第百四話:泣き落とし
「えっと、手紙は全部で8通来ているわね。・・ふふふドレスのことを気に入ってくれているみたい。本当に嬉しいわ。」
シンシアは部屋に着いた後、送られてきた手紙の整理を始めていた。
「自分こちらから連絡を取るべき人は2人だから、全員で10人かしら!楽しくなったらいいな!ね、リエ!この日にあなたのことを皆に紹介しようと思っているの。当日はよろしくね。」
「お嬢様・・本当にありがとうございます。伯爵家の専属だけではなく、こうして私のことを紹介してもらえるなんて・・恐悦至極に存じます。」
シンシアの所には今日、仕立て屋のリエが来ていた。ドレス作成者として紹介することを事前に連絡し、今日お礼もかねて伯爵邸にやって来ていた。
「そんなかしこまらないで!私本当に嬉しいもの!こんな素敵なドレスを作ってくれるリエを、みんなに紹介できるのが!そしたらあなた、手が足りなくなるんじゃない?うふふ。弟子を雇ったほうが良くなるんじゃないの?」
「そんな、恐れ多い・・ですがそうなりそうな気もします。」
「一応新しいカタログも作ってみたら?」
キャッキャと、リエと笑いながら準備を進めているところに招かざる客がやって来ていた。アリスだった。
(何?シンシアはお茶会を開くの?私は何も聞いていないけど?同じ屋敷に住んでいて、シンシアの義妹に当たるのにどうして私にこのことを伝えてくれないわけ?)
シンシアの部屋の前まで来ると、中で誰かとシンシアが楽しそうに話をしているのが聞こえてきた。アリスは近づき耳を当てるようにして中の声を聞くと、お茶会やドレスの話が聞こえてきた。
盗み聞きを手慣れた様子でササッと始めたアリスを見てハクはドン引きしていた。
「ずるい・・ずるいわ・・ハク聞いてよ。」
「え!・・どうされましたか?」
アリスに引いていたが、そんなアリスが涙目でこちらを見てきたのでハクは動揺した。その動揺には気づかないようでアリスは涙ながらに話し始めた。
「シンシアお姉さまは・・私を無視するつもりなのでしょう・・。私にはまったく声をかけてくれないのに・・ここでお茶会を開くみたいなの・・そう聞こえたわ。」
「そ・・そうなのですか・・?」
ハクは動揺を隠しきれないまま返答した。アリスはグイっとハクに近づき嘆いた。
「ハクは今まで気づいていなかったかもしれませんが・・お姉さまはこうして私を虐めるのです・・。他の人にバレないように私を疎外して・・。」
ハクは苛々していた。
(お前の方だろう!陰湿なことばっかりして!・・とは言えない・・これも仕事これも仕事これも仕事・・)
自分の思いを心の中セーブするよう念じながらすり寄ってくるアリスの肩に触れる。
「・・そうだったのですね・・アリスお嬢様がお辛い思いをされていたのは私、存じ上げなかったので・・。辛かったですね。」
「ハ・・ハク!!」
アリスは感極まって抱き着いた。
(うげええええ!)
ハクは心の中で叫びながらも表情に出さないように注意していた。
「あの・・聞こえてますが・・。」
「「はっ」」
シンシアの部屋のドアが開けられ、中から専属メイドのレマとエリが出てきた。大きな声で話しているからシンシアにも話が丸聞こえだった。
ただドアを開けるとそこにはハクにアリスが抱き着いている姿だったので室内の人たちは全員困惑している様子だった。レマは一息つき心の平静を保ってから話しかけた。
「ふぅ・・用事があるなら・・お茶会の件についてはどうぞ、中に入って話をしてみてはどうですか?」
アリスは少し黙った後頷いた。
「そうね。そうするわ。折角ここまで来たんだし。ハク、中に入りましょう。」
「分かりました。」
アリスはシンシアの部屋の中に入り、シンシアに話しかけてきた。
「お姉さま、こんにちは。急にすみません。」
「アリス、良いのよ。あなたは私の義妹なんだから。・・・それでどうしたの?」
(くっ!ハクに泣きつき、健気な令嬢作戦をとっていたのに、こんなことになるなんて。でもこれはチャンス!お茶会に出席できるようにここで懇願するのよ!それで私がお姉さまよりも社交的で可愛く、気立ての良い令嬢として皆に知らされることになる!)
アリスは心の中で今後の算段を考え、シンシアに話し始めた。
「お姉さまに会いたいと思ってこちらに来た時、中から声が聞こえたのです。ここ、クレアトン邸でお茶会を開くと・・。私、ここに住んでいるのにお茶会の案内が来ていないので・・私、仲間外れにされたのではないかと思って・・。悲しくなってハクに慰めてもらっていたのです。」
(こいつ盗み聞きしていたな。)
シンシアは心の中で思いつつ平静を装いながら返答した。
「アリス、泣かないで・・。仲間外れなんて・・そんなことしないわ。それに出席者のことを考えているのは今なの。これからなのよ、招待状を送るの。」
シンシアはにこやかに話し続けた。




