第百一話:反撃の準備を
「ルイザ様!私たちに家族を助けるための時間をください!お願いします!」
ハクが再度頭を下げ、追加で懇願した。ハルはその姿とタイミングにまた驚いた。
「え!」
ルイザが静かに(多分ヨハス様に対して)怒っていることに気づいていたハルは、タイミングが悪いと思っていた。その点についてはハクは気づいていなかった。彼は真剣だった。
「・・時間・?」
「はい!今日、家族の所に姉がいないことが分かりました。そして姉がいない今、次は私たちの妹をだまして、ここに連れてくるでしょう・・。私たちの家族がどんどん疲弊していくのはもう分かっています。辛い思いをしている皆をどうか助けに行きたいのです!」
ハクはクレアトン邸で騎士として訓練をする中で自分が強くなったことを気づいていた。アタン騎士団長にも褒められるくらいの実力が付いてきており、自信があった。今なら、自分の力で皆を助けられると思っていた。
ルイザは少し考えた後、ハクに話しかけた。
「ハク、あなた・・自分が強くなったと思っているでしょう?」
「え?・・・はい。今まで、ここで鍛錬させてもらい、自分の実力が分かってきた気がします。」
「そう・・。じゃあ実力がついたあなたはどうやって家族を助けるの?」
「それは、敵を倒して、家族を安全な場所に連れて行くってことですかね。私としては近くに住んでもらえたら一番安心しますが・・。」
「ふふ。そしたらその安全な場所ってどこになるの?その場所の確保は?」
「・・・・これからしようと思っているところです。」
ハクはぐっと手を握った。確かに今の自分は冷静ではなく、早く助けに行かなければならないという、どこか使命感があった。そのため、考え無しにルイザへ提案したのは事実だった。
でも家族にガスティン侯爵家の手が回ってきている可能性があり、それは意外と早い可能性があるのも分かっていた。
ハクが黙っているのを見ながら、ルイザは口を開いた。
「あなたが焦るのも分かる。でも物事には順序があるわ。あなたたちの家族が住んでいる村はガスティン侯爵領にあるので私は手助けができない。他の領地には手を出せないの。」
「・・・はい。」
「ガスティン侯爵も、今ハルがここに来ているのに妹に手を出すかは分からないわ。」
「・・・でも、姉がここに手配されるのと俺が暗殺に駆り出されるタイミングが一緒でした。姉が今回の暗殺で失敗すると分かったらきっと妹が・・。」
「きっとそこは大丈夫よ。」
ルイザはちらりとハルを見た。ハルはビシっと背筋を伸ばしてルイザを見つめた。
「ハルにスパイとして活動してもらおうと思って。」
「え!私ですか?」
ハルは自分を指さして驚いた。ルイザは満足そうな顔をして頷いた。
「さっき、毒薬搬入経路を探し出すために夜間動いてたって言ったわよね?」
「はい。そうです。」
「毒薬はどこから入手しているのかを確かめたいのよ。どこから入手しているか聞いた?」
「いえ・・そこまでは聞かされていません。」
「多分、あなたが経路を見つけることができたら、次は毒薬入手に駆り出されるでしょうね。それを狙うの。」
「え?」
「アリスに、毒薬搬入経路を1つだけ見つけましたと伝えて。それでアリスの信頼を勝ち取るのよ。」
「!」
「アリスから色々情報を得たうえで、こちらから反撃を仕掛けたいの。そのためにはハル、あなたに色々してもらうことになるけど・・良いかしら?」
「はい!大丈夫です!」
ハルはいい笑顔で答え頷いた。自分にできることがあれば、全てしようと思っていたので、役割を与えられたのはとても嬉しかった。
「ハルが生きていて、計画が上手くいっているならば妹がここに駆り出されることは無いでしょう。どうかしら、ハク。少しは安心できた?」
「確かに・・すみません。俺・・いや私、少し焦ってしまって・・。」
「良いのよ。私にも考えがあるから・・。」
「・・考えですか?」
「ええ・・ガスティン侯爵家については王家と共に対応を取ることになっているから・・伯爵家だけでは動くことができないの。だからあなたの家族についてはもう少し待っていてほしい。」
「ルイザ様・・!何から何まで・・本当に・・ありがとうございます。このご恩は忘れません。」
ハクはルイザのその言葉が本当に有難かった。




