第二十五話:シンシアの目覚め
(お母様・・?私・・何してたっけ・・)
シンシアが倒れてから2日経過した朝、シンシアは目覚めた。傍らにはいつの間に戻ってきたのか、ルイザがシンシアの手を掴みながら椅子に座って寝ている。手から伝わる温もりがシンシアを癒してくれている。寝落ちしたであろう、ルイザの姿をぼんやりと見ながらシンシアは物思いにふけっていた。朝の心地よい、凛とした少し冷たい空気、鳥が朝になったことを鳴き声で伝えてくる。若い騎士たちの走り込みの音、声も聞こえてくる。
日常であり、温かみのある空間。幸せだった日々。もう二度と戻ることのなかったこの生活。まだそんなに年を重ねていないはずなのになぜこんな、郷愁を思い浮かべるような、どこか泣きたい気持ちになるのか分からなかった。
(・・・・何か涙が出そうな、幸せだけど、この幸せという感情をなぜ感じているのか、感情がどこから来ているのか分からない。何か居心地が悪い。どうせ、すぐ、この幸せがなくなってしまうと思ってしまうのは何でだろう。)
考えても答えの出ない気持ち、思いに終止符を付けむくっと起き上がる。頭に乗っていた濡れタオルがルイザの方へ落ちた。ルイザはそのタオルが落ちてきたことで起きた。
「・・シンシア・・?」
「・・おはようございます。お母様。私、何かあったんですか・・?」
「シンシア!おはよう!体調はどう?あなたの家庭教師の件で、色々あって倒れて熱が出てたのよ!」
「家庭教師・・・・」
ルイザがガバッと効果音が出る勢いで起きあがり、シンシアの顔を見つめる。
家庭教師というワードを聞き、シンシアはそこから何かを思い出すように悩み始めた。
「・・ああ、あの、鞭打ち最低最悪おばさん・・」
「シ・・シンシア!大当たりよ。あの女のことはまだ何もしてないから安心して。あなたと一緒に処罰するからね。まあ、それは置いといて。あの後血が出る場面があったでしょう?その時あなたは倒れたの。高熱も出ていたわ。気分はどう?」
「・・ああ、あの仕事怠慢メイド達・・。思い出しました。そこは大丈夫です。体もどこかスッキリしている気がします。」
「良かったわ・・!!シンシア、きつかったわね。早めに気づいてあげれなくてごめんね。」
「お母様・・大丈夫です。ありがとうございます。」
シンシアは母親の愛を感じて嬉しく思っていた。久しぶりに母親が自分に向き合って、心配してくれている。『前』は誰も自分のことを心配してくれる人はいなかった。
(・・前って何だろう・・さっきから何かと今を比較している・・)
シンシアが何か腑に落ちない状況について考えている間にルイザの口は止まることなく話を続けている。
「あなたのメイドも護衛騎士も元に戻しているわ。乳母もよ。安心して。家庭教師については私自身が探すから。もう・・・ヨハス、夫にはあなたの身の回りのことを決めさせないわ。」
「ヨハス・・お父様・・」
父のことを聞いて頭がズキズキと痛むような感覚がでてくる。何かを思い出せそうなのにあと一歩、何かが出てこない。
「そして、もう先に伝えておこうと思うんだけど、この屋敷に新しくメイドが5人入ってくるの。シンシア、あなたはこの人たちに関わらなくて良いわ。寧ろ何かされたり、言われたりしたら私に言ってほしい。専属メイドでもいい。必ず私が助けるから。」
「またメイドが入ってくるのですか?私の所に職務怠慢メイドが来たのに」
「・・また職務怠慢系かもしれないんだけど、これもヨハスが決めたことなのよ。色々あって、とりあえずこの屋敷に来ることなるの。」
「またお父様・・私の時も、『前』もそうだった・・」
「前?」
「うっ」
「シンシア大丈夫?」
前のことを思う度、思い出す度、考える度出てくる頭痛は先ほどよりも大きくなってきていた。シンシアはこめかみを抑え俯く。そんな姿を見てルイザは心配の声をかけるが、俯いたまま動けない。
そして『前』の記憶が鮮明に思い出された。あの衝撃を。あの悲しみを。母と会えなくさせられてから少しずつ、自分を守ってくれていたメイドや騎士たちが次々と罪を着せられ投獄されたり、辺境に追いやられたり、処刑されたあの日々を。自分が守るべきなのに守れなかった人たちを。
シンシアの目からは再び涙があふれ出した。
「シンシア・・どうしたの・・」
今は母親に会えている。母親はまだ『病気』になっていない。今なら救うことができる。私は、『前』を知っている。対処できる。強い気持ちであの人たちに対抗することが今ならできる。
(・・でも・・今は・・)
シンシアはルイザに向かって抱き着いた。
(お母様が生きている・・・!)
シンシアが急に泣き出し焦っていたルイザは、また急に抱きしめられあたふたしていた。が、シンシアは嬉しそうにお母様と連呼しながら抱き着いているのをみて、抱きしめ返した。




