第五十三話:招待
沢山の禍根を残した冬も終わりを迎え、雪解けが始まり、暖かい気候を迎えた。
修道院が燃やされた後から今まで、アリスは特に暴れることもなく記憶喪失という設定を守っているようだった。
「春が来たわね・・。やっとあの雪から解放されるのね。」
「そうですね。ルイザ様。でもほら、春になると動きやすくなるのは私たちだけではありませんから・・。十分注意していきましょ。」
「・・そうね、シイナ。ありがとう。」
窓を開ける。外から温かい風が優しく入ってくる。
ルイザはその温かさを体で受け止めながら、今までのことを振り返っていた。
修道院が燃やされたという報告を受けた後、ルイザは騎士たちを連れその現場まで行き、現場検証を行った。だが生存者はおらず、何かされたという証拠も見つけることはできなかった。
近くの村まで行き、詳細を知っている人を探してみたが、誰一人おらず、村へ逃げてきた人はいないことだけしか分からなかった。
実際に現場で見たのは老婆たちが結ばれていたであろう支柱の縄の跡だけだった。ルイザはその跡をみて思った。
(何てむごい・・本当に申し訳ない。これは・・彼女たちは巻き込まれただけの被害者である可能性が高いのに・・。
そしてその2人しか亡骸がないのはおかしい・・。ヨハスたちを早く何とかしないと・・。)
修道院の件があった後、何か行動するのではないかと身構えていたが、意外とヨハス、マリサ、アリスにメイド達も冬の間は息を潜めるかのように行動しなかったので、その行動後を突くことができなかった。
偵察のニックも何も報告することがないと嘆いていた。
(シイナの言う通り、春になると動き始める可能性が高いから、注意しておこう。)
「ルイザ様。先日届いた手紙のことですが・・。」
「あ。ああ・・あの皇后からの手紙ね。」
「ガーデンパーティで会いましょうって書いてありましたよね。その時に謁見ということで間違いないのでは?」
「そう。そうね。私もそろそろ動かなくちゃいけないわね。」
「それならそろそろ準備をしたほうが良いのでは?」
ルイザが物思いにふけりながら気の抜けた返事をすると、即効でシイナが準備を進めてくる。ルイザはあっけにとられながらも、身を引き締めた。
「・・そうね。そろそろ動かなくては・・。これ以上被害がでないように・・。」
冬の間に送っていた皇后への手紙の返信が先日届いた。そこには春にガーデンパーティを開催するからその時に会いましょうという旨と、娘のシンシアを連れてきてほしいという内容だった。
(あの人・・シンシアを見てどういう反応するのかしら・・。そしてヨハスたちはどうするべきか・・。)
皇后の手紙にはルイザとシンシアを招待する旨しか記載されておらず、彼らは招待されていなかった。そのことを話すのは・・
ハアと大きなため息をつく。そのため息の意味を察したシイナは優しく話しかけた。
「大丈夫ですよ・・。私たち使用人を侮らないでください。ルイザ様たちが居なくても、奴らを監視はできますし。心配しないでください。」
「そうね。ありがとう。助かるわ。」
「ルイザ様は、皇后さまと絶対に話をしてきてくださいね。・・それと、アリス様の悔しい顔が見たいので、堂々とガーデンパーティの話を彼女の前でしてください。」
「・・あなたもなかなかいい性格になってきたわね。」
「ええ。」
シイナは悪い笑顔をルイザに向けた。ルイザは少し呆れながらも頷いた。
「シンシア。今度皇后のガーデンパーティに招待されたの。今日一緒に準備をしましょうか。」
「お母様!私も行っていいの?」
「ええ。皇后はあなたも連れてくるようにと言っていたわ。それにお昼の開催だから。あなたと同じ年代の子も来ているかもね。シンシア、同年代の友達ができるかしれないわ。」
「本当?嬉しい!でも、ドレスはもう決めているから新しいドレスはいらないわ。初めての社交の場は、前に一緒に作った薄紫のドレスにするって!!」
「良いわね!そうしましょう!」
ルイザとシンシアが朝食終了後に和気あいあいと話をしているのを、アリスは聞き耳を立てて聞いていた。
アリスはこの冬、我慢し続けていた。
(修道院が燃えたことで心がスカッとしてよかったけど・・。ルイザに好かれるようにいい子で過ごすのは大分疲れたわ。でも、お父様とお母様がこの冬は我慢の冬だって言ってたから・・。)
アリスはデザートを食べながらイライラしていた。
(でもなんで、ルイザはこんな良い子な私を誘ってくれないの?ガーデンパーティに!!私も娘でしょ!)
そんなアリスを見て、ヨハスが2人に声をかける。
「ルイザ、今度皇后さま主催のガーデンパーティがあるんだって?勿論僕たちも行くんでしょう?僕らもドレスとか決めなきゃいけないよね?」
「ああ、言っていなかったわね・・。ごめんなさい。今回皇后が招待したのは私とシンシアだけなのよ・・。皇后が呼ぶ人は限定されているから・・。」
「え!そうなの?」
「!!!!」
ヨハスがルイザに尋ねた時、アリスはワクワクしていた。自分も行けるのではないかと。もし行けたら、他の貴族の人と話して・・綺麗なドレスを着た自分をどこかの金持ちの貴族が見初めてくれるのではないかと期待していた。
けれどそれは叶わなかった。
(え・・どうして!なんで私はいけないの?)
アリスがその返事に呆然としている間にも話は進んでいった。
ヨハスは皇后のことについて知っていたから、特にルイザに反論することは無く、返答内容に納得していた。その点についてもアリスは腹が立った。
「まあ、また機会はあるし・・。今回は私たちだけ参加することになるから。ごめんねヨハス。その日は家のことをよろしくね。」
「・・そっかあ。まあ仕方ないか。」
ヨハスはポリポリ頭を掻きつつ、了承した。
ルイザがちらっとアリスを見ると眉間に皺を寄せた顔でデザート用のフォークを握りしめていた。アリスはそのまま動くことは無かった。
(お父様、もっと反論しなさいよ!!なんでそこで押さないのよ!!)
ギリギリと歯ぎしりをしているアリスを余所に、ルイザとシンシアは朝食の場から立ち去った。
シイナはアリスが悔しがっている姿を見て喜んでいた。




