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第74話 原初の火

「しかたない。依頼の達成優先よ。ガリュー、今度はあなたが最後尾について」

「待って、いやよ。私はこいつに疑われているのよ。そんなやつに背中を見せられないわ。だって、こいつがシロだって、決まったわけじゃないのよ」

 レムルスが必死の表情で言った。その声にアルトが別の案を出す。

「カタリナ。ガリューは先行で、レムルスが中衛、私とカイラルが後衛でどうかしら?」


「いい案だな。一見まともな提案だが、お前とレムルスがグルならこれほど都合のいい案はねえ」

 ガリューが大げさなゼスチャーで言った。


「確かにね。でももうモタモタしていられない。アルトの案で行くわ」

 カタリナが決断した。実際この配置はベストと言える。


「敵襲、前方に備えろ!」

 暫くしてガリューが叫んだ。

「待て、後ろからも来るぞ、挟み撃ちだ」

 パーティーの意識が前後に分断される。

 中衛だけ。すなわちレムルスだけが両にらみの構えを取れる。それは前衛も後衛も彼女に背中をさらしたことを意味した。


 レムルスはバードを狙った。なぜか分からないが、アルトは自分を明らかに擁護している。なら狙いはバードだ。そのレムルスの身体が視えない力で押しつぶされた。

「見ろ、敵はレムルスだ!」

 ガリューの言葉で全員が振り返る。そこには魔力で地面に縫い付けられたレムルスがいた。手にはさっきのとはまた別の形の短刀を持っている。


「悪いな、敵襲と言うのはウソだ。お前の暗殺は稚拙だ。引っ掛かってくれると思ったよ。リーダー、どうする?」

「任務は継続よ、そして裏切り者には……」

 鉄鞭が唸った、その鞭が弾かれた。物理防御魔法。


「やはりグルだったか」

 カタリナがアルトを睨みつけた。

「釣られたわけじゃないわよ。私は別にグルじゃない。初めて見た顔だし、目的も知らない。ただ、私の家がこの辺にあるから、あなたたちに荒らされるのは困るのよ」

「やはり、敵か。死ね」

 カタリナの鉄鞭の秘技、エッジドアイアンウィップ。音速の鞭が襲い掛かるがアルトの防御魔法を破れない。


 それを見てカイラルが魔弾を撃った。物理防御は魔法には無力だ。

「リフレクション!」

 対魔法反射魔法。カイラルが自らの魔弾を受けて吹っ飛んだ。

 尚も攻撃を仕掛けるカタリナをガリューが制す。


「こいつは只もんじゃない。リーダーの手には負えないぜ。さて、それであんたは誰だ?」

「あなたたちが結界をどうにかしようとしているその付近に住むものよ。あの結界はモンスターの侵入を阻むためもの、農作物への影響はないわ。不当な侵攻をしているの西ゲルニアであって、その依頼に従うあなたたち。私の立場は分かってもらえた?」


 カタリナの顔色が変わる。

「あんた、まさか、トライアドのヒルダ……」

「いいえ、期待を裏切るようだけど、違うわ。私はメリッサ・アビスフィールドよ。ガリュー、あなたの本名は?」

 カタリナなど眼中にないようにガリューに名前を聞く。


「ガルム。トレルボのガルムだ」

「魔人か……」

 二人のやり取りににカタリナもはっとしてガルムを見る。ガルムは気にせず話を続けた。

「その女も仲間か?」

 レムルスのことだ。

「彼女は、知らないわ」

 その言葉にレムルスから一同が視線を外した瞬間、レムルス立ち上がって気絶しているカイラルに乗りかかった。短刀を何度も突き立てる。

 ガルムが山刀を一閃させると、届くはずの無いない距離にいるレムルスの首が飛んだ。


 カタリナが駆け寄ったが、カイラルも既に絶命していた。

「この女が何者かは知らないけど、この短刀の柄にある紋章は私たちが暗殺した子爵家のものだわ」

 冒険者ギルドに対人間の依頼は一切ない。だが、腕利きのパーティーには貴族とか、あるいは非合法な組織からその手の依頼が直接来ることがある。大抵はモンスター討伐より命の危険は低く、報酬も高額だ。カタリナたちは何度かその手の依頼をこなしたことがあるのだ。


「この女のことはどうでもいいが、お前の目的はなんだ?メリッサとやら」

「何日か前に、高い魔力をもった奴が結界を荒らしに来たわ。でも手が出せなかった。理由は魔人だから。でも結界をどうにかする方法はいくらでもある。手っ取り早いのが人間にやらせればいい。私は魔力の痕跡を追って、西ゲルニアのギルドに行った。そこで出会ったのがあなたたちよ。カタリナ、あなたは逃げなさい」

 メリッサが逃げるように言ったが、カタリナの首を背後からガルムが掴んだ。

「初めから俺を追っていたのか。そうと知ったら、ここで殺すしかねえな」


 ガルムが軽々とカタリナの首を掴んだまま持ち上げてメリッサに彼女を投げつけた。メリッサの視界をカタリナの身体が塞ぐ。その状況でガルムが山刀を斬り下ろす。

 空間剣。メリッサが飛びのいた。カタリナの身体が三つ四つに空中で切断されたのを見た。更に距離をとろうとしてメリッサはバランスを崩した。右足首が切断されている。

 咄嗟にメリッサは首にかけたネックレスを引きちぎった。


 いくつもの魔石をつなげたネックレス。引きちぎられたネックレスから魔石から飛び散る。その魔石は高速で飛びまわりガルムの周りを囲んだ。

「悪しき魂を浄化せし、太古の雫よ、汝が敵を滅せよ、ケイブライト」

 魔石が縦横無尽に飛びながら、光弾を発してガルムを撃つ。血しぶきが飛び散る。10数発がガルムの身体を貫いた。その魔石がビタリと地面に惹きつけれて張り付けられた。

 メリッサもだ。

 重力魔法……。さっきレムルスを地面に這わせたのはこれだ。身体が重くて持ち上げることが出来ない。血だらけのガルムがゆっくり歩いてくる。ゆっくりと歩いてくるその左腕がボトリと落ちた。ガルムも先ほどの攻撃で満身創痍だ。

 もう少し急所狙えたなら……。ここまでか……。

 あれだけの重傷を負いながらも強い魔力だ。動かそうにもびくともしない。


 天空の魔力をこの手にしてみたい。何度も魔学の屋上で満点の星に手を伸ばした。霊樹を通じ大地に流れた魔力。それを操る能力は魔人に人間は及ばない。でもヒルダは少しそれが出来たし、クリスはさらに上手だった。だがメリッサは満天の星から直接その力を得たいと願った。いま大地に張り付けられ、地面から魔力蠢きを感じる。

 そして僅かに感じる。天空から粉雪のように落ちてくる魔力。その魔力を集めて、地表の魔力を中和しようと試みた。


 霊樹を経由することなく、魔力の経路を自分に繋げた初めての生命。メリッサはそれだ。

「フライフォリア!」

 飛翔の魔法を唱えて天に駆け上がる。ガルムが逃がさじとばかりに空間剣を放った。物理的距離を無視して空間ごと断ち切る魔力の剣だ。


 メリッサの両脚の膝から下が地面に落下し、張り付けられた。それでもメリッサは重力魔法から逃れるように上昇していく。

 何度も詠唱し、いずれも何事も起こらなかった魔法。文献ではしかし、過去に一度人間が使ったことがあると記される魔法。

「原初の火よ、うっしょの穢れを焼き払え。フレイムオルドビス!」

 杖から光弾が放たれ、地上のガルムに直撃した。その瞬間、大爆発が起こり、爆発によって生じた高密度の摩擦エネルギーが雷を引き起こす。爆発の中心部から四方に雷が伸び、爆炎と黒煙が一帯を包んだ。


 ようやく地表が視認できるようになって、メリッサは男の下半身だけが燃えているのを見た。上半身は弾け飛んだのだろう。カタリナたちの死体も、切断された自分の足も見当たらない。爆発に巻き込まれて消失したと考えるしかないようだ。

 それはつまり、脚の修復は不可能ということだ。止血だけしてメリッサは空中を飛びながら家を目指した。失血で意識を保つのが難しくなってきている。高熱を発している。それでもメリッサは家路を急ぐ。この先どうなるか分からないが、今はまだ戦いの渦中。自分だけ休むことなどできないのだから。


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