第五十九話:挨拶
パーティの出席者が乗っているであろう馬車の列が少しずつできていく。連なる馬車の先には王城が見えてきていた。青空の下に白く輝く王城はとても綺麗だった。
「わあ、あれが王城なんですね!綺麗。こういう風に見るのは初めてです!」
「そうよ、あれが王城よ。・・昔の思い出が蘇ってくるわ。」
2人は各々感想を言いあいながら手前にある王城の門をくぐった。
「シンシア、少し良いかしら。」
「どうしたのお母様。改まって。」
「・・皇后のことなんだけどね、知ってるとは思うけど私は昔、皇后の専属護衛騎士だったわ。そして、その皇后を救ったことで今の伯爵の爵位を頂いたんだけど。」
「はい。それは知っています。」
シンシアはきょとんとしながら話を聞いていた。
「自分で言うのもあれなんだけど、私すごく皇后に気に入られているのよ。」
「そ、そうなんですね。」
いつになく真剣な表情のルイザを見ながら、シンシアは頷きながら聞く。
「あなたは、ヨハス似っていうよりは私に似ているわよね。」
「はい。それが・・?」
「彼女お気に入りの私の子供で、似ているシンシア。皇后がどんな反応をして来るか分からないのよ。もしかしたら急に抱き着いてくるとか、そういうこともあるかもしれない。事前に伝えておくわ。皇后と会う時は心の準備をお願いね。」
「・・・?はい・・?」
(そんなことなさそうだけどなあ。お母様ってば変なの。)
返事はしつつ、シンシアはそう思いながら近づいてくる王城をじっと見ていた。
ルイザは自分が伝えたことを本当の意味で理解されていないと分かっていたが、まあいいかと思った。
(私は伝えたし・・。まあ悪い意味ではないしね・・。)
ルイザも青空の下に君臨している王城を見ながら一人思った。
「「「お待ちしておりました。クレアトン伯爵様、ご令嬢様。」」」
「ありがとう。さあシンシア。気を付けて降りて。」
馬車はパーティ会場の手前で止まり、王城のメイドと執事が出迎えてくれた。ルイザは先に降り、手を上にあげシンシアが手を掴むのを待っている。シンシアはおずおずと手を取り、ゆっくりと地面へ足を着けた。そして目線を前に向けた。そこには花のアーケードがあり、使用人たちが頭を下げて待っているのが見えた。
「うわあ・・」
「パーティは向こうみたいね。行きましょう。まずは皇后への挨拶ね。」
「はい!」
シンシアは笑顔でうなずき、花のアーケードをくぐった。
くぐった先には円卓が複数あり席1つ1つに花がそれぞれ置いてある。花壇にはチューリップ等春を彩る花々が咲き誇っている。周りは庭園になっているようで、色とりどりの薔薇が迷路のような道を作っているのも分かった。
「すごい、綺麗・・。」
「そうね、綺麗。香りも良いわね。・・あっそうだった、見とれてる場合じゃなかった。見られているわ。皇后に。」
「あっはい!」
皇后は奥の席に座っていた。ルイザは入ってからすぐ刺さるような視線を感じていた。それは皇后だけではなく、その後ろに立っているカイフェンのものもあった。
(うげえ・・。今は皇后だけで手いっぱい。)
ルイザは心の中で思いながら皇后へ近づいていった。
「皇后さま。招待ありがとうございます。クレアトン伯爵、ルイザとその娘、シンシアが挨拶をさせていただきます。」
「うん。待ってたよルイザ、そしてシンシア・・?」
皇后は表情を崩すことなく2人に目を向ける。
シンシアをじっと見て言った。
「シンシアはルイザの小さい頃にそっくりだね。・・かわいい。私に息子がいたら嫁に来てほしいな・・。」
「・・・まだシンシアにはそういう話は早いです。」
「まあまあ。ところでルイザ、まずはパーティを楽しんで。その後、カイフェンがあなたを呼びに来るから、その時にまた昔話でもしようか。」
皇后はウィンクをする。
(昔話ね、つまり私の謁見内容を聞きたいということか。それにしてもカイフェンが呼びに来るのか・・。)
「はい。分かりました。」
ルイザも表情を崩すことなく返事をする。皇后と話している間、皇后の後ろに立つカイフェンの何とも言えない強めのオーラが気になって仕方がなかったが無視した。
「それにしてもルイザ、そのドレスはコルセットがないんだな。ふむ・・いいドレスじゃないか。私もコルセットは正直好かん。そのドレスはどこで作ったんだ?」
「私の領地の仕立て屋、職人たちでございます。・・良ければ一着送りましょうか?」
「そうだな。よろしく頼む。」
皇后が大きめの声でドレスを褒めだす。聞き耳を立てていた周囲の貴族がざわつき始めた。
「皇后さまがドレスを褒められたわ・・コルセットを使っていないみたいよ・・!」
「羨ましい!私もうきつくてきつくて・・。この美味しそうなケーキをお腹の中に入れられないくらいきつい・・。」
「私も・・・あのドレス良いわ。コルセットを付けないであんなにウエストがキュっとなるならいいわよね。それにしてもシンシア伯爵令嬢は本当にルイザ様にそっくりでかわいいわね。」
(ドレス、凄く注目を浴びている。良かった。)
シンシアは心の中で喜んでいた。その喜びは表情に少し出ていた。
少し遠巻きにシンシアとルイザを観察していた貴族たちはその笑顔にきゅんと来ていた。




