第八十三話:護衛騎士
シンシアはガーデンパーティから帰ってきた後よりずっとハクを自分の護衛騎士として採用していた。ハクは『前』とは違い、死ぬ運命から逃れられた、『前』の自分が知らない人間だった。その人間が近くにいることで『前』とは違うことを毎日実感し安心することができるからだ。
「ハク、今日も護衛をよろしくね。」
「はい。任せてください・・ところで今日はどちらに?」
「今日は乗馬の練習をしようと思って。もうお母様には許可をもらっているし・・実は私用の馬も買ってもらったみたいなの。私も何かあった時に馬に乗り、お母様のように走れるようになりたいから。」
「かしこまりました。」
ハクも貴族に使えるのがさまになってきているようで、敬語もスラスラ使えるようになってきていた。
シンシアが自分の部屋から移動し、馬小屋へ移動している時、遠くから目線を感じた。振り返るとそこにはアリスが立っていた。
(あ・・見たくなかったのに見ちゃったし、目が合っちゃった。)
シンシアは心の中で後悔しながらも、会釈だけして立ち去ろうと思っていた。だがアリスの考えは違ったようで近づいてきた。
「お姉さま、今からどこに行くの?・・いつもとなんか洋服が違うし・・。ズボンを履いているし・・。」
アリスはシンシアの服を上から下まで舐めるようにして見ながら尋ねた。シンシアが乗馬服を着ていたので気になったようだった。
そんなアリスを見ながらシンシアはさらっと返事をした。
「ああ、今から乗馬の練習をするのよ。」
「ええ!馬!?ええ嫌だぁ!馬なんて所詮・・獣じゃない!」
シンシアの返答にアリスは嫌がった。アリスは貴族に憧れており、アリスの中の貴族はいつも馬車で移動する、高貴な人だった。自分から馬などの動物にまたがるなんてありえない、貴族令嬢はそんなことしないと思っていた。彼女にとって全ての動物は獣だった。
だがシンシアはそうは思っていなかったし、早く自分の馬に会いたかったので獣については掘り下げることなく話した。
「・・・獣でもなんでもいいの。私は馬に乗りたいから。」
その返答が来るとは思っていなかったのでアリスは一瞬きょとんとした。
(お姉さまには獣がお似合よ・・)
「ふふ。それなら行ってらっしゃい。気を付けてねお姉さま。」
「・・ありがとう。それじゃ。」
アリスの心の中が透けて見えた気がしたが、そこは触れずにシンシアは歩き出した。シンシアに続いてハクがアリスへ会釈をして通り過ぎようとした。
ハクを見てアリスは驚いた。
(え!タ・・・タイプ・・・!!!)
アリスはハクの三白眼で茶髪の短髪姿がドタイプだった。ゆくゆくは王族あるいは、高位貴族との結婚願望はあったが、本当は今でいうやんちゃな男の子がタイプだった。ハクは少年から青年に変わる途中であり自分と同い年くらいにも見え、結婚相手にはならなくても側に置いておく護衛騎士には自分にぴったりだと思った。
「お・・!お姉さま!」
「なに?」
アリスは去って行くシンシアとハクを叫んで呼び止めた。シンシアは怪訝な顔をしながら振り向く。それと同時にハクもこちらを振り向いた。
「その・・その者は何て言う名前なの?」
「え・・?その者って?」
「その・・そこの騎士・・」
アリスは震えている手でハクを指さす。
「え。俺?」
「(コクン)」
ハクは自分の名前を聞かれているとは思わず、敬語が取れ、一人称が私から俺になった。そんな態度を取ればアリスは怒りそうだが、それでも構わずアリスは頷く。
「え・・えっと、ハクだけど・・?」
「その、ハク・・・はその、お姉さまの護衛騎士なの・・?」
上目づかいでハクを見る。シンシアは少し思った。
(まさか・・え・・一目ぼれ・・とかじゃないよね・・?)
「えっと、そうだけど。どうして?」
「いや!なんでもない!聞きたかっただけ!!」
アリスは名前だけ聞いた後、何かに動揺したようにあたふたしながらメイドを連れて走り去っていった。
「なんなんだ。なんで俺・・いや私の名前を聞いたんでしょうねあの人。」
「・・・・」
そんな様子を見ながらハクはヘラヘラ笑い、シンシアへ話しかけた。シンシアはなんとなく予想をしながら、ジト目でハクを見て答えた。
「どうしてでしょうねえ~。」
「え!何ですかお嬢様!そんな言い方!」
2人は言い合いしながら馬小屋へ向かった。
そんな2人の姿を曲がり角の向こうからアリスはじっと見ていた。
「ハ・・ハク・・ハクって言うのね・・あの人は・・。どうしてお姉さまばかり・・ずるい、ずるいわ・・どうして私にはそういう人がいないの・・。」
アリスは自分の護衛騎士の顔を覚えていなかった。ぼんやりとしか見ておらず、ただの駒だと思っているため、覚える必要もないと思っていた。でもハクは違った。自分の狭いストライクゾーンに入ってきたハクを見てアリスはこの人だけは自分の物にしなければならないと感じていた。
「許せない・・。お父様に頼んでみようかしら・・。」
アリスはブツブツ考えながら父の部屋へ歩いて行った。




