第六十七話:王族
「嘘!あなた!え!?お、王族なの!?」
「え、うん、一応・・。本当に言ってなかったかな?」
「き・・聞いてないわよ・・。」
ルイザは一歩引いてカイフェンを見ていた。カイフェンはあっけらかんとしながら話し続けた。
「あれーそっか。騎士団の時は皆、名前でしか呼ばないからかな?平民もいっぱいいたし。貴族の人たちもそんなに気にしてなかっただろ?」
「・・まあ確かに。でもなんで騎士団に・・?」
カイフェンは少し間を置いてから話し始めた。
「ほら、俺王族ではあるけど小さい時から、王として国を統治するっていう気は全く起きなくて・・。どちらかと言えば、パトリック兄のように肉弾戦が好きでさ。でも父上は俺を辺境には送り出したくなかったみたいだから、王国騎士団の中に紛れて過ごしてた。ここの方が、まあ父上としては安心みたいな。」
「・・王国騎士団員もまさか、王子が王城を警備しているなんて思わないし、穴場と言えば穴場よね。」
「ふふ、まあそういうこと。上の人だけ知ってるよ。」
さらっと国の事情を話し始めるカイフェンにルイザは頭が痛くなるような気がしていた。
「俺とエリックもまあ似てるでしょ?分からなかった?髪の毛の色とか。俺は体格は父上似、髪の毛の色は母上似。現王である兄上は体格は母親、考え方とか髪色とかは父上似。皆似てるようで似てないというか。王の血は濃いな。」
「分かりやすいわね・・。ありがとう。」
ルイザは現王、パトリック、カイフェンを思い出す。現王は金髪金眼、やせ型の長身。パトリックは紫の髪色に群青色の瞳、体格はがっちりしている。カイフェンは紫の髪色に金眼、体格がっちりの男で、兄弟なんだなと改めて考えていた。
そんな二人の会話を聞いていたシンシアは『前』のことを思い出していた。
(この人・・見たことがある・・。)
カイフェンを、『前』に見ていたのだ。ルイザの葬儀が終わり、埋葬されたあの雨が降り止まなかった日。シンシアが泣いていると、一人の男が黒いマントを着てこちらに来たのが分かった。墓に刻まれた名前を見て立ち尽くしているように見えた。
その人は濡れるのをいとわず、ただただ墓をじっと見ていた。顔にはキラっと光る金眼が覗いていて、その目からは涙が流れているのか、ただの雨なのか分からないくらいずぶ濡れだったのを思い出した。
家のメイドがシンシアを無理やり墓から剥がし、連れていかれてもずっと雨の中立ち尽くしていた。あの後その人がどうしたのかはシンシアは知らない。でも一緒にルイザの死を悲しんでくれているとは思っていた。
(この人だったのか・・。)
結局その人にそれ以降会うことは無かったので忘れていたのだが、今日会って思い出した。ルイザと軽口を叩けるほど親しい間柄なのが分かり、やはりその死を悲しんでくれていることを改めて思った。
(この人は、きっとお母様のことを大切に思っているのね。)
シンシアはそう思いながら2人を見ていた。
「ルイザ!」
「!」
カイフェンとルイザが話していると皇后が再びパーティ会場にパトリックを連れて現れた。現王との会話が盛り上がったのか、顔は少し高揚しているように見える。
「こ、皇后陛下・・。」
「なんか楽しそうに話しているじゃない。・・あっシンシアちゃん!」
急に話を振られたシンシアはビクっとして皇后を見上げる。皇后は上目遣いにシンシアに見られ、ニヤッと笑う。
「かんわいい~!ほんとにかんわい~!私が男だったら嫁に迎えたいくらいよ・・。」
「!!」
急に皇后に抱きしめられてシンシアは目を白黒させた。
「ちょっと!皇后陛下!」
ルイザは陛下を止めようとしたが、皇后はシンシアを抱きしめながらくるっと回ってシンシアを取り戻そうとするルイザを避けた。
シンシアは何が何だが分からなかったが、抱きしめられるがままになっていた。
そこへボソッと皇后が耳元で話しかけた。
「ルイザにも言っているけれど、何かあれば私たちを頼って良いからね。」
「!」
シンシアが上を向くと、皇后は笑顔でこちらを見てウィンクをしていた。
「ありがとうございます・・。」
「いいのよ。私は政治的にも個人的にもあなたたちのことが好きなんだから。」
2人がダンスをしているようにくるくる回っているのを見ながら、ルイザはため息をついた。
「こうなるかもしれないと思っていたのよ・・。」
ルイザは皇后がシンシアを溺愛し始めるのではないかと思っていた。そしてそれは見事に当たったのだと痛感した。
シンシアは社交界に顔を売るのが一番の目的で参加していたが、パーティの終わりに他貴族に遠巻きに見られ、噂を建てられるほど顔を知られることになるとは思っていなかった。




