第八十六話:後悔
「ちょっと!頭を上げて!!」
「どうか・・どうかお願いします!修道院の子たちを、シスターたちを助けて下さい!」
「ねえ・・ちょっと!頭をあげてってば!」
「お願いします!」
ルイザが頭を上げる様に伝えるが、レトはずっと床に頭をつけたまま動こうとはしなかった。
「分かった!分かったから!とりあえず頭を上げて・・そして話を聞かせてくれる?」
「・・・本当ですか?」
レトはゆっくり頭を上げ、ルイザを見た。レトはルイザから『分かった』という了承の言葉を聞くまではずっと土下座をするつもりだった。最悪自分がどうなっても良いという覚悟の上での懇願だったので、意外とあっさり話を聞いてくれるんだと思っていた。
「本当よ。あなたがそこまで言うのは理由があるんでしょう?とりあえず、話を聞かせて。あなたはフリーダ男爵の隣に座りなさい。」
「え、僕はここで構いません。」
レトは床を指さす。ルイザは呆れたように言い切った。
「二度は言いません。あなたはフリーダ男爵の隣に座りなさい。」
「はい。」
レト自身、フリーダ男爵のような男を心から許したわけではなかったが、一緒に過ごす中であの黒ずくめの男たちのような人ではないのは分かっていたので少し距離を開けて座った。
「それで・・あなたはどうして私を探していて、何をどう助けてほしいの?」
「はい。話をさせてください。」
レトは少しずつ話を始めた。
「あの日・・雪が降っていたあの寒い日の夜、僕たちが住んでいた修道院に黒ずくめの男たちがやってきました。そして修道院に火をつけ、シスターや僕以外の子供を連れ去って行ったんです・・。もちろん殺された人もいました・・。」
「・・・」
「僕はシスターと共に物陰に隠れていたのですが、火の勢いに追い詰められていました。そんな時シスターは僕に『ルイザ様にこのことを伝え、助けを求めなさい』と言いました。」
「まさか・・」
「僕が今こうして生きているのは、僕を抜け穴に押し出してくれた・・シスターのおかげなんです。それからはルイザ様の所に行って話をしなければと思って生きてきました。」
ルイザはレトがどこの修道院のことを言っているのか気づき始めていた。
レトは十字架のペンダントを見せて言った。
「僕は、ここの修道院の生き残りなんです・・。」
ペンダントを持つレトの手は震えていた。隣に座っていたフリーダ男爵も初耳だったようで驚いた顔をしてレトを見ていた。
「あなた・・あの修道院の・・生き残りなのね・・」
「・・はい。」
「よく!良く生きていてくれた!!!」
ルイザはレトの近くまで行き抱きしめた。レトは罵倒されるとばかり思っていたので驚いた。
「え・・」
「辛かったね。大変だったよね。ここまで来てくれて本当にありがとう・・!」
「う・・ううう」
レトの強張っていた体が少しずつ和らいでいき、瞳から一筋の涙がこぼれた。
「ううう・・」
「ありがとう・・生きていてくれて・・」
レトの背中をポンポンと優しくたたくと、レトは声を殺しながら泣いた。
レトの涙も止まった頃、本腰を入れて話を始めた。
「黒ずくめの男たちは急にやってきました。まるで僕たちの生活習慣が分かっているかのように、短時間だけ開けている扉から侵入してきました。まずはシスターたちを、その次は僕たち孤児を捕まえて荷馬車に連れ込んでいきました。」
「・・・」
「マザーは、売れないと判断したようで・・殺されてしまいました・・。それ以外の人たちは売るために荷馬車に詰められ、修道院は証拠隠滅も含めて燃やされて・・。」
「そう・・そうだったの・・。でもどうして習慣が分かったのかしら。何かきっかけがあったのかしら・・。」
ルイザが考えていると、レトはハッと思い出したかのように話し始めた。
「ルイザ様、きっかけかどうかは分からないのですが・・襲撃前に・・その数週間前から変な子が来てたんです。修道院に。」
「変な子?」
「すごく怒りっぽくて、自分のことをアリスがアリスが!っていう子です。シスターたちががずっと手を焼いていて、皆このことを知っていました。」
「え・・」
「その子の対応でシスターたちは全員疲れて切っていて・・僕たちも手伝いをしていました。『早く迎えが着たらいいね』ってみんなで言ってました。・・でも、その子のお父さんが迎えに来た時、シスターの顔が真っ青になって、震えていたんだ。」
「それは・・まさか・・」
「その後少ししてから、みんな誘拐されたり殺されたりしたんだ・・。僕、あの子がきっかけの1つだったんじゃないかって思って。」
ルイザは怒りでブルブル震えていた。恐れていたことが現実だったのが分かったからだ。
(私が、王家からの連絡がないからと悠長なことを言っている間に、あそこの子たちは、シスターたちは・・。)
「ルイザ様。どうか修道院の人たちを助けて下さい。ルイザ様なら助けてくれるって、シスターが言ってたんだ・・。」
ルイザは無垢な瞳でこちらを見るレトを見て頷いた。
「ええ・・ええ・・ごめんね。こんな不甲斐ない領主で・・ごめんなさい。ごめんね。皆」
「・・?」
レトはよくわかっていなかったが、ずっと謝罪を聞いていた。




