第八十二話:次に狙う者
シイナの冤罪事件があってから、クレアトン伯爵邸には異様な静けさがあった。使用人の誰もがヨハスの暴動ともいえる行動に怯え、できるだけヨハスの目に入らないようにしていた。
寧ろ、ヨハスへの嫌悪感のようなものが使用人の中に出てきているようで、これはルイザに良い傾向だった。
「・・最近、使用人たちがやけに関わってくると言うか、挨拶を今まで以上にするようになったんだけど・・。気のせいかしら。」
「ルイザ様。気のせいじゃないですよ。・・皆知ってるんです。私の冤罪の件と、それで殺されたメイドについて。」
「でもそれでなんで私?」
ルイザは尋ねる。シイナはしたり顔でルイザに伝えた。
「もちろん、ヨハス様の行動から助けてくれる唯一の人はルイザ様だからですよ。」
「・・・!なるほどね。まあ確かにそうよね。でももう代理権は行使できないようにはしているんだけど・・。」
「それでも私たち使用人は彼に逆らうことはできないですからね。」
「そうよね・・早くどうにかしないといけないわ。」
ルイザはため息をついた。これからどうやって泳がして、断罪していくか。またそれについては王族忍耐するガスティン侯爵家の出方についても考えないといけない。王族との連携が必要なことに頭を抱えていた。
「アリス・・様はまた何かして来るんでしょうか。」
ルイザが頭を抱えている中、シイナはボソッと呟いた。その呟きはルイザの耳にも届いた。
「はあ・・そうね、あの子ね・・。辞令を出してすぐには行動しないだろうけど・・注視しなくちゃいけないわね。」
「ルイザ様、今回は私でしたけど・・彼らの狙いはあなたなんですからね!気を付けてくださいね本当に!!」
ルイザがアリスのことを考えてなさそうな返事をしたことに対して、シイナは声量を上げルイザに詰めよった。ルイザも同じ声量で返答した。
「気を付けます!本当に気を付けます!でも私もそうだけどシイナも気を付けてね!!」
「はい。よろしい。私は前回から時間が経ってないのですぐには手を出されないでしょうから・・次はあなたですからね。ヨハス様に権利を与えなかったのであれば、あなたがいなくなったら俺の物って思うはずですから!」
「はい!!気を付けます!」
ルイザは勢いよく返事をした。
「ふんふふーん」
アリスは鼻歌を歌い、次の行動に入ろうとしていた。
ヨハスから聞いた、ルイザ不在時の代理権行使ができなくなったことをどうするべきか考えていたが、やはり方法は1つしかないと確信していた。
(どう考えたってあいつ、ルイザが邪魔でしょ!次はどうするかって決まってるじゃない!あいつを殺す算段を付けて行かなくちゃいけないわ。)
チラリと手元にある書類を見る。アリスは自分の専属メイドの中から1人に目を付けていた。そのメイドはガスティン侯爵に逆らうことのできない、捨て駒にしても良いメイドだった。
(確かこの子は夜目が効くから、夜間の暗殺もできるって聞いたわ。うーん。どうしよっかな・・毒殺は時間がかかるかしら・・でもその方が後始末が楽よね・・。)
アリスはベッドに寝転がりながら考えた。自分が怪しまれない行動をすること・・。
(うーん。でもまあ、バレたらまた前みたいに切ればいいしね。)
アリスは手に持っているメイドの書類の中から1枚引き抜いた。その書類にはハルという名前の三白眼をしたボブヘアの少女の顔が描かれていた。
アリスは早速その少女を呼び出すことにした。
(お父様は今全く役に立たないし、お母様はお父様を気遣ってなーんにも動かない。それなら私がやるしかないわよね。)
ドアをノックする音がし、中にハルが入ってくる。
アリスはハルを見てにやりと笑った。
「お呼びでしょうか。」
「私が命じた仕事をしてたのに、急に呼び出してごめんね。ちょっとお願いがあって。」
ハルを近くまで呼び寄せる。
ハルはなんとなく嫌な予感を感じながらも前に進み出た。
「お願いがあるの。あなた・・聞くところによると夜目が良く効くらしいわね。」
「・・そうですが・・」
「ふふ。私って夜外に出れないじゃない?それに、最近警備も厳しくて何も、有害な薬なんて簡単に手に入らないし。」
「はい、確かに警備は強化されています。」
「でも・・あなたなら・・やれるんじゃない?」
「え・・」
ハルが動揺する。その表情を見逃すことなく、アリスは下から舐める様にしてハルを見て告げた。
「あなたこれから夜、警備の目を潜り抜けて毒を入手するの。良い?できれば即効性があるのが良いわ。あの女を殺さないとこの伯爵邸は乗っ取ることなんてできないもの・・。」
「っ!・・あの女というのは・・?」
「まだあなたは知らなくて良いわ。」
アリスはプイっとそっぽを向き、まだ計画については詳しく話そうとしなかった。その様子を見てハルは感じていた。次は私の番だと。この女は、いや、この人だけではなく、ヨハスも含めガスティン侯爵の派閥の者たちは皆私たちのことを捨て駒だと思っており、次成功してもしなくても、切られるのは私だということを分かってしまった。
ハルがまだ返事ができないでいるとアリスが怪訝そうに目を向けてきた。
「・・なーに?できないって言うの?」
「・・・いえ。少しお時間をください。警備の目をすり抜けるには私にも時間がかかりそうなので・・。」
アリスはその返事を聞いて納得したようだった。
「分かった。私優しいから待っててあげる。よろしくね。ハル。」
「・・はい。」
返事をしたハルの目は暗かったが、アリスはもう興味をなくしていた。




