第七十二話:戦い
「おい!お前・・何を・・!!」
ヨハスは焦っていた。計画ではもう今の時点でシイナは死んでいる予定だった。なのに邪魔が入り、計画は長引き、シイナはいまだに生きている。
(地下牢に来るときは日が暮れていた。ガーデンパーティは日が暮れる前に閉会になっているはずだから・・もう、ルイザは近くまで帰ってきている可能性が高い!この状況をルイザに知られれば間違いなく計画は頓挫。これから自分たちも動きにくくなるのは目に見えている。早く殺さなくては・・!)
ヨハスはマリサをちらりと見た。マリサはヨハスからの目線を感じながらも第一の作戦は失敗に終わりそうなことを案じていた。
(これだと、この人を殺すことは不可能に近い・・。となると私が動くしかないのかしら・・。)
マリサが考え込んでいることを勝手に解釈したヨハスは勢いよくアタンに飛びついた。
「おい!僕はクレアトン伯爵なんだぞ!なんで言うことを聞かないんだ!シイナは貴族の子供を殺そうとしたんだぞ!これは極刑だろう!!騎士を見たことないとか言っている場合ではないだろう!」
「ヨ・・ヨハス様」
アタンの視線がヨハスに移る。騎士へと向けられていた殺気が消え、騎士は動けるようになった。
「おいお前!今だ!殺せ!」
ヨハスはアタンの腕にしがみついたまま発狂したように叫ぶ。
「・・分かりました!」
騎士はスッと下げていた剣をシイナの喉元まで上げ、振りかぶった。
(終わった・・!)
ヨハスや騎士への対応で騎士団2人が時間をうまく作ってくれていたが、もはやこれまでなんだと、シイナは目を瞑った。剣が自分を切り殺そうとしているのは分かっていた。切り殺される覚悟をした。
「だめだ!」
その時、ディーンの叫ぶ声が聞こえ、ドンッという自分の身体にぶつかる鈍い音とが聞こえた。押し倒された衝撃で自分の口をふさいでいた布が外れ、息が自由にできるようになった。
「ごほっ、ゴホゴホっ・・」
「ディーン!!」
目を瞑り噎せていると、アタンの悲痛な声が聞こえる。目を開けると自分の上に倒れこんでいるディーンの背中から血がにじみ出ているのが分かった。
「・・え!ディーンさん!」
「・・・ぐ」
勢いよく振り下ろされた剣はディーンの背中を斜めに切っていた。幸いにも深くは無いようだったが、団員服が血でじわじわと赤く染まっていき、出血はひどい状況なのは分かった。
「ディーン!」
アタンはヨハスの腕を振り切り、ディーンに駆け寄った。その姿を見たヨハスはニヤッと笑い騎士たちに命じた。
「騎士団長、副騎士団長は主であるクレアトン家に逆らう気であるようだ・・。もういっそ、2人とも処しても良いのでは・・?さっきから何度も僕がしようとしたことを邪魔してきて!!もういい!切ってしまえ!」
「・・!」
アタンは咄嗟に剣を取り、防御の形をとる。
ヨハスはその姿を見て笑った。
「剣を抜いたか・・。本当に反逆になるな・・。よし。やれ!」
ヨハスの周囲にいた3人の騎士が剣を抜き、アタンにとびかかる。アタンはディーンとシイナを守るため、防御を中心に切ることはせず、蹴って騎士たちを近づけないように戦った。
ヨハスはニヤニヤしながら見ていた。
(こうなればルイザに近しい3人の使用人を一気に殺せるということだ。僕はなんてラッキーなんだ。)
アタンは苦戦していた。3人を失神させたが、更にヨハスの後ろから騎士が出てきて自分へ切りかかってくる。自分の体力が削られて行っているのを感じていた。少し隙を見せると、足をかけられ騎士が首を狙ってくる。防御すると胴体を蹴られ、うずくまってしまった。
「ぐっ」
ずさぁと音がし、うずくまりながらも応戦の形をとる。だが騎士たちはそれを好機ととらえ、2人がかりで剣を振り下ろしてきた。
(もう、厳しいかもしれない)
剣で1人の攻撃を抑えようとした時、地下牢に大きな音と、ぱあっと光が入ってくるのが分かった。
「おい・・一体何してくれてるのよ!お前ら!!!!」
それは待ち望んでいた自分たちの主の声だった。




