第三十二話:両親からの手紙
新人メイド5人にそれぞれの役割をバラバラに与え、シイナ厳選されたメイドたちを側につけてから数日経った。特に何かをしでかすこともなく、平和に過ぎていった。
「ルイザ様、カウフマン侯爵より手紙が届いています。」
「・・もうそんな時期か。」
もうすぐ1年で一番寒い季節に入る。そんな時、『前』も両親から手紙が届いたことを思い出す。
今まで領地経営の基礎すら学ばず騎士として動いていたから、いざ伯爵領を授かっても何一つできなかったのだ。そんな自分を見て両親から今の執事、セバスの補佐と父自ら赴いてくれ、領地経営についての指導を長期間受けていたのだ。
(両親の手から離れ、セバスからも認められて1年くらい経ったかしら。両親が落ち着いたらまたクレアトン邸に行きたいと話していたのよね。)
その経緯もあり、『前』はルイザの両親であるカウフマン侯爵、公爵夫人、次期侯爵である兄とその婚約者を呼んだのだった。
(そろそろ呼ばないと、心配して乗り込んできそうな気もするし・・前のことは分かっているから呼ぶか・・)
ルイザは両親と兄たちへのクレアトン邸招待の内容を書いた手紙を書き始めた。
(なんで私がこんな下働きをしなくちゃいけないのよ。ヨハスはすぐに自分の担当につけると言っていたけど、全然そんな気配は無いし。先輩メイドは優しいけど一人の時間をあまり作ってはくれないし・・・)
マリサは心の中で思いながらもメイドの仕事をこなしていた。昔ファートン子爵家でメイドとして働いていた経験を活かし、他メイドから怒られることもなく日々を乗り切っていた。
雲一つない青空の下シーツを干していると、この伯爵邸の夫人になりたい気持ちが少しずつ強くなっているのを感じていた。
大きな樹の下に置いていた籠をとりに行くと、樹の影からヨハスが出てきた。
「わっ」
「マリサ、驚いた?」
マリサはヨハスの存在に気づいた後、きょろきょろと周りを見た。先輩メイドもおらず、遠くから騎士団の声が聞こえる程度だ。安心してヨハスに詰め寄った。
「驚いたわよ!・・・・ちょっと!話が違うじゃない!私を側仕えにしてくれるって言ってたじゃない!!」
「ごめんごめん。でもしょうがなかったんだ。君が優秀なメイドだってことは話していたんだけど、他のみんなも優秀だから1人を特別待遇で雇うことはできないって言われちゃってさ。これから何とかするから。」
「・・本当に?頼むわよ。あなた。信じているからね。」
「ああ、信じてくれ。それより、今度ルイザの両親であるカウフマン侯爵たちがここ、クレアトン邸に来るんだ。ちょっとしたパーティをすることになったんだ。」
「!」
マリサはカウフマン侯爵が来ることを驚きつつも喜んでいた。
(ここで自分の良さを十分に出せたら一気に昇格し、伯爵の地位も近くなるかもしれない・・。それに仮にカウフマン侯爵に見初められれば・・・)
「その時に、マリサが優秀であることを見せつければ一気にメイドとしての地位もあがって、あの計画を作動できるチャンスが来るかもしれない。」
「・・あの計画ね。私が伯爵夫人になれる・・あの計画・・」
「失敗はできないからさ、僕もちょっとあの人に連絡して雇い入れるよ。もちろん、マリサ君にもちょっと頑張ってもらわなくちゃいけないんだけど。」
「大丈夫よ!任せて」
ヨハスもマリサも今まで考えていた計画がうまくいっていないことに焦りを感じていたが、カウフマン侯爵が来ることで希望の光が見えた気がし、喜んでいた。
「チャンスが無くて・・・待たせてごめんね。僕を信じてほしい。一緒に頑張ろう。」
「ええ、頑張りましょう!私も辛いけど・・・頑張るわ!」
2人は伯爵家を乗っ取ることを想像し、ほくそ笑んだ。シーツと樹の影に隠れながら抱き着き、キスをした。
(ほうほう、熱いですね~お二人。見えてますよ・・。何かされるということですね。あの方とは・・もう少し暴露してくれてもいいのに・・)
二人が抱き合っている木の上に隠れていたメイドは冷めた目線を2人に送りながらも盗み聞きをしていた。
(それにしても早くキスを終わらせてくれないかな・・早くどっか行ってくれないかな。早くルイザ様とシイナ様に報告がしたい・・)
目下の2人は熱い抱擁とキスを繰り返しており、メイドは聞こえないようにため息をついた。




