第五十五話:リメイク
「お、お嬢様・・!」
「・・・破れちゃったね・・。」
シンシアはドレスを触りながらポツリと口から言葉が漏れたように呟いた。ドレスは腰ひもだけではなく、腰回りも一部破けていた。この状態ではこのドレスを着て行くことはできなくなった。
「このドレスは本当にお気に入りで・・これを着て行きたかったのに・・。」
シンシアはショックを受けていた。このドレスはルイザと共にお揃いで着ると決めていたドレスで、『前』を含め初めて自分自身で最初から選んだものだったからだ。
その様子を見ていた仕立て屋はずっとその破れた部分をどうにかできないか考えていた。そしてひらめいた。
「・・お嬢様。もしかしたらこのドレス、何とかなるかもしれません・・・。実は丁度同じ素材のものを持ってきていたんです。これをどうにかすれば行けると思います。」
「えっ」
「最初と全く同じとはいきませんが・・。」
破れた部分を隠すため、スカートを少し引きあげる。その下に広がるスカートを少し短くすることになるが、そうすることで中のレースがしっかり見え、年相応のかわいらしさが出てきていた。
「そしてこの素材を使って腰の部分にボリュームを付けると・・どうでしょうか!?」
「わあ・・!」
仕立て屋は持ち込んだカバンの中から薄紫のシフォンを取り出した。この追加の素材を使って腰ひもではなく大きくふんわりとしたリボンを作り、破れた部分に重なるように工夫した。それが更にこのドレスの可愛さ、繊細さを目立たせていた。
「かわいい・・・!前より良いかも・・・ありがとう・・!」
「お嬢様、お礼なんて良いんです。そのために私は今日来たのですから・・。それに私、感動いたしました。」
「え?」
仕立て屋は穏やかに笑いかけた。
「先ほどアリスお嬢様が転倒された時、私はドレスにしか目が行かなかったんです。こんなこと言ってはいけないんですけどね・・。でもシンシアお嬢様は、ドレスのことより彼女の身体のことを気にされていました。大人の私でも、咄嗟に自分のこと、自分の作品のことしか考えられなかったのに、お嬢様は相手のことを考えて行動されていて・・。」
「・・・」
「そんなお嬢様のドレスです。私に任せてください。必ず、綺麗にしますから。」
「ありがとう・・。あの、あなたのお名前は・・?」
「お嬢様、私の名前はキリエと申します。お名前を聞いていただけて光栄です。」
(キリエ・・どこかで聞いた気がする。この人は・・。)
どこかで聞いた名前だったが思い出せなかった。考えているとキリエが頭に疑問符をつけてみているのに気づいたので、シンシアはふわっとキリエに笑いかけた。
「キリエ、本当にありがとう。本当に・・感謝している。」
「お嬢様。こちらこそありがとうございます。」
シンシアの部屋には穏やかな空気が流れていた。
「・・・ありがとう。エリ?だったかな。もう、部屋に着いたから大丈夫だよ。」
「ですが、医者がまだ来ていません。」
「・・大丈夫。ほら、マリサ・・・さんもいるから。」
「ああ、マリサ様もいらっしゃるんですね。」
シンシアに言われた通りアリスの部屋まで付き添っていたエリは前を見た。目線の先にはマリサがヨハスと話している姿があった。目線に気づいたマリサはアリスを見て少し驚いた表情を見せた。
「ど、どうされたのですか?」
「マリサさん・・。アリス、転けちゃったの。これからお医者さんが来るから、一緒に付き添ってくれる?」
「え、ええ。エリさん、変わります。さあ、お嬢様、私に掴まって。」
「じゃあエリ、ありがとう。もう帰っていいから。」
アリスはスッとエリの腕を離し、差し出されたマリサの腕を握る。その動作は滑らかで、怪我の痛みに耐える様子は全くなかった。
そのままエリを廊下に残し、マリサとアリス、そしてヨハスも一緒にアリスの部屋の中に入っていった。
「・・・。」
エリはその様子を無言で見送った後、シンシアの部屋へ帰っていった。
「アリス、どうしたの?転けたって言ったけど。」
「あ、あれね。あれはわざとなの。さっきシンシアの部屋まで行ってきて、試着中だったドレスを破ってきちゃった。」
「「え、えええ?!」」
アリスの爆弾発言に2人は裏返った声を出して驚いた。
「だって、私が行けないのに、あの子が行けるなんておかしくない?それならいっそ、あの子も行けなければ良いと思って。パーティ用のドレスが無くなれば行けなくなるって考え付いたの!
正直私よりもあの子が優遇されるなんて嫌だし。今の状況だって不満なのに・・。私だって娘なのよ!この差はおかしいでしょ。」
アリスはソファに座ってふんぞり返る。2人は少し考えた。
(確かに、あの方の作戦としてはシンシアを悪者にしてアリスを目立たせる。後々伯爵家にふさわしい娘はアリスしかいないという風に思わせる必要があるから・・。シンシアが完璧な姿でパーティに行くのは困るわ。アリスは流石ね。)
(アリスは指示を出さなくても色々考えてやってくれるからありがたいな。)
「そうか。アリスは賢いな。そこまで考えていたのか。父の分までありがとう。助かるよ。」
「うんうん。アリス、ありがとう。これであの方の作戦に1歩近づいたわね。」
「うん!アリス、あの場でもしっかり泣いてきたから。アリスが悪く言われることは無いよ!・・ただ、思ったよりあの子、我慢強くてアリスのことを怒ってくれたら悪評を言いふらせたんだけどさ、怒らなかったんだよね。まあ、これはしょうがないか。」
アリスは口を尖らせながら話を続ける。
「あ~アリスも早く社交界に出たい・・。」
「大丈夫。きっと今度は行けるさ。それこそ、あの方のパーティも開催されるだろうし・・なんならここで開催しても良いしさ。そこはちょっとルイザに相談しなくちゃいけないけど。」
「うん!お父様ありがとう!楽しみ~!!!」
3人は仲良く笑っていた。
呼ばれた医者は中から笑い声だけが聞こえてくるので、ノックをするか否か廊下で迷っていた。
(・・ケガをしたのではないのか・・?)
意を決して中に入ったが、特に治療する部位はなく、すぐに帰されることになった。




