第二十八話:男爵の決断
「・・ヨハスとそういう関係ということでいいのね?」
「・・はい。認めます。そうです。」
「いつからなの?」
「・・・それは・・・」
夫人はヨハスと不倫関係にあったことを認めたことで、落ち着いたようだった。取り繕うこともせず、うつ向きながら話し始める。だが、不倫関係の始まりの時期については話したくないようであった。その様子を見ていたシンシアは口を開いた。
「前に聞こえてきたことがあったんだけど・・ここに来る前から、ですよね?先生が誰かと話しているの、私聞いちゃった!」
ばっと顔を挙げ、信じられないものを見る様な目でシンシアを見つめる。シンシアは口を三日月形にゆがめながら話し始めた。
「・・先生は、本当は男爵よりお父様のことがずっと前から好きだったんですよね・・?」
「・・・」
「聞こえた話では、筋肉質の男の中の男というよりは、私のお父様みたいな優男が好きなんでしょ?昔、舞踏会かどこかであった時、お父様に一目ぼれしたって?だからお父様から声をかけてもらって、そういう関係を持てるようになってから有頂天になってペラペラここで、誰が聞いているかも知らずに話をしていたんだよね?」
「・・・なぜそのことを・・・」
夫人の顔から血の気が引いていく。小さな声でボソッと信じられないとつぶやく。不倫関係開始時期については誤魔化そうとしていたが、ここでもシンシアから暴露されてしまい、もう取り繕うこともできなくなっていた。
ルイザはその様子を見てため息をついた。
「私の夫はどんだけ屑なんだよ・・まったく。あげれるもんならあげたいわ。」
その発言を聞いて夫人はキッとルイザを睨み、興奮したように叫び始めた。
「そんな!そんな感じだから、ヨハス様・・ヨハス様は私に慰めてほしい、助けてほしいと言ってきたんです!!伯爵が、あなたがそんな感じだから!!・・私だって!!できることならあの人と・・!!」
「それなら正規の手段をとるべきでしょう。あなたも既婚者、私の夫も既婚者。そして貴族です。今のご時世、貴族の不倫関係も許されなくなってきているのをご存じで?」
「あなたが離縁してあげればよいのです!!」
「そんな相談をされた覚えはなかったからなあ~。あなたは男爵と離縁したいの?」
「・・!願っております!あんな筋肉野郎!!そもそも私は!あんな田舎に嫁ぎたくなかった!!!この伯爵邸のように豪華な屋敷で、王都に近い領土に住みたかったんです!!私はある意味、被害者なんです!!」
夫人が勢いに任せて叫んだ時、シンシアとルイザはニヤリとほくそ笑み、後ろを向き、暗闇へ話しかけた。
「・・ですって。言っていますよ、フリーダ男爵。どうされます?」
「はぁ!?」
「・・・」
暗闇の中から無言でフリーダ男爵が出てきた。その姿を見た夫人は口を開いたまま動けなくなった。
「君、そんなことをずっと・・思っていたのだな・・。私は君が都会の方が好きだから、できるだけ君が好きに過ごせるようにしていたのだが・・やりすぎていたのかな・・。君の望む通り、離縁という形を取ろうか。望みだからね。」
「・・・待って!!!待ってあなた!!そんな!!」
「それに君が最低なことをご令嬢にしてたのは・・聞いていて分かったよ。最初は信じたくなかったけどね。それでも私は、一緒に罪を償っていこうと思っていたのだが・・・・こんな裏切りを受けていたことは知らなかったよ。」
「違うの!!違うのです!!!」
「・・伯爵、本当に申し訳ないが・・ここにいると気分が悪くなってきて、一度戻っても良いだろうか。この・・この『人』については処分は任せます。男爵家としても償いはさせてもらいますので。」
「男爵、こちらこそ。ここまでついてきてくれてありがとう。」
ルイザが手を叩くとメイドが地下牢へやってくる。男爵を談話室まで案内するよう伝えると、メイドと男爵はまた暗闇の中へ戻っていった。
夫人の前にはシンシアとルイザの2人だけ残った。夫人は離縁を告げられてから呆然としており、魂の抜けた抜け殻のようになっていた。が少し時間が経つと発狂し始めた。
「・・こんなはずでは無かったのに!!どうして!どうしてくれるんですか!!そもそもお嬢様、約束が違います!夫には言わないって言ったじゃないですか!」
「約束は守りましたよ。私の口から男爵には言っていません。先生が不倫関係を認めたのが、聞こえただけでしょう。」
「・・・小癪な・・!!」
「小癪になれたのももしかしたらあなたの高等教育のおかげかもしれませんね。先生。どうも、ありがとうございました。」
「シンシア、もういいの?」
「はい、お母様。もうこの人には何も残っていません。貴族としての地位も信頼も、そして一緒に罪を償ってくれる、守ってくれる夫もいませんし・・。どうせお父様もかばってくれませんよ。」
「・・それもそうね。鞭うちはしなくて良いの?」
「この人と同じようなことはしたくないし・・もう会いたくない・・ですし。お母様にもこの人にもう時間を割いてほしくないです。」
「・・・シンシア!!そうね。帰りましょう!・・夫人、また会いましょう。罪をどうするかについては、あなたの元夫の男爵と、あなたの最愛の私の夫と話して決めますので・・それまではさようなら。」
目の前で行われている親子の会話についていけてなかった夫人は最後の、ルイザの言葉を聞いてハッと気づいた。自分はまだこの牢屋に、いつ解放されるかわからない時間を過ごすことになること、自分を助けてくれる人はいないということを。
「ま!待ってください!!!待ってください!!!!」
夫人が叫ぶが、2人は聞こえないようにまた暗闇の中に戻っていく。地下牢には2人の靴の音だけが響きわたり、ついには聞こえなくなった。




