第十九話:早まる気持ち
「・・愛人について、実はもうすでに調べちゃったんだよね。資料をあげるよ。」
握手した手を外しながらカイラスはルイザに資料を渡した。
資料にはマリサの生い立ちとヨハスに出会ったきっかけ、そして現在住んでいる民家、娘のアリサのことが詳細に記載されていた。
「ついでにこの浮気証拠写真もあげる。」
「写真!高価なのに写真まで撮影してくれたなんて。ありがとう」
写真の技術は最近入ってきたばかりで、仕掛けも複雑であり撮影すること自体が高価なのだ。それを2枚も撮ってくれたカイラスには感謝しかなかった。
カイラスは写真を2枚差し出した。1枚は笑顔で愛人宅へ入っていくヨハスとその愛人の写真、もう一枚は窓から室内を撮影した写真で、金を愛人とその娘に渡している写真だった。
(愛人がいることは分かっていたけど、ちょっと堪えるわね。)
ルイザは写真を見て気分が悪くなった。が、自身がヨハスに対して強く出ることのできる証拠を掴むことができることを確信し心の中でガッツポーズをした。
「一応、日付も記入してあるから。」
カイラスが指をさす。
記載された日付は丁度先日、ヨハスは領地視察のため外泊すると報告があった日で、シンシアの家庭教師を牢屋に入れた日でもあった。
写真を食い入るように見つめた後、ルイザはシイナの方を向いた。
「シイナ、浮気の証拠も手に入れたしヨハスを問い詰める手はずが少しずつ整ってきたわね。」
「ルイザ様、そうですね。はらわたが煮えくり返ってはいますが。冷静に、冷静に・・・殺れる準備は整えています。」
シイナはグっと手を握った。殴り倒す準備を始めているようだった。
ルイザもシイナを見て頷いた。そんな二人を見てカイラスは焦った。
「ちょ、ちょっと待って。この証拠だけでは君の夫はまあ、罰することはできるかもしれないけど、大元は倒すことができないよ。どうせ君の夫が罰せられてもトカゲの尻尾切りみたいなモンで、また新たな刺客が来るだけだよ。」
カイラスが慌てたように2人を止めに入る。
目に静かな炎が宿っていたルイザとシイナはカイラスの姿を見た後、強く握っていた手の力を少しずつ弱めた。
「・・・・・・・・そうね、その通りだわ・・・。わかっていたはずなのに、最後に復帰できないよう痛めつける。そのつもりだったけど、いざ目の前に証拠があるとつい・・殴れるチャンスを掴んだ!ていう高揚感の方が前に出てしまって・・。」
「・・・・そうですね。私、つい、気持ちが・・先日のこともあってつい・・早く殺らねばと・・」
二人が少しずつクールダウンしているのを見てカイラスはホッと安心した。
ルイザははーっと深いため息をついて話した。
「あー仕方ないわね。ほんと。シンシアに影響及ぼす奴らを真っ先に排除したかったけど・・。まさか今存在しない皇妃の話が出てくると思わなかったし・・王国を揺るがす事態の一端でもあるから・・。まずはヨハスを泳がせて、大元を罰することもできる証拠を少しずつ掴むしかないわね。」
カイラスも頷いた。
「こんな分かりやすい末端の手下なんて早々いないよ。次送られてくる手下もどんなふうに来るかわからないし。こいつらをどうにかして操ったほうが楽そう。」
シイナも腹をくくったように話した。
「ルイザ様。私もすぐには殺らないようにしますので。後から・・しましょう。それまでは泳がせましょう。」
ルイザはその言葉にいい笑顔で頷いた。
「シイナ、そうしましょう。」
フフフフと笑いあう2人の姿を見てカイラスは思った。
「女って怖ええ・・・いや、この2人だけか・・」
二人の静かで低い笑い声は夜の闇の中に溶けて行った。




