第五十四話:破る
「どうしてアリスは行けないの!!!」
アリスは自室で叫び、大きなテディベアや枕をヨハスやマリサに投げつけた。ヨハスはそれを避けながら宥めた。
「ア、アリ、アリス。こ、今回は仕方がないんだよ。皇后さまのパーティは呼ばれた人しか行けないんだ。これは有名な話で、ルイザが意地悪しているとか、僕が説得できなかったとかそういう話じゃないんだ。これは仕方がないんだよ!」
「そ、そうよ、アリス。今回は我慢よ。」
「それにほら。あの2人がいない間に、君の専属メイドもこちらで決めてしまえばいい。あの4人の中から選んでいいからさ。あの方の派遣メイドなら、なんでもできるだろ?」
「・・・・・・」
アリスはどうしても理解できなかった。皇后にシンシアは呼ばれたのに、どうして自分が呼ばれない、ということに。
(私だってクレアトン伯爵家の娘よ。養女であろうと、娘は娘。お父様を呼ばないのはいいとして、なぜ同じ娘でも分けるわけ?)
アリスは怒っていた。自分ではなくシンシアがパーティに行けることに・・。同じ娘であり、その場を奪い取る予定の彼女が行けて、自分がいけないということに。それならいっそ、同じように行けなければ良いのに・・。
(そうだ!いいこと思いついた。これであの子は行けなくなる。それならラッキーだわ・・。)
アリスは投げつける手を弱めた。その瞬間、抱きしめ投げられないようにしながら宥めてくる両親に見えない角度でほくそ笑んだ。
シンシアは自室で、メイドと共に以前仕立てた薄紫色のドレスを試着し、最終調整をしていた。コンコンとドアをノックする音がする。
「はい」
「お姉さま、中に入ってもいいですか?」
アリスだった。シンシアは少し考えた後どうぞと中へ入って良い許可を出した。
「えへへ。お姉さま、今度ガーデンパーティに行くドレス決めるんでしょう?楽しそうだからつい見に来ちゃった!」
「・・そうなの。もう時間もないからね。ずっと着たかったドレスを着ていこうと思って。」
シンシアが動くと、フワっと試着しているドレスが動作に連動するように舞い上がる。その姿はまるで妖精のようだった。
「・・うわあいいなあ。アリスも近くで見たい!」
「・・いいよ。汚したりしなければ。」
シンシアは少し警戒しつつも優しい姉を演じている手前、釘を刺しつつ近くに来て良いと伝えた。アリスは嬉しそうに近づいてくる。
「あっ!」
「!」
アリスは何かに躓いたように転けた。転ける前にアリスが伸ばしたその手は、シンシアのドレスの裾を腰に巻いてある紐を掴み、そのままブチブチッと音を立てながら倒れた。
ドシン
「「きゃあああああ」」
シンシアの側についていたメイドと仕立て屋が叫んだ。
「っお嬢様!・・ドレスが・・!!!」
「いやああ、ド、ドレ、ドレスが・・・!!」
「っ・・どうしよう・・。」
「・・・・・」
頭上で慌てふためくメイド達の声と呆然としたシンシアの声が聞こえる。その声に満足しながらアリスはゆっくり起き上がった。
「痛たた・・。ごめんなさい、転けちゃった・・。あっ」
起き上がった後、今気づいたようなふりをして手に掴んでいる腰ひもと破れたドレスの一部を出した。
「あ・・」
口に手を当て、困った表情を作り出す。
「ど・どうしましょう。お姉さま・・わざとじゃないんだけど・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・どうしましょうアリスのせいだわ・・ごめんなさい。」
アリスは目に涙を浮かべながらウルウルと謝罪を繰り返す。
(ここでこんなに謝っているアリスを怒ったら、お姉さまの評判も落ちて、アリスの評判が上がるわ。丁度外部から仕立て屋が来ていることだし・・。それに、パーティ用のドレスが無ければお姉さまは行けなくなるでしょう。一石二鳥だわ)
(どうせ、私の評判を落とすことと、パーティに行けなくなるようにすること。2つ達成できるラッキーくらいに思っているんでしょうね。)
シンシアはアリスが考えていることが手に取るように分かっていた。『前』はもっとズタズタにされたこともあり、今回のアリスの行動は可愛かった。ただ、今回のドレスはとても気に入っていた為ショックはショックだった。
(お気に入りだったのに・・)
ハア、とため息をつきながらシンシアはアリスに伝えた。
「大丈夫?ケガは無かった?・・・ドレスより、あなたのケガの方が心配よ。ほら、ゆっくり立って・・。」
シンシアはアリスと目線を合わせ、手を差し出す。
アリスはその対応に驚きながらも手をそっと差し出し、立ち上がらせてもらった。
(え、なんで怒らないの・・?)
アリスは困惑した。そんな困惑しているアリスを余所に、シンシアはメイドに指示を出す。
「アリスがケガをしているかもしれないから、自室に連れて行って医者を呼んであげて。私はこの格好じゃ出れないから。」
「お・・お姉さま・・。」
「アリス、わざとじゃないのは分かっているわ。何かに躓いちゃったのね・・。これから医者を呼ぶから安心して。エリ、お願い。アリスを自室へ連れて行ってあげて。」
「分かりました。さあ、私と一緒に行きましょう。痛いところはないですか?」
エリと呼ばれたシンシア付きのメイドが出てきてアリスを支える。アリスは特にけがをしたわけではないので支えられながら歩き始めた。
(こ・・こんなはずじゃなかったのに・・。)
アリスは悔しがりながらも、エリに支えられながら自室へ戻った。手にはずっとシンシアの腰ひもを握っていた。




