第百三話:準備
「アリス様、報告があります。」
「え、何ぃ?ああ、ハル。・・あっ!もしかしてあの事?」
「はい。」
翌日、ハルはいつもの通りメイドの仕事を行いつつ、アリスの周囲に人がいなくなったタイミングを見計らいこっそりと声をかけた。アリスは最初、心底面倒くさそうな様子で対応したが、話しかけてきたメイドがハルであること、ハルに依頼していたことを思い出して意地の悪い笑顔を向けてきた。
「そっかあ!そしたら・・夕食後に私の所に来てくれる?お父様たちも呼んでおくから。良い報告を・・期待しているからね。」
「はい。」
「じゃあ、ハクに怪しまれたくないから早くどっか行って。」
「はい。」
アリスは部屋の入口で待機しているハクを横目で見ながら、あっちへ早くいけと言わんばかりに手を振った。ハルは特に表情を崩すことなく返事をし、その場を去った。立ち去る様子を見ながらアリスは思った。
(やったわ!あの感じだと、きっと良い報告に違いない・・!これで伯爵家を乗っとることができる!アリスが輝ける、最短ルートに入ったと言っても良いわ!)
アリスは心の中で喜びの声をあげていた。
(そうだ!こうなったらシンシアへの嫌がらせもしちゃおっかな~!ふふっ!頼りの綱を失くす、伯爵令嬢じゃなくなるシンシアに、私の護衛騎士を見せつけちゃうのも良いかも!ああ~楽しみ!!)
アリスはシンシアの部屋へ行き、ハクが自分の護衛騎士であること見せびらかしに行くことにした。
「お母様、お茶会を開く前の準備をしてみたのですが、どうでしょうか?見てもらえませんか?」
「良いわよ。一緒に確認しましょう。」
丁度その時シンシアはルイザと共にお茶会の準備を少しずつ行っていた。王家であったガーデンパーティで、他貴族との交流やクレアトン邸でお茶会を開くことを約束したことを実行に移すためである。
ルイザはシンシアが作った書類を覗き込んだ。
「うんうん!いいじゃない!呼ぶ人数はどのくらいにする?ガーデンパーティ終えてから手紙での交流がある方にする?」
「うん・・そうしようかなって思ってる。初回だし。その・・あの、お母様・・」
「うん?」
「今回のお茶会は女子だけの方が良いですよね?」
「え?」
「・・エリックとよくやり取りをしていて・・」
「エリック・・?」
ルイザは男の名前が出てくるとは思っていなかったので空中をぼんやり眺め、その名前を頭の中で検索していた。(シンシアに手を出す男、エリック!)と思いながら妙齢の男を検索したが、ヒットしなかった。
「シンシア・・その、エリックってどなたかしら?」
「あ、あの、辺境伯の次男で、エリック・デレクシアスって言うんだけど・・。ほら、パトリック様の息子。覚えていない?」
「あ、ああ!あの子!」
ルイザはパンと手を叩いた。
カイフェンと共にパーティ会場へ戻った時、シンシアから紹介された男の子を思い出した。
「あの子とよくやり取りをしているの?」
「はい。あの日バラ園で会ってから、気が合って。今、1週間に1、2通のペースでやり取りをしてるんです。あの子にとっても、私にとっても初めての友人だったみたいで、ふふっ楽しいんです。」
シンシアはエリックの手紙を思い出し、顔を赤く染め微笑んだ。その顔を見てルイザは思った。
(もしかして・・そういうことなのかしら・・!)
「エリックとまた会いたいねって話はしているのですが、流石に今回のお茶会は呼ばないほうが良いですよね?」
「う・・ん、そうね。今回はドレスについての話をする、女性貴族たちだけを呼ぶ予定だから・・。今回はやめておいた方がよさそうよ。」
「そうですよね・・。残念です。私も会いたかったけど・・。」
「そう・・それなら尚更、別で会いましょうって伝えなさい。今度のお茶会へ仮に呼んでも、話す時間はそんなにないと思うから。」
「分かりました。そうします!」
シンシアは残念な気持ちを切り替えた。
(また別で、個別で呼んでいいんだ!その方が沢山話せる!)
話せる、会って良いと分かったら心の中に何か温かいものが出てきたような気がして更に前向きに考えることができ、嬉しくなった。
「お母様!そしたら今回のお茶会に呼ぶ人たちの一覧を作ってからまた来ます!」
「うん。待っているわ。」
シンシアは勢いよく部屋を出て自分の部屋へ向かった。『前』でもこのようなお茶会を主催したことは無く、今回が本当に初めてだった。『前』はアリスが主催し、自分は参加すらできなかった。アリスのお茶会では自分のことを悪く言われているのが分かっていたので顔出しすらも恐怖でしかなかった。
(でも今回は自分で全てを調整できる!楽しみだわ!)
シンシアは今の状況を楽しんでいた。




