第七十九話:2人の思い
ルイザが色々苦戦していた頃、パトリックとエリックは馬車に乗って辺境伯領への帰路についていた。
(綺麗な空の色だなあ・・)
エリックは馬車の窓から外の景色をぼんやり眺めていた。王城に来る前のどんよりとしたモノクロに見えていた色とは違い、今はなぜか空の色が色鮮やかでキラキラ輝いているように見えていた。
「エリック、ここに来る前と何か表情が違うな。」
急にパトリックから声をかけられ、エリックはビクっとした。
(そういえば、父上と一緒だった・・忘れてた・・。)
「そ・・そうですか?父上。」
「うん、全然違う。なんかこう、表情が明るいな。顔色も良いし。一体何があったんだ?」
「え、そんなに違いますか?」
エリックは自分の顔をペタペタ触った。
(何も変わってないような気がするけどな・・。)
その様子を見たパトリックは何かに気づいたようににやりと笑った。
「・・そうか。もしかしてエリック、恋でもしたのか?」
「え?恋?」
「そう。恋。ほら、今日会ったお嬢さん、シンシア嬢。恋だよ恋。思い出したらこう胸がきゅんとかならないのか。」
「!」
ボン!
エリックはシンシアのことを考えると顔が急に熱くなり頭がボンと爆発したような気がした。
そんなエリックを見てパトリックはフフと声に出して笑い始めた。
「良いね良いね。俺もあのお嬢さん気に入ったんだ。・・頑張れよエリック。シンシア嬢はきっとモテるだろうからなぁ。」
「恋って僕ですらよくわかっていないのに・・父上・・。誰にも何も言っていないし、今日会ったばかりなのに・・。なんですか、その目。ニヤニヤ笑うのやめてください。」
エリックは顔を赤く染め、上目遣いでパトリックを睨む。パトリックはニヤニヤしながら答えた。
「いやあ。自覚なしだった初恋かあ。甘酸っぱいなあ。いいねえいいねえ。」
「ううう。やめてって言ってるのに・・!」
ニヤニヤしながら見られているのを分かっていたので、エリックは横を向き、また景色を見始めた。日が暮れ、空に一番星がキラキラ光っているのが見えた。
(ああ、また会える時は・・もう少しカッコいい自分で会いたいな。)
一番星を見ながらエリックはそう思っていた。
シンシアは自室で日記帳に勢いよく何かを書いていた。
今と『前』で違うことを書きだすことで今後のことを予測できないかと考えたからだ。
昨日のことを書くために、昨夜起こったことを思い出し始めていた。
昨日のルイザが馬に乗って去って行った後、自分も早めに到着できるよう馬車を飛ばして帰った。家に着くと、恐ろしいほどの静寂が待っていた。
「・・どうしたんだろう。」
「ちょっと様子を見てきます。」
護衛騎士の1人が、様子を見に中へ入って行った。シンシアはハクと共にどこへ行くべきか迷っていた。
(シイナが罪を着せられたって言ってたから・・捕らわれてるなら地下牢かしら。でもお母様が助けているならば地下牢にはいないかもしれない。それならばお母様の部屋・・?)
そう考えている時に先に様子を見に行った護衛騎士が帰ってきた。
「お嬢様!執務室で何か起こっているようです!」
シンシアはその報告に頷いた。
「ありがとう。いまからお母様の執務室へ向かいます。ついてきて。」
「分かった」
(何があってるのかしら・・)
騎士たちを連れ、シンシアは進みながら考えていた。丁度執務室への廊下に着いた時、執務室前を右往左往しているメイド、サキの姿が見えた。
「・・どうしたの?」
「!お・・お嬢様!どうかわたしを中に入れてください!」
シンシアが声をかけると、サキは泣きそうな表情になり土下座をし懇願した。一体何なんだと思いながらもシンシアは膝をついてサキに尋ねた。
「・・まずは簡単でいいから話を聞かせて。」
「はい・・。すみません・・。実はシイナ様が冤罪をかけられ、処罰されそうになっていたんです。それをルイザ様が止めて下さったんですが・・。」
「・・」
「シイナ様が冤罪であるという証拠が必要なのではと思い、伺ったのですが、話の途中に乱入することができず・・どうしようか迷っていたんです。すみません。バーンと入れたらいいんでしょうけど・・意気地なしで・・。」
シンシアはルイザの執務室の入口である分厚いドアを見る。中からは何かを感情を込めて話している声が聞こえており、一介のメイドが入れない雰囲気であることは分かった。
「良いよ。一緒に行こう。私も中に入って様子を知りたいと思っていたの。それに冤罪の証言をしてくれるのはとてもありがたいわ。」
「ありがとうございます!お嬢様!」
そうしてサキと一緒に中に入ったのだが、その後のことは前述の通り。冤罪であることは分かったものの、メイド1人が首を切られ絶命するという、後味の悪い者だった。
(『前』にはアリス側の使用人がこうして死ぬことは無かった。寧ろ、この時はシイナが殺されていたわ・・。これは『前』とは違う未来をつくることができるという確信も得れた。)
シンシアは日記帳に書きながら思い起こす。
(それに、ガーデンパーティであんなに知り合いを、友達を作ることもなかった・・。)
シンシアは窓の外を見る。春の陽気と涼しく感じられる風を受けながら、前と違うように進んでいる今世について思いを馳せた。エリックのことはぼんやりと思い出していた。




