第二十三話:ヨハスの思惑
「アリス、いいかい?君は道端に倒れていた子で、記憶喪失ということにするんだ。生家が言えず困っていたから君を保護することになった。この設定で行くよ?」
「はい!お父様!私、何も覚えていない可哀そうな女の子を演じます!」
ガタガタと音を立て馬車は進み、街を抜けると高い門に囲まれたクレアトン伯爵邸が見えてきた。ルイザに怪しまれないよう、家に到着する前に設定を考え付いたヨハスは安心し、アリスと共に馬車の窓からクレアトン邸を見た。
「うわぁー!これが私のお家!すごく大きい!」
「そうだよアリス。これからは君の家だ。」
アリスはクレアトン邸を見て目をキラキラ輝かせながら心の中でぼやいた。
(もっと早く連れてきてよ、お父様。アリスにふさわしい家があるじゃない。)
2人で笑いあいながら門をくぐり、玄関先に馬車が止まった。ヨハスは先に降り、アリスをエスコートする。アリスはにっこりと笑みを浮かべながら降りた。
外で出迎えた使用人はヨハスが連れてきた女児に気づき少しざわついていた。
「帰って来たわね・・。なんかざわついているけど。」
「ええ来ました。なんでしょうね」
ざわつく使用人たちの声を聞きつつ、ルイザは腕を組みシイナ、ニック、セバスと1階ロビーで待ち構えていた。その時扉が開き、2人が中に入ってきた。
「今帰りました、ルイザ。出迎えありがとう。」
「おかえりなさいヨハス。領地視察ご苦労様でした。」
ヨハスはにこやかに笑顔をルイザに向ける。ルイザも笑顔を作り対応する。ルイザはヨハスの後ろでちらちらグレーの髪の毛が見えているのを見つけた。
「ヨハス、誰か連れてきたの?」
ヨハスは待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうにルイザに話し始めた。
「そうなんだ!実は視察場所からの帰り道で倒れている少女を見つけてね。助けたんだけど、どこから来たか分からないと言っていたから、連れて帰って来たんだ。記憶喪失みたいなんだよね。」
ツラツラと理由をつけて話し始める。後ろから説明されているアリスが顔を出し、ルイザに対して目に涙を浮かべながら見つめた。そんな二人を見てルイザは冷静になっていった。
(怪しい。何よりこの子・・・・あのアリスじゃない?こんなに早く来てたかしら・・)
ルイザはヨハスの嘘を見抜いていた。
(記憶喪失って、この子記憶あるんじゃない?どちらにしても絶対に家には入れないわ。)
「そうなの・・ところでどこでこの子を見つけたの?」
「えっ・・えっと・・そう!修道院の近くさ。領地境にあるだろ?あそこからの帰りに倒れていたんだ。」
「修道院・・。記憶喪失であるなら、家の方が探している可能性が高いわ。親が探しているかもしれないわ。修道院に居れば、情報が入って生家に帰れるかもしれないし。この家に連れてくるより、修道院に連れて行ったほうが良いのでは?」
「え、でも、しょうがなかったんだ。帰る途中だったし・・」
ルイザから言われ、モゴモゴ反論をするヨハス。そんな2人の姿を見てアリスは焦っていた。快く受け入れてくれると思っていたが、ルイザはアリスのことを全く見ようとはしないし、頼みの父親は尻すぼみになりどんどん声が小さくなっていったからだ。
(ちょっと、お父様!しっかりしてよ!)
アリスからの心の中からの叱咤にも関わらず、ヨハスはルイザの言論に負けて行った。
「ヨハス、帰ってきて早々だけどその子を見つけた近くの修道院に連れて行きなさい。親が探してる可能性があるわ。連れて帰ってくるなんて・・あなた誘拐もいいところじゃない。」
「誘拐なんて!そんなことしてないよ!」
「そんなことしてないと思っていても相手方はそう思わないの。連れて帰りなさい。今すぐ。」
「く・・わかったよ」
(くそう・・記憶喪失の可哀そうな子であればルイザは受け入れてくれると思っていたのに・・ダメだった・・くそう・・)
(え!お!お父様!!!こんなに頼りないなんて!!!ここはアリスの家だって言ってくれたのに!!あり得ない!!)
アリスは情けない父親の姿を見て怒っていた。そんなアリスに気づかず、ヨハスは眉毛を八の字にした、情けない顔をアリスに向けた口を開いた。
「君を・・修道院に連れて行くことにするよ・・ごめん・・」
「・・はい・・」
2人で先ほど入ってきた扉に向かおうとしているところをルイザは止めた。
「ヨハス、ちょっと待って。領地視察の仕事をしてもらっているのに、担当執事がいなかったのを申し訳なく思っていたの。今日からあなたに再びニックを付けることにするから。よろしくね。」
「旦那様。今日から再び就かせてもらいます。よろしくお願いします。」
ニックが頭を下げる。ヨハスは慌てた。をマリサの所に行くのに邪魔になったから自分から外してたのだ。なのに再び戻ってくるとは思っていなかった。
「え、僕には必要ないよ。ニックがいなくても僕は上手くいっていたし。」
「そういうわけにもいかないのよね。この前あなたも言っていたじゃない。シンシアも大きくなってきたから、これから使用人を増やしたほうが良いって。私も考えたのよ。これから仕事も増えるだろうし、そういったサポート役は私だけではなくあなたにも必要だとね。」
自分からルイザに言ったことを再度繰り返され、ヨハスはまた言い負かされた。
「わかったよ。連れて行く。ニック・・これからまたよろしく・・」
「はい。よろしくお願いします。」
ニックはヨハスの後ろについていく。扉を出る前にルイザたちの方へ振り向きウィンクをして出て行った。
「・・・うまくいったわね。というか誰を連れてきてんのよ。」
「「私もそう思いました。」」
3人が外に出て行ったあと、ルイザたちはヨハスの考え無さに呆れていた。
その頃ニックはスパイとしてヨハスについて行くに対し張り切っていた。が、
「ニック、君は馬車じゃなくて、御者の所に乗ってくれ。」
「え、旦那様・・・!」
ヨハスに同乗を拒否され、御者の所に座ることになってしまい中にいるアリスとヨハスの会話を盗み聞きすることができなかった。
(く・・くそー!せっかくのチャンスだったのに!)
ニックは心の中で叫びながら御者の隣に座り修道院へ向けて出発した。




