第八十五話:レト
「あああああ!時間が足りないわ!!」
「そうですね、ルイザ様。頑張ってください。」
「うう・・分かってるわよ・・。」
ルイザは自室にこもりずっと仕事をこなしていた。ヨハスに権限を渡さないことになってからは、ヨハスが行っていた仕事の見直しも行っていたからだ。
「私ができるところはチェックしましたが・・やはりルイザ様がしなくてはいけないところも多々ありますからね・・。」
「くそう・・ヨハス腹が立つ・・!」
「抑えてください。ルイザ様。」
昼間の暖かい気候の中、ルイザはずっと机に向かっているのが辛くなっていた。背伸びをしながら窓の外を見ながらボソッと呟いた。
「本当は、乗馬の訓練を開始したシンシアの所に行きたいのに・・。」
「楽しそうに馬に乗っていると聞いていますよ。仕方ありません。あなたは仕事、お嬢様はこれからのための技術を学ばなければいけませんから。」
「そうなんだけど・・・正直私が教えたかった・・。」
ルイザは机に突っ伏す。そんなルイザを見てシイナはため息をついた。
「ほら、ルイザ様。お嬢様と楽しく過ごすために今頑張っているんでしょう?ファイトですよ!ほら、ヨハス様の件についても王家へ連絡をしたじゃないですか!そろそろ返信が来るんじゃないですか?」
「そうね・・・王家からGOサインが出たら私たちの方から仕掛けられるから・・一刻も早くあの顔を見ないようにしたいわね。」
実は約3~4日前にセバスとアタンに頼んで王家への手紙を持って行ってもらったのだ。渡し終えた後は後程王家から連絡を出すとのお言葉のみで、返答は持って帰ってこなかった。
(まあ、すぐに返答がもらえるとは思っていないから・・予想通りではあるんだけど・・)
ルイザは目をつぶり、目頭を押さえる。窓の外、遠くからシンシアのキャッキャとはしゃいでいる声が聞こえてきた。
(久しぶりにシンシアのはしゃいだ声を聞いた気がする・・・。馬を贈って良かったわ。)
ルイザはそう思いながら、雑念を振り切り仕事を再開した。
少し経った頃、ドアをノックする音と共に、セバスの声が聞こえてきた。
「ルイザ様。お客様が来ております・・。」
「お客様・・?事前の連絡なんてなかったんだけど・・。」
「なんでも、フリーダ男爵様と、お連れ様が来ておりまして、急な訪問を許してほしいと言っております。」
「・・お連れ様?」
ルイザはシイナを見た。シイナも誰か分かっていないようだった。
(誰かしら・・。あの家庭教師ではないだろうし・・お連れ様・・?)
ルイザは眉をひそめつつも、セバスに対応することを伝えフリーダ男爵の所へ急いだ。
「クレアトン伯爵!急な訪問申し訳ない!お時間を作って下さりありがとうございます!」
「いや・・大丈夫よ。座って。どうしたの?」
ルイザが談話室に入るとフリーダ男爵は勢いよく立ち上がり、謝罪とお礼を言って90度に腰を曲げた。ルイザが座るように促すと素直に着席した。
「それで・・急に訪問なんてしてどうしたの?」
「はい!それが・・この子のことなんです・・」
フリーダ男爵がすっと視線を窓際にやる。メイドの後ろに隠れ、人を警戒するような目でこちらを見ている少年がいた。
「その子は・・?」
「あの・・私がとある冬の寒い日に道端で倒れていたので保護をした子なのです。保護したは良いのですが・・私のような体格の男には警戒しているようであまり話をしてくれず・・また、何か盛られてるのではと考えてるのか、食事も十分に摂ってくれないのです・・。」
確かに少年は細かった。年齢は不明だが、この様子からすると実年齢より若く見られていそうだ。
「そうなの・・で、どうしてここに?」
「実は、この子はずっと『ルイザ様に会わなければ・・ルイザ様にお伝えしなければ』・・と夜うなされる様に話すのです。」
「え・・私?」
「そうなのです。でも理由を聞いても教えてくれず・・。本当は理由が分かってからお尋ねするつもりだったのですが、この子の方がどんどん衰弱していくので無礼を承知で今日、尋ねさせてもらいました。」
「そうなの・・。」
「ほら・・レト・・この方がルイザ様だよ・・。」
男爵にレトと呼ばれた少年は『ルイザ』という言葉にぴくっと反応した後、ルイザをじっと見た後、メイドの後ろからおずおずと出てきてルイザに話しかけた。
「あ、あなたが『ルイザ様』?」
「え、ええ。あなたが思っているルイザで正しければだけど。」
「・・あなたが『領主様』で『ルイザ様』・・?」
「ええ。私がクレアトン領主のルイザよ。」
レトを安心させるようにできるだけ優しくルイザは笑った。ルイザを見て少しボーっとした後、レトは胸元から十字架のついたペンダントを取り出し、ルイザに向かって走った。
「えっ」
「レト!こら失礼だぞ!」
フリーダ男爵の制止を振り切り、レトはルイザの足元まで来て土下座し、懇願した。
「お願いします!どうか・・どうか修道院の人たちを助けて下さい!」
「「え・・?」」
レトはずっと頭を床につけ、ルイザに懇願し続けた。




