第三十五話:襲撃
カウフマン侯爵一家との楽しい時間は過ぎていき、夜も更けていった。カウフマン侯爵はワインを沢山飲んだためほろ酔い気分、千鳥足状態になっていた。そんな夫の状態を見て侯爵夫人はため息をついた。
「ルイザ、ヨハス君、シンシア。夫がこんな状態になっちゃってごめんなさいね。久しぶりにあなたたちに会えたことが本当に嬉しかったみたい。」
「お母様・・。私もお母様たちに会えたのとても嬉しいです。手紙ずっと送ってなくてごめんなさい。」
「いいのよ。またいつでも連絡してくれていいからね。もちろん、シンシアからも大歓迎よ。」
「おばあ様・・ありがとうございます。」
「じゃあちょっと、この飲んだくれを連れて行くわね。・・よっと」
夫人はガタイの良い公爵をお姫様抱っこすると客室へと移動していった。夫人もルイザ同様、腕力がある女性だった。使用人たちが慌てながらついていくのをルイザは見守った。
「ルイザ、今日はありがとう。私たちも引き上げることにするよ。楽しかった。」
「ルイザさん。今日はありがとうございます。楽しかったです。また明日。」
時期侯爵であるルイザの兄とその婚約者もカウフマン侯爵夫妻の様子を見て、自分たち用の部屋へと入っていった。
ダイニングにはルイザ、ヨハス、シンシア、シイナ、ニック、セバスと数人のメイド達のみになった。
(とりあえず、今、護衛騎士たちが自分たちの場所についているはず。シイナたちとも情報共有しているから大丈夫なはず。)
ルイザは自室へ戻る前にチラとメイドたちの姿を見た。シイナと目が合い、シイナは無言で頷いたため、ルイザも頷き返した。
「そしたら私たちも今日は休みましょうか。明日、お父様たちをお見送りしなくてはいけないし。シンシアも今日は夜遅くまでありがとう。」
「いいえ、大丈夫です!私も楽しかったです。」
「そうだね、ルイザ。今日は休もうか。」
3人は各々自室へ戻った。
ルイザは自室へシイナと戻り、窓から暗くなった外を眺めた。いつもは遠くの方で鳥の声が聞こえていたのに、今日はシンと静まり返っておりそれが不気味に思えた。色々なことを深く考えないようにしようとルイザは『前』と同じようにくつろぎ始めた。何かを感じたとしても、前と同じように過ごさなければ相手は油断してくれない、同じことをしてくれない。
(これからヨハスとマリサがやってくる・・のよね。)
ルイザはソファに座り、シイナとワインを開けた。
ドアをノックする音がする。ヨハスがドア外から声をかけてきた。
「ルイザ?入ってもいい?一緒に飲みなおさない?」
「・・ええいいわよ。」
ヨハスは前回同様、ワイン、ピーナッツなどのつまみをのせたカートを押すマリサと共に入ってきた。
「ルイザ、今日は僕も気分が良いからこの年代物の赤ワインを開けようと思うんだ。いいだろ?」
「ええいいわね。私も飲みたいわ。」
マリサは2人分のワイングラスを差し出す。ヨハスは目の前でワインを開けるとグラスに注ぎ始めた。その様子をじっとシイナとルイザは見ていた。
「これ、本当においしいって聞いていたから、開けるのを楽しみにしていたんだ。」
「・・香りも良いわね。すごく良い。これはきっと大当たりだわ。」
2人は言葉を交わし飲み進めた。
(ルイザの身体にアルコール成分が回り、酔いが回った時がチャンスだ。それまではワインをたくさん飲んでもらおう)
ヨハスはルイザのグラスが空くとすぐに次のワインを注いだ。それを何回か繰り返した時、窓の外でキラっと光るものが見えた。
(今ね!)
マリサは暗殺者からの合図を見逃さないよう、タイミングを見計らっていた。キラっと合図が光った瞬間マリサはルイザに向かって走り出した。
(来たか)
ルイザは注がれた5杯目のワインを飲んだ瞬間、窓の外から矢が入ってきたのに気づいた。それと同時にマリサが自分に向かって突進してきているのも視界に入っていた。
(同じ轍は踏まない。)
ルイザは軽々と矢とマリサを避けた。そして側に仕えていたシイナがルイザの目の前に立ち太腿に隠していた小刀でその矢をはじき返した。
(私が庇おうと思っていたのに!)
ルイザに避けられたため床にダイブしてしまったマリサは焦っていた。当初の予定の自分がルイザを庇ったことでルイザから感謝され、専属メイドになる計画がダメになるのを感じた。
(それなら、こっちだって考えがある!!)
「ヨハス様!危ないです!避けてください!!」
マリサはくるっとヨハスへ向きなおし、ヨハスを庇うようにして倒れた。
「え!?」
「ヨハス様!外から何者かが矢を打ってきています!危ないので頭を下げてください!(・・ルイザ様は自身で矢を除けました。私はヨハス様を守る献身的なメイドとして称賛されるようにします)。」
「・・!わかった・・!」
マリサとヨハスは小さい声で作戦を変更した旨を話し、2人で床に伏せた。
そんな姿をルイザとシイナは視界に入れつつ、窓の外を警戒し、次の攻撃は無いか確認していた。外から合図があり覗いてみると、あらかじめ調整していた護衛騎士たちが暗殺者が自死する前に捕まえている姿が見えた。
(・・よし!作戦は成功ね!)
ルイザは自分が暗殺計画を未然に防ぐのではなく、暗殺者を生け捕りにする計画を立てていた。そのため矢が飛んでくる時は自分で避け、シイナに庇ってもらうよう調整していたのだ。その計画が順調に進んだのでルイザはホッと息をつき、床に倒れているヨハスへ声をかけた。
「・・もう大丈夫そうよ。ヨハス。」
「・・本当かい?驚いたね・・外に誰かいたのかい?君が狙われてたみたいだけど・・。」
ヨハスはマリサと共にゆっくり起き上がる。
「そうかもしれないわね。・・外に護衛騎士がいるから、報告があるはずよ。」
「・・そうか。護衛騎士がいるなら安心だな。・・それより君!君の名前は何て言うんだい?」
「ヨハス様!私はマリサと言います!」
「マリサか・・。君は自分の身をなげうってまで僕を助けてくれたね。本当にありがとう。こんなメイドが近くにいてくれると僕も・・・ルイザも安心するよ。」
「・・そんなお言葉・・私は当然のことをしたまでですので・・!」
「そんな献身的な君にはぜひルイザの専属になってほしいな・・こうして命をたまに狙われるんだ。」
「まあ・・!」
2人は茶番劇を繰り広げていた。ルイザはなるほど、そういう展開にもっていくのかと思いながらも冷静に告げた。
「専属メイドは手いっぱいだから必要ないわ。とりあえず、この部屋から出て行ったほうがいいと思うから、ヨハス、今日は帰って。」
「・・・そうだね。こんな時に話す内容ではなかったね。明日以降にしよう。後片付けは大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫よ。シイナもいるし・・使用人たちも呼べるから。」
ルイザは2人を追い出した。




