第四十五話:要望
「お母様!お父様・・!!」
「おおアリス、よく頑張ったな。」
「アリス、偉かったわよ。」
「辛かったです・・!」
アリスにあてがわれた部屋に着いて早々、アリスはマリサとヨハスに抱き着いた。馬車内での道中、ニックに怪しまれないよう、汚いボロボロのワンピースを着て、顔だけではなく足にも泥を塗って、寒いのを我慢して裸足で過ごしていた。記憶喪失というボロが出ないようにするため何も話せず、うつ向いたまま過ごすことはアリスにとって苦痛でしかなかった。
「ニックも全く気付いていないようだった。やはりアリス、君は天才だよ。」
「お父様・・寒かったですぅ・・・本当に。」
「ごめんな。こういった方法しかなくて。でもこれで君はクレアトン伯爵家の令嬢になったんだよ。」
「アリスは嬉しいです!」
アリスはキャッキャとはしゃぎながら自分にあてがわれた部屋の中を歩き回る。調度品が綺麗に整えられており、ベッドも前の家より大きなものが置いてあった。フカフカな布団がある。薪には火がくべられ、寒くないように調整してある。
マリサが入浴の準備を整えアリスの前にやってきた。
「アリス、はしゃぐのは良いですが、まずは綺麗になりましょう。寒かったでしょうし。私が介助をしますよ。」
「はーい。あ、ちょっと待ってお母様。・・お父様。あの、私修道院でひどい目にあったの。あの場では人の目があったから言えなかったけど・・。」
アリスは目に涙を浮かべながらヨハスにすり寄った。ヨハスはアリスを優しく受け入れながら、修道院の話を聞いて驚き、優しい顔を一変、顔を歪ませながら話を聞いていた。
「え!?どういうことがあったのかい!?」
「十分なご飯もらえなかったり、お世話も不十分だったり、嫌な言葉をかけられたり・・散々だったわ・・。」
「そうか・・十分な金は渡したと思ってたんだが。」
「あんなひどい対応をした上に、私たちの関係性も知ってる修道院なんて・・もうああそこにあること自体が嫌です・・!!」
「辛かったんだな、アリス・・。そうだな。そうしようか。《《あの方》》に頼んでみるよ。」
ヨハスの返答を聞いてアリスは表情をコロっと変えた。
(やった!あのウザかった修道院、どうしても許せなかったのよね。私を見る目が悲壮感漂っていたし・・。お父様、チョロくてラッキー。)
アリスは修道院の生活が本当に苦痛で仕方なかった。迎えが来るまでは我慢できていたけど、迎えが来て自分はクレアトン伯爵邸にいる。もう我慢はできなかった。あの修道院を消したい気持ちが強かった。
「お父様!ありがとう!これでアリス、安心できる・・!そしたらこれから入浴してくるね。お父様を頼りになる・・嬉しい!。」
「お父様を頼りにしてくれるのは本当に嬉しいよ。お父様は一旦出るな。今日は疲れただろうからゆっくりお休み。」
「おやすみなさい~!」
ヨハスが退室し、部屋の中にはマリサとアリスだけになった。アリスを風呂に入れながら話を始めた。
「どうなることかと思ったけど、無事に伯爵邸に入ってこれてよかったわね。」
「うん。本当に。アリス、ずっと修道院で過ごすことになるのかとソワソワしていたよ~。せっかく背中を押してくれた侯爵様にも申し訳ないしね~。」
「アリスが頑張って我慢したからここまでこれたのよ。偉いわ。」
アリスはマリサの方を見て不気味な笑みをこぼした。
「・・・侯爵様はこの伯爵邸を乗っ取れって言ってたよね・・?私、あの子になりたい・・あの子みたいな貴族令嬢になりたい。」
「・・あの子っていうと?」
「あのルイザの娘。」
アリスは平然と、ルイザのことを呼び捨てにする。マリサもその無礼な発言については特に咎めることは無かった。なぜなら自分がいずれ、ルイザの立場を奪い取る算段があるからだ。
「あー、シンシア様ね。」
「様なんて、つけなくていいでしょ、お母様。いずれ、私がアリス《《様》》になるんだから。」
「それはそうだけど、いざ何かを話すときに癖になって呼び捨てになってもいけないでしょ。」
「は~い。・・お母様、私本当にアリス様って呼ばれるようになりたい。綺麗な洋服をきて、豪華なご飯を食べて、キラキラした宝石を身に着けて・・」
「大丈夫よ。私がそうさせてあげるから。」
入浴を終えたアリスをバスタオルで抱きしめるようにして水気を取る。今のマリサとアリスの希望は、今のルイザとシンシアの立場を奪い取ることだった。
外は暗くなり、雪が降り積もっている音が少し聞こえる。2人の心は1つになっていた。
「シンシア、大丈夫?気分悪くならなかった?」
「大丈夫、お母様。寧ろ私、何かたぎってきちゃった。」
ルイザの執務室にルイザとシンシア、シイナ、ニック、セバス、アタン、ディーン、暗殺メイドの1人が揃っていた。主要な使用人たちにはシンシアがアリスが何をしに来たのかを知っていることを通達していた為、上記の会話について特に疑問を持たれることは無かった。
「アリス、私のことをじっと見ていたの。すごい顔で。気にしないようにしていたけど・・あれは私の洋服とかそういうのを欲しいって言いだすんじゃないかなって思ってる。」
「そうですね。すごい顔でお嬢様のことを見ていましたよね。正直、8~10歳くらいの女児がそんな顔できるのかと恐ろしくなるくらい。」
「彼女はすごいですよ。馬車の中でも演技を絶やさなかったです。よほど伯爵邸に来たかったのかも・・。」
「うん。俺も見ていたけど、顔の迫力は凄かった。あれは騎士団に入れる顔だ!」
「そういうことはいいんだよ団長。それより今後が大事、でしょ?」
各々言いたいことを言い出すが、一旦落ち着いたところでルイザが話し出した。
「彼女は以前にも話した通り、嵐の目よ。彼女が来たことで前に5人入ったメイドもこれから動き始めるだろうから、みんな十分気を付けて。情報共有はしっかりね。彼女たちは私とシンシアを・・毒などを使って落としてこようとするはず。何かを買い入れる時はしっかり確認をお願い。」
「「「「「はい」」」」」
「私たちの周りの使用人たちを攻撃したり、難癖付けて辞めさせる可能性もあるから、そういう動きがあった時は私に直接伝えて。いいわね?」
「「「「「はい」」」」」
アリスが何を最初にして来るか分からないが、とりあえず、こちら側の対応準備は整った。シンシアは何かをやり返す考えがある様子で含み笑いをルイザに返してきた。ルイザはため息をついた。
(彼女が入ってきたことで、何か大きなことに巻き込まれて行っている感じがする・・)
ルイザの堪はよく当たると有名だった。




