第六十三話:エリックとの出会い
「うーん・・どこにいるのかなあ。」
ルイザたちが話し合いをしている頃、シンシアは辺境伯の次男を探していた。
「目印は俺と同じ色の髪の毛と瞳!って言っていたから、あの紫の髪の毛を探し出さなくちゃいけないんだけど・・。」
独り言を言いながらパーティ会場を練り歩いた。会場には男の子は見当たらなかったので、今は会場を取り囲んでいるバラの庭園に来ている。
庭園は入り組んだ迷路のようになっていて、色とりどりの薔薇を見ながら歩くのは楽しかった。でもその男の子らしき人は見当たらず、シンシアはため息をついた。
「はあ。お母様の友人だから承諾しちゃったけど・・早計だったかしら。」
スピードを緩めトボトボ歩いていると、庭園の真ん中に女神像を模した噴水があった。目の前にベンチもあるため休憩場所にはもってこいだと思った。
「あそこで休もう。」
噴水の近くまで来ると、何かのセンサーに反応したのか水が勢いよく噴射口から出てきて綺麗な虹を作っている。
「うわあ、綺麗・・。」
シンシアがその虹を見ていると、水に透けて紫色の丸い何かが噴水の反対側にいるのが見えた。
「あれ?もしかして・・。」
シンシアは噴水をぐるっと回ると、そこには体を小さくして座っている一人の男の子が地面をいじいじしているのが見えた。
「ねえ、君!」
ビクッ
急に声をかけられた男の子は驚きで肩を震わせ、キョロキョロ周囲を見渡した。そしてシンシアが自分に近づいて生きているのを気づき、ハッとした表情を作った。
「・・僕のこと・・?」
「そう。ねえ、あなた、ここで何をしているの?」
急に尋ねられ、キョトンとする。
「え?」
「私はクレアトン伯爵家の長女、シンシアっていうんだけど・・お名前を教えてもらえませんか?」
シンシアは男の子と目線を合わせるために膝をついて手を差し出した。
「え?」
「あなたのことを教えてよ。こんなところで1人座ってないでさ。一緒に話そう?話し相手になってよ。私の。」
「え・・う・・うん・・。」
(同い年くらいの人にそんなことを言われるの初めて・・。)
声をかけられた少年は少しモゴモゴしながら差し伸べられた手を握った。自分の手を握ったことを確認したシンシアは勢いよく手を上にあげる。
「うわああ!?」
「えへへ」
釣られた魚のように、無理に立ち上がらせられた少年は目を白黒させつつも体勢を整えた。
「び、びっくりした・・。」
「えへへ、ごめんね。ここ涼しいけど、ずっと座っていると寒くなってくるでしょう。洋服も汚れちゃうし。パーティに一緒に戻ろうよ?」
パーティに戻るという言葉を聞いて少年は少し俯いて黙った。
「・・・・」
「・・もしかしてパーティに戻りたくない?」
「・・(コクン)」
少年は無言のまま頷いた。シンシアは考えていた。
(多分この人が、あの辺境伯が言っていた次男なんだろうけど・・。なんでこんなに内気なんだろう?まあ何かされていたのなら仕方がないかもしれないけど・・。)
「・・そしたらベンチに移動しない?ずっと地面に座ってるとお尻が冷たくなっちゃう。それならいいでしょ?ほら、行こう?」
「・・うん」
再度シンシアに差し伸べられた手を少年は握った。シンシアはそれを確認するとゆっくり歩き始め、先ほど通過したところにあるベンチへ向かって行った。
「それであなたのお名前は?私はシンシアって言った・・よね?」
「・・うん。聞いた。ぼ・・僕の名前はエリック。エリック・デレクシアス・・です。」
(合ってた!やっぱり辺境伯の息子!)
シンシアは心の中で自分の堪が当たっていたことにホクホクしつつ、話を進めた。
「なんであんなところに1人でいたの?折角パーティに来たのに。」
「・・・だって・・」
「だって?」
「・・人の目が、怖いんだ。」
「え?」
「だって僕、ヒョロヒョロなんだろ?」
「え?」
シンシアは少年の身体を見る。確かに他の令息たちと比べて体の横幅はないが、やせ細っているわけではない。少し小柄ではあるが、そこまで気にすること程度ではないと思った。
「僕は、いろんな人の目線が怖い。君とか、今日参加しているご令息たちみたいな、しっかりした体が良かった・・。」
グスンと目に涙を浮かべながら話す。
シンシアはイラっとしていた。精神年齢は18歳くらいと自分で思っていたが、身体はまだ子供だったのか、思ったことがつい、口から出てしまった。
「別に、あなたの体つきを悪いと思ったことはない。男の子はこれからが成長期でしょう?仮に今が少し瘦せていたってこれからご飯をしっかり食べて、鍛錬をしたら体格だって変わるじゃない!」
「えっ」
シンシアの怒涛の話が予想外だったのかエリックは目を白黒させる。シンシアの話は止まらなかった。
「あなた辺境伯の人なんでしょう?羨ましいわ。私は女だから、騎士には簡単になれないし、鍛錬をしても男の人以上に力が強くなることは・・きっとない。まだあなた何歳くらい?10歳くらい?これからじゃない!ずるい!ずるいわ!なんて贅沢な悩み!!」
「ええええ」
シンシアはルイザのように騎士になりたいと思ったことが何回もあった。クレアトン家の騎士団の練習に混じって色々してみたけど、他の騎士のように筋肉もうまくつかないし、騎士団の人からは筋肉がつきすぎないように練習量をセーブされることもあった。その時の悔しい気持ちが、エリックの恵まれた環境を羨ましく思った時にあふれ出てきてつい言葉として口から出てしまった。
矢継ぎ早に話すシンシアにオロオロするエリック。そんなエリックを無視してシンシアは話し続ける。
「私がこう思っているなんて知らないでしょう?ほかのご令息たちもそうかもしれないわよ。それこそ今はあなた自信がないかもしれないけど、本当はあなたのことを羨ましいと思っている人なんて沢山いるかもしれない!勝手に決めつけているのはあなた!あなたよ。」
「う・・・」
「全く。一体誰にそんなこと言われたんだが・・。真に受けるのも変よ。」
シンシアに言われた内容はその通りな気がして何も言えなくなった。




