第八十七話:レトと男爵
「男爵・・申し訳ないんだけど、この子を匿って・・守ってあげてくれない?」
ルイザはレトを離し、男爵へ声をかけた。男爵は背筋を伸ばして快諾した。
「はい!それは大丈夫です!・・ですが、この子はルイザ様をずっと探していたようですが・・私の所がいいのですか?」
「うん、本当はこちらで保護したいのはやまやまなんだけど、これは男爵にお願いしたい。この屋敷に居たらレトの命が危ないの。」
「え!?命がですか!?」
男爵は驚くが、ルイザは真顔で頷いた。
「分かりました。それでは私の所で保護させてもらいます。」
男爵は真剣な表情でルイザに返答した。ルイザはその返事を聞いた後、レトの方を向き話しかけた。
「レト、聞いてくれる?」
「はい・・ルイザ様。」
「本当は、あなたをここに住まわせて、一緒に修道院の人たちを助けたいと思っている。でもね、ここはあなたにとって危ない場所なのよ。」
「危ない場所?僕はルイザ様と一緒に修道院の人たちを助けたい!」
レトはルイザに今までにない大きな声で意見を伝える。だが、ルイザは悲しそうな表情をして諫めた。
「ここにはあなたが言っていた、変な子がいるの。」
「え!あの子がいるの!?」
レトは驚き目を見開いた。ルイザはゆっくり頷いた。
「その子に、あなたが修道院出身であることがバレたら命が危ないわ。だからあなたは男爵の所で待っていてくれないかしら・・。私が修道院の人たちを助けることを。」
レトはちらりと男爵を見る。男爵は笑顔を作ってレトを見る。その笑顔を見た瞬間レトは床を見て、男爵を見ないようにした。
レトは孤児院に入る前に大柄な男に散々殴られた記憶があり、大柄な男が怖かった。また誘拐犯の黒ずくめの男たちも同様に体格が良かったため、レトの中では大柄な男は怖い人という印象があった。
「でも・・僕怖いんだ・・。男爵様みたいな、男の人・・。悪い人ではないって分かってるけど、なんか怖いんだ。」
ぼそりとレトは呟く。そんなレトの背中を撫でながらルイザは言った。
「私はあなたのことを深く知らないから分からないけど、男爵は今まであなたが会ってきた男の人とは違うわ。だって、あなたのことを助けてくれて、あなたのためを思ってここまで連れてきてくれた。何も持たない1人の男の子をここまで連れてきてくれる人はそう多くないわ。」
「・・・」
レトはもう一度チラリと男爵を見る。男爵は少し照れているようで頭を掻いていた。
「世界には悪い人と良い人の2種類がいるって私も親から聞いたことがある・・。あなたはもしかしたら悪い人にばかり出会ってしまったのかもしれない。でも、これから信じても良いなと思える人を作って、信頼関係を作るのも大事よ。」
「ルイザ様・・。」
「とりあえず、男爵は私のお墨付きだから、信じてみてもいいんじゃない・・?」
レトは男爵の方をしっかり見る。男爵はできるだけ笑顔で答えた。
「私のことが怖いかもしれないけど・・怖くないように心掛けるよ。」
「・・・はい・・僕も・・男爵様を信じてみる・・・。」
レトがおずおずと男爵の方へ向かって話しかける。男爵は嬉しそうに笑いかけた。
「私のことを信じてもらえるのなら嬉しいよ。改めてよろしくね。レト。」
「はい。男爵様。」
レトとフリーダ男爵に今回の件で絆ができたようだった。
「あの、ルイザ様。ここにいると命を狙われるかもしれないと言っていましたが、ルイザ様は大丈夫なのですか?」
レトと握手をした後、フリーダ男爵はずっと思っていた疑問をルイザにぶつけた。ルイザは少し考えたが、フリーダ男爵に伝えることにした。
「前に協力してって言ったこと覚えている?ほらあなたの元夫人の件」
「それはもう覚えています!」
男爵は勢いよくルイザの質問に返答していった。
「ヨハスのことも覚えてる?」
「忘れたくても忘れられない記憶になっています!」
「ヨハス。実はあなたの元夫人以外にも相手がいるのよね。」
「ええええええ!?」
フリーダ男爵は驚いた。その反応を満足そうに見ながらルイザは続けた。
「その相手の子供がさっきレトが言っていた変な子なのよ。色々あって、今ここ、クレアトン邸に養子として来ているのよね。」
「え!それは・・大丈夫なのですか?」
おずおずと男爵はルイザに尋ねる。ルイザはため息をついた。
「大丈夫なわけないでしょう・・今は泳がせている最中よ。これから本格的に叩いていくわ。」
「叩く・・。」
「今回の話で、修道院が燃やされたきっかけがその養子やヨハスがした可能性が濃厚になったから・・それを知っているレトの存在を知られたら亡き者にしようとしてくるわ。」
「確かにそうですね・・。」
「そうでしょ?だからあなたの所で匿ってほしいの。」
「それは私にお任せください。伯爵には、恩がありますから。」
「ふふ。ありがとう。」
男爵は思った以上にルイザのことを信頼しているのが今回の件で分かった。ルイザは自分の味方が他領地に増えた気がして嬉しく思っていた。




