第二十二話:夢
「うう・・ううう」
苦しそうにシーツを掴み、眉間に皺を寄せうなされ始めたシンシアを見てルイザは焦った。
「シンシア・・シンシア、大丈夫!?」
ルイザは慌てて椅子から降りてシンシアの枕元に近寄った。
身体全体に沢山汗をかいていたので、冷たく湿ったタオルで汗を拭き、額に当てていたタオルを取り換えた。
少し眉間の皺は取れたが、それでもまだシーツを力強く掴み、何かから逃げるように小さくではあるが、体を動かしていた。
(うなされているわ。何か嫌な夢でも見ているのかしら。少しでもその苦痛が和らぐといいのだけれど・・)
ルイザはシーツを握っていた手をそっと握り、もう片方の手で頭を撫でた。
「シンシア、大丈夫よ・・私が、お母様がついているから・・大丈夫よ・・」
ルイザはシンシアが少しでも辛くないよう、優しい声で声をかけ続けた。
シンシアは静かに涙を流した。
シンシアは夢の中でなぜ自分が火あぶりにされているのか、その理由が分かり始めていた。
夢に出てくる場面全てにいつもグレーの髪、金色の瞳を持つ自身と同じ年齢位の令嬢が出てきて、自分の姿を見て嘲笑っていた。
(あの人は一体誰なんだろう・・なぜいつもこちらを見て笑えるのだろう。)
知らない人のはずなのに、その令嬢の姿を見ると体にゾワッと寒気が走る。
時には吐き気を催すし、怒りをぶつけたくなる。
場面が切り替わり、令嬢の自室であろう場所で自分が跪いている。それを笑いながら上からワインを浴びせてきていた。
またある時は火あぶりの際、観覧席に座り頬を歪めて笑っている。
(あ・・あの女は・・・そう、アリス・・)
会ったことのない女の名前、なのに頭の中に名前が浮かんでくる。おぞましいと思った。
(この女に会うと、私はこんな風になってしまうのかしら・・)
会いたくない気持ちが勝り、シンシアはどこかに逃げたくなった。
(こんな風になりたくない!されたくない!この女に・・私は会いたくない!関わりたくない!)
夢の場面をまるで映画のように見ながら、シンシアは静かに泣いた。
心のどこかで絶望を覚えていた。
「・・・大丈夫、大丈夫よ・・・」
シンシアが絶望感で泣き崩れていた時、どこからか懐かしい声がした。
(・・お母様・・?)
「・・私が、お母様がついているから・・・大丈夫よ・・」
優しい声色で、自分のことを心配していることが伝わってくる言葉に縋り付きたくなった。
「お母様・・・!私はこう、なりたくない!助けて!もうアリスには会いたくない・・怖い・・!」
シンシアは夢の中で叫んだ。
ルイザがシンシアに声をかけ続けていると、シンシアが涙を流しながら少し瞼を開けた。
「!シンシア?起きたのね?」
ルイザが声をかけるが応答はない。目線は合わず、どこかぼんやりとしている。
「・・・くない・・・・・・アリ・・・・くない・・」
ボソっと呟くようにシンシアが口を動かす。読唇したルイザは驚いた。
(助けてって、そして『アリス』って言った・・?)
ルイザはその少女のことを、ヨハスとマリサの子供の名前をシンシアが口にしたで驚きつつ、1つの疑惑を抱いた。
(まさか・・シンシアも私と同様に戻ってきたということなの・・?だからアリスの存在を知っているの・・?)
シンシアは助けてとルイザに伝えた後、うなされることなく眠りについた。
もう涙は流さなかった。
ルイザは驚きと衝撃で動けなかった。
少し時間が経った頃、外から馬車の音が聞こえてきた。
同時に、控えめにドアをノックする音がする。
開けてよいと声をかけるとシイナとレマが中に入ってきた。
「今、ヨハス様がお戻りになられました。」
ルイザはシンシアをじっと見た後、レマに場所を譲った。
「うなされていたけど、今ようやく眠っているわ。レマ、シンシアをお願いね。」
レマは安心したように答えた。
「それは良かったです。私にお任せください。」
ルイザはその返事を聞いた後、表情を一変しシイナと一緒に部屋から退室した。
自分たちを裏切ったヨハス、夫を出迎えるため一階へ向かった。




