第三十六話:暗殺者は素直
「シイナ様、やられましたね。あの女狐に。」
「マリサがヨハスを庇う可能性は・・少しはあるかもとは思っていたけど・・。かといって、みんな縁起でも庇いたくないって言ってから・・」
「それはそうでしょう。私だっていやですもん。・・まあ今となっては私自身、我慢しておくべきだったと後悔はしていますが・・。」
2人が去った後、シイナとルイザは小さな反省会を開いていた。マリサがヨハスを庇ったことは事実ではある。そのためヨハスが自分の専属かルイザの専属かのどちらかを迫ってくることが予測できるからだ。
「あいつ、言い出したらOKが出るまで言い続けるでしょうし。仕方がないから、ヨハスの専属にするしかないかしらね~。・・ニックが大変かも。」
「・・私が選抜したメイドもつけておきます・・。」
2人が話をしていると、護衛騎士が外から合図を送ってきた。あの合図は暗殺者を生け捕りできた合図だ。その合図を確認し、ルイザとシイナは地下室へと向かった。
「ルイザ様、シイナさん、この者です。」
アタンが縛り上げた暗殺者を地下牢の中に座らせる。暗殺者は自死用の毒薬を口腔内から取られ、それ以外の毒薬持参の有無を調べ上げられていた。暗殺者は年若い少年~青年の年頃で、ルイザが目の前まで近づくと、アタンは彼の口を縛っているタオルをほどき、舌をかまないように特殊な器具を歯につけた。青年はルイザの姿を確認するとキッと睨んだ。
「ルイザ・クレアトン!!!!お前のせいだ!お前のせいで家族が路頭に迷うことになった!物乞いや体を売らなければならなくなったんだ!!!!お前のせいだろうが!!くそ!」
ろれつがうまく回ってはいないが、一方的に憎悪の感情をルイザに吐きつける。ルイザはその姿を見て何か自分にとって悪い噂が流れていることを悟った。
「その私のせいっていうのはなんのことなの?ごめんなさい、記憶になくて。」
「なんだと!!?」
「あなたはここに私を殺しに来たのよね?」
「そうだ!」
「そして私を殺したらどうするつもりだったの?」
「・・口の中に入れた薬を噛めば、一時的に意識を失うがその隙をみて助け出すと聞いた。」
「誰に聞いたの・・?」
「それは・・それは言えない!約束だし。」
暗殺者は意外と素直に話を始めた。裏表のない、嘘をつけないタイプの人間だと分かった。そして自分は自死することを知らなかったことも分かった。
(この子、反応で分かるかも・・)
「それはファートン子爵?」
「違う!言えないって!!」
「カウフマン侯爵!」
「違う!言えないって言ってるだろ!!!」
「じゃあ、ガスティン侯爵・・?」
「ぐあ!くうう!!!ち、違う!!」
((((あたりだ))))
その場にいたシイナ、アタン、ルイザは思った。
「そう、ガスティン侯爵なのね。」
「ち、違うって違うって言ってるだろ!!」
「あなた・・分かりやすいのよ・・」
「くう」
わかりやすいということに覚えがあるのか、暗殺者は黙った。少し涙目になっている。
「あなた、ガスティン侯爵に殺されるわよ。」
「・・え!?」
「あなたが口に入れさせられていたこの丸薬、即死する毒薬ですもの。・・アタン。」
「はい。」
アタンがネズミを捕まえて持ってくる。ネズミの口に丸薬から出た粉を入れると、ネズミはその場で暴れだし、口から泡を吹いて倒れた。一瞬だった。
「・・え?」
「これがあなたが口の中に入れていた丸薬です。人間とネズミの致死量は違うけど、あなたの体内に少しはこの毒薬は入っているわ。」
「・・そ!そんな・・そんなはずはない!これが成功したら、お前を暗殺したら僕たちに住む家を与えてくれるって言ってた・・!!」
「矢だけで死ぬわけないでしょう。毒が塗られているわけでもあるまいし。私は元々騎士なのよ?少なくとも致命傷になる部位に当たらないよう避けることはできるわ。・・・あなたは私に本当の暗殺者を近づけるための餌なの・・」
「・・・・そんな・・そんなはず・・・」
暗殺者は顔を青ざめさせる。ワナワナと震え始めた。
「・・ねぇ、お願い。あなたはどこから来たの?どうしてあなたみたいな若い子がこんなことをしているの?教えてくれない?」
「・・・」
「・・まだ言いたくない?」
「・・(コクン)」
暗殺者はまだルイザへの怒りと戸惑いが収まらないようで、ずっと黙っていた。それを見ていたアタンは軽く背中をこづくが、暗殺者は俯いたままだった。
「・・分かったわ。また明日くるから・・。アタン、この子に暖かい毛布と食事を。もちろん食事中は自死しないように見守っててくれる?その後はもうアタンも休んでいいから。」
「分かりました。」
「明日、また来るから。今日はあなたもゆっくり休みなさい。」
ルイザは暗殺者に声をかけ、シイナと共に地下牢を出た。暗殺者はルイザたちがその場を離れるまでじっと地下牢の石畳を見ていた。




