第七十五話:トカゲの尻尾切り
(誰かしら・・)
ルイザはこのタイミングでの入室者に疑問を感じつつ返事をした。
「誰?」
「お母様、私です。シンシアです。中に入っても良いですか?」
「・・シンシア?良いわよ中に入って。」
ルイザは少し考えたが、シンシアなら何か理由があるはずだから入れて良いだろうと思い入室許可を出した。
シンシアはルイザの許可を得た後、1人のメイドを後ろに連れて入室してきた。
「シンシア、無事帰ってきてくれて良かったわ。それでどうしたの?」
「先ほどみんなと帰り着きました。
到着した時に1人のメイドと会い、話を聞いたので私もここに来たんです。」
シンシアは自分の背後に立つメイドをルイザが見える様に立ち位置をずらす。そこに立っていたのはシイナの部下のメイドだった。
「あなたは・・」
「ルイザ様、すみません。先ほどお嬢様に無理をお願いしてここに入らせてもらいました。あの・・メイド長が無実の罪で処罰されてしまうのかと思うといてもたってもいられず・・。」
「そう・・。無実ね・・。それはどうして思ったのかを教えてくれないかしら?」
「はい!」
メイドは笑顔で答えた。
「実は聞こえてきたんです。メイド長が1人で紅茶の準備をして毒殺未遂でとらえられたということを・・。」
「・・」
「でも、私はこの目で見たんです!メイド長は1人で準備をしていなかった。もう1人、メイドと一緒に準備をしているところを!」
ルイザはちらりとアリス付きのメイドを見る。顔色は悪く、先ほどまでは焦りで顔が赤くなっていたが今は真っ白になっていた。
(これは・・もう言い逃れはできないと思っての表情かしら・・)
ルイザは冷静に観察をしながら証言を聞いていた。
「メイド長が毒薬を盛るなんてありえません!もし仮にメイド長が暗殺をするならば、正々堂々と真正面から向かって行くと思います!」
証言をしたメイドは目をキラキラしながら話した。
「いや、私暗殺はしませんし、それは暗殺とは言わないから・・。」
シイナは証言をしてくれた嬉しさはあるものの、まさか自分が暗殺をするならばの仮の話をされるとは思わず、つい突っ込みを入れてしまった。
「あ、つい。すみません。
ルイザ様。メイド長と今までずっと一緒に仕事をしてきましたが、こんなことする人ではありません。私は部下としてずっと見てきました。それに、1人で紅茶を準備しているところは見ていません。ここの屋敷に残っていた使用人全員に聞けばもっと証言が出るのではないかと思います。」
「・・ありがとう。あなた名前は何て言うの?」
「はい!ルイザ様!私はサキと申します!」
シイナの部下のメイド、サキは笑顔で自分の名前を申し出た。
「サキ、証言をするのは怖かったでしょうに。勇気を出してくれてありがとう。
シンシアも連れてきてくれてありがとう。」
「いえ、家に着いたら、メイドがうろうろ困った様子で歩き回っているのが見えたので声をかけたのです。私はよく状況を分かってはいませんが、少なくともシイナはそういうことはしないと思います。」
「ありがとうシンシア。」
(これは・・もう終わりだ。シイナは処罰することはできない。それにこのままいくと僕の立ち位置も不安定になってしまう・・。もうこのメイドを身代わりにするしかない・・!)
ヨハスはサキが証言している間ずっと言い逃れについて考えていた。1人で紅茶を準備していないという証言と、シイナの部屋はルイザの部屋と繋がっているという事実確認不足だったことで、シイナの冤罪が確定しそうになっていた。もう言い逃れはできないと確信していた。
マリサも同様に考えており、じっと後ろからヨハスを見ていた。
ヨハスはキッとメイドを見た。
「お前!僕をだましたな!」
「・・ヨ・・ヨハス様・・そんな!!」
「黙れ黙れ黙れ!」
「!」
アリス付きのメイドも気づいていた。もうヨハスもマリサも自分を守ってはくれないということを。自分は見捨てられたということを。
(でも・・私は・・私が死んだら・・私の家族は一体どうなるの・・。)
チラリとルイザを見る。ルイザの目は暗く見え、増々恐怖感が出てきた。もうどうしようもないと思った。
(正直に伝えれば・・家族は助かるのかしら・・。)
メイドはそう思った。だがこの場で話すのに勇気がいるため口を開くのが遅くなってしまった。
「ルイザ!僕はこの者からシイナのことを聞いたんだ!こいつが悪い!」
「あっ」
メイドはヨハスに押し倒され、勢いよく床に転がされる。ヨハスは自分の後ろにいる騎士たちへ向かって大声で話しかけた。
「こいつを切れ!」
「「はい!」」
騎士たちはサッと前に出てきて剣を抜いた。
話を聞く前に剣を抜くとは思っていなかったため、ルイザは止めた。だが、ヨハスには迷いがなかった。
(こいつが生きて、何かを話そうしたら僕たちの計画はダメになる。それだけは避けたい!こいつを殺せば!!)
「ひぃいい!」
「ちょっと!やめなさ・・」
アタンやルイザが止めに入ろうとしたが遅かった。
ザシュっという音がし、騎士たちはサッとメイドの首を落とした。
「きゃー!!!」
マリサの悲鳴が上がる。
首を切られたメイドの身体から血がドバドバと出てきて、執務室はひどい惨状になった。
「シンシア見ちゃダメ!」
ルイザは叫んだ。シンシアはその場で動けなくなっており、サキがシンシアの目を隠すように抱きしめていた。
ヨハスとマリサは心の中でホッとしていた。自分たちの責務をこのメイドの命を使って回避することができたからだ。




