第四十七話:願望
ふんふふーん
鼻歌を歌いながらアリスは楽しそうに部屋の中で回っていた。
(あの子からドレスをもらえる・・あの貴族から私が、あの子がお気に入りであろうドレスを選んで自分の物にできる・・!
ああ!なんて甘美なんだろう・・貴族から施しを受けるのとは全く違う。施しは貴族がいらないものをもらうのであって、今日はあの子が大切にしている物を奪える・・!!さいっこう・・!!!!)
かわいらしいアリスの顔は三日月のような目に口元は緩んで歪み、まるで悪魔のようだった。
コンコン
ドアをノックする音がする。
「アリス様、開けますよ。」
「はーい。」
中に入ってきたのはマリサだった。
「あなたの専属メイドが決まるまでは私が来るようになりました。ヨハスが厳選してくれるそうですよ・・。アリス、人前ではくれぐれも私をお母様って呼んではいけませんよ。」
「分かった。じゃあ、お母様のことをマリサって呼べばいいの?」
「そうね・・。マリサさんのほうがいいかもしれないわね。優しい雰囲気を出していたほうが良いから。」
「ぶーっ!優しい雰囲気、アリス・・・うますぎてみんな騙されちゃうかも!」
アリスは部屋の中心で笑った。そんなアリスの姿を見ながらマリサも微笑んだ。
「あ、シンシア様から洋服の準備ができたと連絡がありましたよ。行きましょうか。」
「いえーい!あの子からお気に入りの服を奪ってやる~!」
2人は少し浮かれた様子で部屋を出て、シンシアの部屋へと向かった。
「シンシア様、アリス様が来ました。」
「・・そう、中に入れて。」
シンシアの部屋にアリスとマリサが到着した。
シンシアは中に入れるようメイドたちに指示し、扉を開けさせた。
「お招きありがとうございます。お姉さま。」
「・・どうぞ。」
部屋の中に入ってきた堂々と入ってきたアリスは、シンシアへ簡単に挨拶をした。そしてシンシアの部屋に置いてある調度品を物色し始めた。
丁寧に整理整頓されているであろう、ウッド調の棚やベッド、机に椅子。棚には所狭しと本が陳列し、彼女の知識欲の高さを思い知らされる。少し奥にはドレッサーがあり少しだけドアが開いている。中には綺麗な配色のドレスが見えた。
(なんか。私と同い年のはずなのになんかこう・・地味?なんでピンクとかいれないのかしら?金あるはずなのに。)
アリスはシンシアの調度品に惹かれなかった。自分の部屋のキラキラしたものが多い部屋の方が良いと思った。
(こっちの部屋の方がちょっと広い気がするけど・・まあ調度品が地味なんだからそれくらいは我慢してやろう。)
「アリス・・洋服なんだけど、私にとっては少し小さいけど捨てるのは勿体ないなって思っていた服があるの。良ければどうぞ。」
じろじろ自分の部屋の中を物色するように見ているアリスを傍目に、シンシアはスッと指を差し、洋服を見せる。その洋服はシンシアが最近まで来ていた白いフリルの付いたブラウスと赤いチェックのスカート、ワンピース等約10着ほどあった。
「確か普段着が欲しいって言ってたよね?」
「はい・・そうです・・。アリス、あまり服を持っていなくて・・。」
見せてもらったワンピースやブラウス、スカートはどれも質が良かった。が、何か嫌だった。
(もう少し、THE貴族!って感じの物は無いのかしら・・。かわいいけど、物足りないわ。)
チラッとドレッサーの中を見るとシフォン素材の薄紫のドレスや黄緑のドレスが見えた。これらはルイザと作り、お揃いになるように以前作ったものだった。
(え!いいのあるじゃん!シンシアより私の方が似合うでしょ!)
アリスはニヤッと笑った後、泣く真似をし始めた。
「アリスどうしたの?」
「お姉さま・・ひどい。これ等よりあれの方が綺麗なのに・・私にはくれないの・・?」
「え・・?」
アリスはスッとドレッサーにかけられているドレスを指さす。
「あの紫色のやつ、とっても綺麗。あれが欲しい。・・どうして私に合わない洋服を与えようとして、自分には綺麗な服を持っておこうとするの・・?ひどいわ。私が養子だからって・・。」
「アリス・・そんなことないわ・・。ただあれは・・私の大切なものだから・・。」
(来た!大切なもの!絶対アリスの物にしてみせる!!)
「うええええん。ひどい・・ひどいわ!」
「・・分かったわアリス・・。ちょっと待ってて。」
シンシアは困ったような表情をしながらドレスを持ってくる。アリスはそれを横目で見ながらにやりと笑った。
思った通りの繊細な造りがされているドレスだった。
(これこれ!これこそアリスにふさわしいドレスだわ・・!)
「ありがとうお姉さま!私大事に着ますから!!」
アリスが手を伸ばし、ドレスを抱え上げようとした。
その時、シンシアが涙を零した。俯き涙を零すため立っているカーペットに涙の痕がぽたぽたとついている。
「グスッグスッ・・。」
「・・・え?」
「いいの・・いいのよ。ごめんねアリス・・なぜか涙が止まらなくて・・。」
「なんなの?お姉さま、何泣いているの・・?」
アリスは急に泣きだすシンシアに戸惑いを隠せなかった。貴族は簡単に涙を見せないと聞いていたからだ。だから泣くことは自分の専売特許だと思っていた。
(なんであなたが泣くのよ・・)
「グスッ・・お母様・・うえええん!」
「えっ」
アリスは慌てた。シンシアが大きな声で泣き始めたから。マリサもどうしたものかとあたふたするがシンシアは泣き止まない。近くに仕えていたレマがそっとシンシアを宥める様子を2人は呆然と見ていた。
バタバタと猛スピードで近づいてくるような音が遠くから聞こえ始めた。
バタン、バン
「シンシア!どうしたの!!」
シンシアの泣く声が聞こえたため執務室から走ってきたルイザと複数人の使用人が部屋へ入ってくる。騒動に気づいたヨハスも少し遅れてシンシアの部屋に着いた。
中にはドレスをアリスに取られて泣いているようなシンシアの姿があった。
「・・お母様・・。」
「シンシア!」
シンシアはルイザの姿を見た瞬間、抱き着いた。




