第七十三話:当主代理と当主
「!!」
(先ほどの声は!ルイザ様!!)
目の前の塞がっていた道が開けた気がしてアタンは顔を上げた。だがルイザの声に構うことなく、騎士たちはアタンを切りつけてきたため実際に見えたのは剣先だった。
「ぐ!」
アタンは剣先を避けたが、もう1人の攻撃が少し肩をかすり、怪我を負った。
ヨハスたちはルイザに気づいていないようでアタンを攻撃していく騎士を見ながらニヤニヤ笑っていた。
アタンは攻撃を避けながら叫んだ。
「ル・・ルイザ様!!」
「・・え?ルイザ・・?」
アタンが叫んだ名前に体をビクっとさせたヨハスは、焦りながらチラチラ周りをみた。
(う・・嘘だろ?もうすぐで僕の計画は完璧だったのに・・・。シイナだけではなく、騎士団2人も処分できるはずだったのに・・)
ヨハスが焦っている間も命令を聞いている騎士たちはアタンを攻撃する。
(・・攻撃をやめないのなら・・ルイザ様も来ているしもういいだろう。正当防衛だ。)
アタンは攻撃を仕返し、騎士たちを動けないように切りつけ失神させた。騎士たちは動かなくなった。
その間にカツンカツンと地下牢の中を歩く、反響した足音が近づいてくる。ヨハスはビビりあがり、鳥肌がたっていた。
(も・・もうすぐだったのに・・)
浮かれ切っていたヨハスは自分の恐怖心を払拭することができなかった。《《いつも》》の自分であれば、取り繕うことは簡単であったが、それができなくなっていた。不意打ちに弱かった。
ゆっくり後ろを向くとそこには怒りを露わにしたルイザが仁王立ちで立っていた。
「ねえ・・ヨハス。これって一体どういうこと・・?教えてくれない?」
「・・・はひ・・。」
ヨハスは恐怖で声が裏返った。
(これはやばい。ヨハスしっかりして!)
マリサはビビりあがっているヨハスを見て焦っていた。
マリサには計画があった。シイナの処分については貴族を毒殺しようとしたという、正当な理由がある。そのため仮にこの状況を見られて、処分自体を中止させられても後の計画には問題はないと考えていた。ヨハスには堂々と正当な理由で行っていることを主張してもらえれば良かった。
だが今はヨハスは借りてきた猫のように縮み上がっている。ルイザに見られてしまったといたずらがバレた子供のように・・叱られるのを、処罰されるのを怖がっている人間にしか見えない。
(かくなる上は・・)
マリサはヨハスの前に躍り出た。
「ルイザ様!よろしければ私から状況をお伝えしてもよろしいでしょうか!」
「・・・・良いわよ。許可する。」
「はい。」
マリサは自分たちの行動は正当性があるということを織り交ぜながら今までの経緯を伝えた。
「・・つまり、シイナがアリスを暗殺しようしたので、貴族殺害未遂の罪として処分する方針だった。その際にこの騎士団長たちがヨハスに反逆をしたため騎士団2人もそろって処分することにしたってことで良い?」
「はい。そうです。御覧の通り、伯爵当主代理であるヨハス様の意見を遮り切りかかってきました。」
ちらっとルイザはアタンを見る。
アタンの周囲には気絶した騎士が3人、腕から血を流している騎士が2人倒れていた。アタンは必死にディーンの止血をしている最中だった。彼自身、肩に傷を負ったようで、彼も血を流していた。
「・・・そう。で?」
「・・?」
「意見を遮って切りかかってきたってことでしょう?仮にそれが本当だとして・・ディーンは?」
「はい?」
ルイザはディーンを見る。ディーンは背中に傷を負っていた。
「ディーンが反逆しているのであれば、背中ではなくアタンのように戦って傷を負っているはずよ。でも彼は背中に大きな傷を負っているみたい。あれは誰かを庇ってできた傷ではなくて・・?」
「・・・」
「いつも騎士団には言っているの。逃げるのではなく立ち向かうことが騎士道であると。彼は特にその騎士道を気に入っている人で、少なくとも反逆するような人ではないわ。それは私が管轄している騎士団だから分かる。」
「・・・」
マリサは何も言えなかった。騎士団の騎士道なんて知らないし、実際にシイナを庇ってできた傷だったからだ。
「あなたは所詮使用人だものね・・。私は直接ヨハスに聞くことにするわ。」
マリサから目を話し、ルイザはヨハスを見る。
「・・ヨハス。あなたは伯爵代理として実行したのよね・・それは私が今日・・遅くとも日が変わる前には帰ってくるのを分かったうえで行動に移したのね。」
「・・・そうだよルイザ。」
「私、もう帰ってきたから、代理はいらない。私が当主よ。経緯を証拠も含めて教えて。」
「・・分かった。」
ヨハスは今回のシイナ処分計画は失敗に終わったことが分かったので、素直にルイザの指示を受け入れた。
ルイザはその姿を見ながら自分の後ろからついてきたメイド達に指示を出した。
「この3人を解放して!治療させて!」
「「「「はい」」」」
一旦全員地下牢から出ることになった。




