第四十九話:特別なもの
「なんでアリスが我慢しなくちゃいけないのよ!なんであの女が泣くのよ!!!」
「アリス・・落ち着いて・・」
自室に着いたアリスは叫んでいた。
部屋に置いてあった大きな熊のぬいぐるみをベッドに叩きつけ、肩で息をするほど興奮している。鼻息は荒くフーフーと少し離れたところにいるマリサまで聞こえてくる。
アリスはキッとマリサを見て、その腕の中にある普段着を奪い取った。
「くそくそくそくそ!こんなんじゃなかった!私がもう少しで手に入れられたのに!あのドレスはこんなんじゃなかった!!!!」
「アリス!やめなさい!どちらにしても今服は無いんだから!これを着て我慢するべきでしょう!!それに王都の有名なデザイナーが作ったって言ってたじゃない!」
アリスが乱暴に普段着を手に取ったのでマリサは焦った。
(今、問題を起こすとアリスは追い出されるかもしれない!それだけは止めないと・・!)
アリスの腕にマリサは抱き着く。アリスはそんなマリサを見た後少しずつ気持ちを抑え始めた。
「・・そうだね。有名なデザイナーって言ってたもんね。それにお父様が新しいドレスを作ってくれるって朝言ってたから・・それができるまで我慢する。絶対、あの子よりも派手で、豪華で、綺麗なドレスを作ってやるんだから。」
「そうね・・そうしましょう。」
マリサはホッとしてアリスの腕から離れた。もらった普段着を丁寧にドレッサーへ掛けていく。
その時、ヨハスがアリスの部屋へ入ってきた。
「アリス、マリサ。大丈夫かい?」
「ヨハス・・」
「お父様!!ひどかったんです!あの子・・私にあのドレスくれるって言っておきながら泣き始めたんです・・!私が悪者になりました・・」
アリスは小走りでヨハスの所まで行き、グスンと泣きまねをする。
ヨハスは頭を撫でながら宥めた。
「そうか、辛かったなあ。でも今回はあのドレスはな・・特別なものみたいだからな・・。ごめんな。」
(特別なもの・・)
「・・はい。我慢します。お父様がドレスを作ってくれるって言ったから。それで我慢します。アリスは偉い子ですから・・。」
ヨハスはギクっとした。
(そういえば、朝アリスに新しいドレスを作ってやるって言ってしまった。これは仕方がない・・。)
そっとアリスを見る。そして意を決して伝えた。
「アリスごめん。実は先ほどの騒動で、シンシアにドレスを作ってあげることになったんだ。まだ例の作戦も進んでない今、僕たちの関係を怪しまれると困るから・・だからアリスのドレスはもう少し先になるんだ。ごめんな。」
「・・・え」
アリスの表情は固まった。
ドレスさえ作れるならいいやと気持ちを切り替えていたのに、それが作れないと言われたからだ。
「え・・お父様・・え・・」
「アリス・・ごめん。そしたら僕、仕事があるから行くな。今日はあの方と会う約束をしているんだ。」
「アリス。今日明日じゃなくても、ドレスを作ってもらえるのだからいいじゃない。今は我慢よ。
ヨハス。あの方によろしくお伝えください。」
「ああ。ほら、アリスが消したいって話していた修道院のことも伝えておくからさ。これで我慢してくれ・・。ごめんなアリス。」
ヨハスはそう言い残してアリスの部屋から出て行った。
アリスはその場に立ち尽くしていた
(クソ!あの女・・クソ!絶対あの特別って言っていたドレスをアリスが取って見せる!)
アリスの頭の中はシンシアで頭がいっぱいだった。
「はぁ~。シンシアとアリスのことで頭がいっぱいで仕事が手につかなかったけど、これで安心ね。」
「そうですね。ルイザ様。そしたらもう腹をくくってください。」
「・・」
ルイザはシイナ、セバスと共に執務室へ戻り、書類と向き合っていた。
シイナがさっとレターセット一式をルイザに手渡した。
「ルイザ様。今、先に一報連絡しておくべきです。わかっていらっしゃるでしょう?」
「・・分かってるわよ・・。」
ルイザはため息をつきながらレターセットを受け取る。今まであったこと、知ったことから、自分は皇后と連絡を取るべきなのは分かっていた。
(でもなあ・・あの人の今の護衛・・苦手なんだよなあ。)
皇后はルイザのことを好き過ぎていた面もありその点は皇后自体若干苦手であったが、更に苦手な相手がルイザが退いた後に護衛としてついたため、輪をかけて会いたくなくなっていた。
(この手紙を出し、謁見許可が出たらあいつにも会うことになるだろうからな~嫌だなあ。)
「ルイザ様。」
「分かってる分かってる。」
今度はセバスに言われ、ルイザは腹をくくった。
手紙に皇后への簡単な四季の挨拶と、謁見したい旨を書き記した。
「ふぅ・・これでお願い。」
「分かりました。」
セバスが手紙を受け取り、サッと手紙を出しに出て行く。
その姿を見送った後ルイザは頭で腕を組み、執務室の天井を見上げた。
(あいつ・・カイフェンは元気にしているんだろうか・・。)
騎士団を退団してから全く会っていない昔の同僚、カイフェン騎士団長のことをぼんやりと思い出していた。




