第二十話 三者三様
「朝早くに呼び出してごめんね。シイナはもう知っているんだけど、昨日ヨハスの行動について情報を得ることができたからあなたたちには知ってもらいたくて。」
ルイザとシイナが屋敷に帰宅し、夜が明けた早朝。
ルイザはニック、アタン、ディーンを呼び出していた。
「いえ、大丈夫ですよ。僕も昨日のことがあってから眠れなくて。」
「私たちも同意です。団長なんて朝から無駄に1人で走り込みをしようとしていましたから。」
「無駄は言い過ぎだろう。ルイザ様。俺不完全燃焼で・・やりきれなくて。」
呼び出した3人とも昨日のことが記憶に鮮明に残っているようで目がギンギンと怪しく光っていた。ルイザにはその表情が頼もしく思えた。
「そう言ってもらえると助かる。今から情報を共有するから見てほしい。」
3人は食い入るように情報用紙を見た。
「・・・これは本当なのですか?・・というより機密情報ですよね。皇妃の話なんて・・。僕たちが知ってもいいんですか?」
情報を共有した後、ニックは情報の価値の高さに慄いていた。
それは他の2人も同じで憤りと共に恐ろしさも感じており顔色はあまりよくなかった。
ルイザはその情報を知った後そう感じるだろうと予測していたので苦笑した。
「そうだよね、ちょっと驚くよね。ごめんね。でもこれは知っておいたほうが対処しやすいから共有しておきたくて。」
ルイザはヨハスの浮気写真を取り出した。
「ガスティン侯爵、ファートン子爵は表面上は友好的でも敵であることは間違いないの。そしてこれからクレアトンにその手下が入ってくる・・。ここに写っているヨハスの愛人も一緒に。ヨハスは浮気していて、子供もいるの。シンシアと同い年くらいの。」
浮気のことを聞き、写真を見た3人は驚いていた。特にニックは目が飛び出そうなくらい驚いていた。
「ええ!あの旦那様が浮気ですか!」
「ええ~。そんな勇気無いと思ってたけど、意外とやる人なんだ~へぇ~。」
「そんな恐ろしいことできる人いたんですね。」
三者三様の反応を見た後、ルイザはパン!と手を叩き自分に注目を集めた。
そして写真の女を指さして言った。
「ま、その勇気は置いといて、この女も入ってくるから覚えておいて。この女がシンシアに何かしてこないとは限らないから。そして、この女だけではなく他の新たな使用人たちについても注意しておく必要があるわ。情報共有は細目にすること、何か企んでるのが分かったら直ぐに教えて。いい?」
「「「はい」」」
「まだヨハスを罰することはしないので、そのつもりで。泳がせて、先回りして罠を仕掛ける、その意気込みで行くわよ。いい?」
「「「はい!」」」
「早朝なのに来てくれてありがとう。今度来る奴は徹底マークでお願いね。」
「「「はい!!」」」
「そしてニック!あなたの祖父、セバスと一緒に後からこちらに来てくれる?」
「はいっ・・え?」
良い返事を繰り返していたニックは言葉に詰まった。ニックの祖父、セバスは完璧な執事でニックは見習い時からしこたま怒られていた。ニックは心の中でクソ鬼執事と呼んでいたほどだ。
現在は『自分も年をとった』と執事長をニックに明け渡し、クレアトン家の裏方作業を細々としている。
「・・祖父をですか?」
ルイザはゆっくり頷いた。ニックの先ほどの威勢はしぼんでいった。
そして3人は三者三様に執務室から退室していった。
「シイナ、この5人はみんなメイドとして来るみたいだから。どこに所属させるか考えましょう。」
2人は5人の所属先と所属先で見張れる体制について考え始めた。
その時ニックが元執事長のセバスを連れてきた。
「ルイザ様、セバスを連れて参りました。」
セバスは白髪の髪をまとめ、同色の髭を鎖骨まで伸ばした細身な壮年の男性だ。
裏方作業をしているが、執事長時代の癖は全く変わっていない。
ルイザの前に背筋を伸ばして立ち、左手を腹部に、右手は後ろに回し挨拶をした。
「お久しぶりです。ルイザ様、いや伯爵様。セバス参りました。」
ルイザはにっこり笑ってセバスを見た。
「セバス、ルイザでいいわ。隠居して悠々と仕事していたのに呼び出してごめんなさい。ちょっと相談とお願いがあるの。あなた、私の執事に戻ってきてくれない?」
「え!」
現在ルイザの執事はニックだが、自分ではなくセバスを自身の執事にすると言ったためニックは驚きの声を挙げた。
「ほほう、それはなぜですか?」
セバスは少し驚きつつ、話を続けた。ルイザは今までの経緯をセバスに説明し、
「誰か信用できる人、特にメイドではない者をヨハスにつけておきたいの。かといってセバスをヨハスにつけると、ヨハスは警戒してボロを出さない可能性が高い。だから、ヨハスにはニックについてもらおうと思って。」
ニックはルイザの執事を辞めさせられるのかとショックを受けていたが、囮であることを知り喜んだ。
「なんだ、何かと思いました。良かった。その通りです。ヨハス様は祖父のことを怖がり、警戒してますから。僕のほうがボロが出やすいと思います。賛成です。ほんと、ヨハス様は僕のこと舐め切ってますから。」
ニックの様子を見てセバスは小さくうなずいた後、ルイザに伝えた。
「ルイザ様、それではその通りにしましょう。いつからにされますか?」
「セバス、今日からお願いできる?」
「かしこまりました。」
「ニック、嫌だとは思うけどあなたにしか頼めない重要な役目なの。何かあったらすぐ相談して。」
「大丈夫です。こんな重要な役目を任してもらえるの光栄です。」
ニックはいい笑顔で答えた。
ルイザとシイナがしていた作戦会議にニックとセバスが仲間入りした。




