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第67話 ブラックナイツ

 交渉の不調から王女の監禁、そしてオルドゲラード襲撃を受け、その上で監禁した王女を奪われた。。面子丸つぶれの東ゲルニアは起死回生の一手としてアイシスに侵攻した。反乱鎮圧。それが名目だ。


 オルドゲラード丘の虐殺は首都に向かう民衆を東ゲルニア軍隊が虐殺した事件だ。

 東ゲルニア軍はこの事件を反乱と断じ、鎮圧のためにアイシスに派遣した。東ゲルニア軍は、神殿騎士を打破ると大聖堂を焼き払ってさらに南下した。

 反乱者の返還に応じない王女領は反乱の黒幕と宣伝し、宣戦布告したのだ。


 王国第一騎士団が国境に派遣された。派遣されたというか国王オレオン二世が自ら出陣した。

 以前触れた通りオレオン二世は死んだ兄の影武者だ。かれはここで武功を立て、正当な王の後継者を堂々名乗る腹積もりなのだ。


 王女領には後詰の兵が到着した。

 その威容に領民は活目した。黒で統一された軍装。一糸乱れぬ行進。

「辺境伯の旗だ」

「サークエル軍だ」

 その威容を領民は拍手と喝采で出迎えた。

 かつてのワグナー軍の残党もザガードは自国に勧誘した。歴戦のつわもの達を加え、ワグナー公を模倣した軍装で整える。黒騎士カイエンは今も尚、彼らの、そしてザガードの憧れだ。

 そしてこの軍隊のもう一つの特徴が剣に結ばれた青い剣緒である。


 サークエル伯爵夫人サラが最初夫であるオーウェンに頼まれ剣緒を組んだ。赤い剣緒だ。彼女はなぜか夫の部下達の分も組み始める。慌てたオーウェンがそれは夫に贈る者だと辞めさせたのだが、彼女はどこからか、姉が兵士である弟に青い剣緒を組んだという話を仕入れてきた。そして青い剣緒を組み始めた。結局彼女は騎士全員の分を一人で組んだという。


 騎士たちは感激した。いつも気さくに、しかし何の私心も無く無邪気に声をけてくれる伯爵夫人。彼女は騎士達に愛されていた。そしてひとりひとり全員分の剣緒を一人で組んだ伯爵夫人との絆はいっそう深くなっていく。

 コンテッサ・ブラックナイツ。彼らはそう名乗った。伯爵夫人の黒装騎士団。

 後に彼らは世界で最も勇敢な騎士団と呼ばれる。彼らにとって主は夫人。伯爵本人などは指揮官に過ぎない。だがその指揮を取るのはサークエル伯爵ことオーウェン・ザガード。生涯無敗の指揮官だ。


 ◇◇◇


 王女領は治安も良く、規律が行き届いている。エステバルと言う男が治安組織を指揮しているが、これがなかなかいい。そのそばにいる女性もなにやら只者ではない。

 ザガードは感心した。

 そして領内の子どもの多さ。トライアド地区から避難させてきた領民を大きな施設が収容している。子どもがたくさんいた。


 ザガードの目頭が熱くなる。あの王女はただの策謀家ではない。

 邸内に到着の挨拶に行くと、途中でソフィがいた。左右に騎士を連れている。

 一人は黒髪片目の壮年。もう一人はベージュの髪の若い騎士。

 足が震えた。腕に鳥肌。


 強者を一目で見抜く才能、。これも彼が負けない理由だ。勝てない相手とは戦わない。

「あら、ザガード。早かったわね」

 にっこり微笑むソフィはやはり美しい。

「ほら、これでも食べなさい」

 ソフィが片手の手のひらを上に向けて黒髪の騎士の前でひらひらさせる。すると騎士は懐からぺろぺろキャンディを取り出し、彼女の手に渡した。


 唖然としているザガードにそれが渡された。アヴァロン名物魔法飴。魔法はもちろんかかっていない。単にそういう商品名だ。


「ちくしょう、ちょっと溶けてるじゃねえか」

 包み紙を外すとべとべとだ。あの騎士が懐に入れてたせいだ。ちょっと気持ち悪い。だがザガードは食べ物を粗末にしたりはしない。したことがない。なにより妻の大好物だ。妻の分はすでに部下に命じて大量に買い付けに行かせてあるので、これは自分で食べよう。


「お、お前、なに食ってるの?」

 扉を開けて廊下に出てきたプリシラが白い眼で見てきた。

「こ、これはソフィ様からいただいたもので、しかも溶けていて、まさか捨てることも出来ず、どうしようかと……」

「入りなさい」

 ため息と共にプリシラが言った。


 部屋に入るとプリシラはまずザガードを労った。

「長旅ご苦労だったわね」

「とんでもない。俺が来たからには百人力と言いたいところですが、ソフィ様の連れていた騎士、強そうでしたねえ。何者ですか?」

「ああ、若い方はクリス。帝国の今は亡きアリオロス陛下に交流戦で勝った男よ」

「なるほど納得です。もう一人はもっと強そうでした」


「どの程度と思う?」

「俺は黒騎士に仕え、さらに七竜公も間近に見ましたがさらに上かと」

「ソフィが言うにはこの世であの男に勝てるものはいないそうよ」

 プリシラは笑っていない。ザガードは背筋に流れる汗を感じた。


「あの治安隊もいい。隊長の横の女性は誰ですか?」

「ああ、きっとメリッサね。メリッサ・アビスフィールド。レベル3ポゼッサーの魔法使いよ」

「そんなのが……」

 さすが王女の人脈と言うべきなのだろうか。

「ちなみにレベル4ポゼッサー、大陸1の魔女ムーンストーンハイランドも今来ているわ。今の時間は子ども達と一緒じゃないかしら」

 聞いたことのある名前だ。それにその大陸1のライバルが先ほどのメリッサだったはず。


「あの、オレ、することあるんすかね?」

 情けなさそうに聞き返したザガードだが、彼こそ後の王国大元帥。そしてもっと言えば共和国初代大統領の実父である。この時本人もそれを当然知らない。


 トライアド周辺の住民は全て領内の施設に退避させその周辺からはるか先に防衛ラインを敷いた。

 配置されたコンテッサ・ブラックナイツがざわつく。なにせワイバーンが数頭使役されている。敵はあんな者に襲われるのか。先に教えてあげたい位だ。そうすれば戦闘を回避できるかもしれない。


 ザガードは当然これを戦術として組み込んだ。最初にワイバーンの姿を見せ、交渉に入る。交渉決裂なら焼き払うまで。負けたことのない彼だが今回ほど敗北の匂いが希薄な戦いは初めてだ。

 何かある。それはおそらく西。すなわち東ゲルニアから見れば敵国、西ゲルニアだ。


 ザガードの予感は的中した。王女領救援に向かっていた王国第一騎士団他の部隊が反転を始めた。西ゲルニアが王国内に侵入し、王都に迫っているというのだ。

 オレオン二世は反転までの決断に時間を要した。つまり報せを聞いてすぐに反転しなかったのだ。

 この時、王都に彼らのうち一人でもいればあるいは。

 ゼビル、エステバル、プリシラ、ソフィ。王宮で護国の力、能力を持ちえたものたちはみな、いまは王女領にいる。


 西ゲルニアは自国領と見做している東ゲルニアが王国と戦争になったことで王国との関係はすでに開戦済みとした。

 セントラルアクシス戦役で主力を失った王国への進軍は文字通り無人の野を行くものだった。

 その上で王都には調略も施した。進軍に内乱を呼応させたのだ。王都は反乱貴族と王国正規軍との間で戦闘になった。


 王国軍薔薇騎士ミネルヴァはその知らせを城外で聞いた。撤退する本隊を迎えに行くよう命を受けて出撃し、その後に命を下した貴族が反乱を起こしたのだ。ミネルヴァは反転して燃え盛る王城に突撃した。


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