と胴体を縛り上げ、
「ふー」
と深い息を吐きながら手をパンパンと叩き、自身についた埃を払った。
実はシイナは元々王家の護衛騎士出身であり、ルイザが当主となった時際、ルイザについてきた腕利きの後輩だった。
メイドとなりあまり人を殴る機会は少なくなったがまだ衰えてはいなかった。
「では、2人を呼んできます。」
シイナはルイザに一声かけ、退室した。
その間シンシアはルイザに抱き着きながら泣き、ルイザも強く抱きしめ返していた。




