第十話:怪しい者
シイナがシンシアの部屋にニックとアタンを連れ戻った時、シンシアは泣き止んではいたがまだルイザに抱き着いていた。
「お母様・・・」
「シンシア、大丈夫よ。もう傷つけない、傷つかせないわ。遅くなって本当にごめんね。」
「ううん。私こそ・・悔しくて見返してやるって思って、勉強を頑張ってたんだけど・・上手くいかなくて・・」
ルイザはシンシアを抱きしめながら、シンシアが必死に解いていた問題を見る。 それは大人でも難しい内容であり、ルイザはさらに怒りがこみあげてきた。
「これは・・シンシアの年齢で解ける問題ではないわ。私も大人になってから勉強した内容よ。」
「・・そうなの?」
「ええ、そうよ。それをシンシア、あなたはここまで解けるようになったなんて!すごいじゃない!」
「えへへ、そうなんだ!うふふ嬉しい!お母様に褒められちゃった!」
シンシアは嬉しそうに笑う。
そんなシンシアの頭を撫でながら、ルイザは近くに寄ってきた3人に問題集を見せる。
3人は驚愕した表情を浮かべた。
家庭教師はその会話を聞きながらブルブルと震えていた。
「あなたはこの問題が今のシンシアの年齢に合った問題だと思っているの?」
「い・・いえ、その・・」
家庭教師はモゴモゴと歯切れの悪い回答をする。
「何?」
「・・・・・」
「黙っていても分からないんだけど。ニック、この人の推薦状はあるの?」
「は、はい!丁度持ってきています!」
ルイザはニックから推薦状を受け取り目を細めた。
「へえ、あなたはフリーダ男爵夫人で、推薦人は・・またファートン子爵ね・・。まあいいわ。それで、何故あなたはこの問題を解かせて、解けなかったら鞭打ち?をしていたのかしら。」
自分の名前や推薦人を知られビクっと震える家庭教師は「あ・・う・・」と何かを発しようとするが、何も言えない様子でうなだれ、ルイザの顔を見ないようにしていた。
その様子を見ていたシンシアはルイザに尋ねた。
「お母様、私、こういう教育はお母様からの指示でしているって聞いて我慢していたんだけど、違うの?」
シンシアの発言にルイザは驚く。
「え?私からの指示??そんなはずないでしょう!」
シンシアはホッとした様子で胸を撫でおろす。
そして冷たい目線でフリーダ夫人を見下ろした。
「そっか・・そうだったんだ。良かった・・夫人が、この教育内容はお母様に命令されたって言ってたからそうだと思ってた。」
「お、お嬢様!!」
フリーダ男爵夫人が焦り始める。
「あなた・・一体どういうことですか・・」
「・・これは私が今までほかの貴族の家でもやっていた教育方法です!騎士だった奥様にはわからない、貴族令嬢としての基本的な教育なんです!!!」
フリーダ男爵夫人は急にヒステリックになり叫びだす。
ルイザは深いため息をついた。
「それでは仮にこれが貴族令嬢の基本的な教育だとします。ではなぜ、鞭で打つ必要があるのですか?私やシンシアを貶める発言をする必要がありますか?」
「・・・・・」
「ああ?自分に不都合なことがあればだんまりか?」
ルイザの額に綺麗な青筋が出てきて鞭をバシバシ言わせながらフリーダ夫人を問い詰めている時、シンシアがルイザに言った。
「お母様、私も一緒に理由を聞きたい。」
「まだ、血みどろなことは早いわ、シンシア。」
((((ルイザ様、血みどろなことをするつもりだったんだ)))
2人の会話を聞いていた3人は心の中で思った。
「お母様、私前に話したでしょう?私もお母様みたいな騎士や領主になりたいって。私にもきっと、血みどろな経験は必要だと思うの!それに今までしてきたことをこの数日間全否定されてたから、何が正しいのかわからなくなったの。この方への罰を見て、聞いて私も・・全貌を知りたいわ」
「・・シンシア・・!!いつの間にこんなに立派になって・・!!」
ぶわっと嬉しい気持ちがこみあげてきたルイザはシンシアに抱き着く。
(シンシアはこの年でこんなに成長していたなんて!!)
ルイザの心の中は花吹雪が舞っていた。
((((この母にしてこの娘))))
シイナ、ニック、アタンはルイザの血の濃いさを感じていた。
元々シンシアはルイザに瓜二つな見た目、思考回路をしており、好戦的な性格の令嬢だった。
だが今までされてきた恐怖はぬぐえておらず、ルイザの手を握りしめる手は震えていた。
ルイザはその震えに気づき、両手でシンシアの両手を握って伝えた。
「シンシア。お母様に任せて・・!」




