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第61話 冒険者たちとの邂逅

 一緒に行こう。一緒に樹を植えに行こう。二人に誘ってもらいウルスラは嬉しかった。悲しみの代わりになるものではないにせよ、落ち込んでいるときは前向きな、建設的な行動が一番だ。


 そして前向きになれたなら、他の誰かに思い至る余裕が生まれる。本当の孤独は同胞を持たないクリスにこそあろう。

 いや、あのシグルドが同胞だろうか。唯一の。


 それはともかく、思い至れたのであれば、後は行動で示すべきでだ。今はこの二人に協力的であることが最大の行動だ。

 その上、ウルスラにはこの二人では足元にも及ばない特技がある。料理だ。ソフィに会うまでプロの料理人を含め、同程度の腕前を持つものに会ったことがない。ソフィと一緒にした料理はとても楽しかった。一緒にお弁当を作った。クリスやテオドラにふるまうためにソフィと一緒に作ったお弁当。

 思い出が眩く蘇る。クリスやテオドラ、みんなとずっと一緒にいたい。


 ウルスラたち三人が着いたのは東方諸国の一つだ。この周辺の国々たちは連邦国家を形成して中央の圧力に対抗してきたのだ。東方諸国連邦、或いは東方連邦などと呼ばれる。


 このあたりはザガに似ているが、ザガほど中央集権化は進んでいない。またザガほど王国の文化に同化していない。

 そしてギルド活動が活発な地域でもある。


 そこの宿でとある冒険者パーティーと一緒になった。その中にテオドラは見知った顔を見掛けた。

「ロバーツさん」


「え、ああ、たしか魔学の……、い、いや、違う、違うぞ」

 肯定しかけて慌てて否定する男。

 二人は三校交流会で戦った。それは事実だ。しかし男はあの時、ソフィの魔法で見た目を変えていたのだ。


「テオドラに目くらましの術は効かないんですよ」

 クリスが言う。クリスも大会概要説明会で、5人にいた目くらましを全員見破っているのだ。

「そ、そうなのか。で、では改めて。マイク・ロバーツだ。あの時は世話になった。き、君も覚えているぞ。武技の部で優勝した魔学の生徒だ」


「クリスです。よろしくお願いします」

 クリスに続いてテオドラも挨拶する。

「改めましてテオドラ・ブルーバードです。よろしくお願いします」


「俺は今は冒険者をしているんだ。自由な生き方に憧れてね。これでも王国魔道騎士団の団員だったからね。モンスター退治は仕事として何度もやったことがある。パーティーの名前は『ゴールドダガー』。そこそこ有名なんだぜ。君たちほどじゃないが。ところで、報酬は弾むから手伝ってくれないか」


 ゴールドダガーはこの街で高額賞金の依頼を見つけたが、単独では難しそうだと躊躇っていたところ、ギルドで合同討伐の話が持ち上がった。

 聞けば数組のパーティーがクランを組んで依頼に向かうのだという。

 討伐対象は通称ホワイトフット。どこからか流れてきたモンスターで正体不明だ。

「なあ、出来たら同行してくれよ。賞金は半分やる?どうだ?」

 ロバーツの言葉にクリスは迷った。モンスター殺しは正直趣味じゃない。


「テオドラ・ブルーバード……」

 ゴールドダガーの前衛戦士はその名前に記憶があった。


「ああ、サスキア。あれが有名な魔学の二人だよ。特にテオドラとは直接戦かったことがある。王学や魔学が参加する交流会で。ぼろ負けだったど」


 思い出した。

 マイクが言っていたマジックアイテムで学生に化けて三校交流会に出た話。学生に化けて、ばれないということがあるだろうか。信じていなかったが、本当だったのか。そしてこの彼女が魔法の部の優勝者。

 話の筋から言うと、彼が……?


「クリス・ディムランタンさん……?」

 頷くクリス。


 サスキア・オリオン。偽名だ。彼女は直接の面識こそ無いものの、あと一歩のところまで彼らに接近したことがあった。テオドラ。友人ジータ・イーマが手も足も出ずに敗れた相手。クリス。あの恐怖の剣姫ミネルヴァを赤子扱いした剣士。

 見たい。噂が本当かどうか。


「ねえ、一緒に行こうよ、いいでしょ?ね?ね?」

 サスキアはもう一人の少女、ウルスラを攻めた。彼女が一番乗りそうな顔をしていたからだ。

 クリスは特に乗り気じゃなさそうな顔をしている。クリスはモンスター討伐が好きではない。


 ウルスラも殺生は大嫌いなはずだが、今は彼らと一緒に行きたいと思っているようだ。

 モンスター討伐が依頼だから戦闘になる。

 彼女は戦闘では全く役に立たないが、独自の治癒術を持っている。

 結局クリスはウルスラに説得された。


 クランのリーダーは有名パーティー「ケルベロス」に決まった。前衛3人、中衛2人、後衛1人の6人組み。

 前衛三人が特に強い。ケルベロスの原型はこの三人組みだ。

 長めのオリエンタルブレードを背中に背負うシュレンがリーダー。鎖鎌を持つ女戦士オリビア。巨大な両手カギツメのワイルダー。


「お前たちがゴールドダガーかい?少しは聞いたことがあるけど、子どもばかりじゃないか。足手まといはごめんだよ」

 オリビアは妖艶な雰囲気の戦士だ。紫色のルージュが毒々しい。

「こ、子ども?」

 ウルスラがキョロキョロしている。

「あんたのことだよ。あんただけじゃないけどね」

 オリビアが笑った。

「ちょっとあんた、いい加減にしなさいよ。これから協力するんでしょ?」


 割って入ったのはサスキアだ。

「ふふ。経験不足が剣を持ったようなあんたに説教されるとはねえ」

 なおも笑うオリビアをシュレンがたしなめた。

「そのくらいにしとけ。ガキでも仲間は仲間だ」


 ようやく分かれた二組だが、サスキアは収まらない様子だ。

「あんたも仲間をバカにされて黙ってんじゃないよ」

 矛先はクリス。


「あ、そうだった。ウルスラ、ごめんな」

「え?ぜんぜん……」

 のんびりした雰囲気のクリスたち。ロバーツはそれが真の姿ではないことを知っている。ウルスラを見るのは初めてだが、この二人と同行しているのだ。おそらく只者ではない。


 そう思ったロバーツだったが、その予想はすぐに裏切られた。ウルスラは、ホワイトフットらしき巨大なモンスターを視認するや否や、ヒイッと悲鳴を上げて樹の裏に隠れてしまった。ガタガタと震えている。


「おい、ダガー!なにしている!」

 シュレンの怒号。その間にも別のパーティーの連中がホワイトフットの一撃で血を噴出しながらバラバラにになって中空を舞っている。


 目の前にいるホワイトフットの全貌。背中に黒い鱗が甲冑のようだ。他は白い毛に覆われ、強大なツメに、サーベルタイガーの牙。

 全長4メートルほど。巨大な熊とトカゲの中間のようなモンスター。恐ろしい姿に見上げる体躯。ホワイトフットというネーミングはやり直すべきだろう。このモンスターの凶悪さをもっと名前で表現すべきだ。


「うわああ……」

「いやああ」

 ワイルダーとオリビアが逃げる。シュレンもその後を追う。

 サスキアは逃げていないが恐怖に叫んでいる。足が恐怖で金縛りになっているのだ。


 仕方ない。殺すのは嫌だがこれでは人間の方に死人が出る。ホワイトフットの前足の一撃を誘い、その一撃はクリスにかわされ、地面を激しく打った。クリスはその前足に乗るように蹴り上がって空中でムーンサルトの動きでホワイトフットとすれ違いながら真・円舞斬。着地と同時にホワイトフットの首が地面に落ちた。

 ずずずううん。

 500キロの巨体が崩れ落ちた。


 シュレンたちが振り返る。

「なんだ?まさか、しとめたのか?」

「うそでしょ?」

 逃げた連中も恐る恐る戻ってきた。ホワイトフットのこともそうだが、驚いたのはホワイトフットに引き裂かれた連中が無事だったことだ。


 身体が半分になっていた奴とかバラバラに四散した奴もいたはずだったが見間違いか。ウルスラが引き裂かれた五体を血と血で結んで結合し、テオドラが治癒魔法を使ったのだ。この二人なら即死は無理だが、ほぼ即死までならなんとかする。


 そしてクリスにとってはホワイトフットはキング・オージュールほどではなかった。


 サスキアは見た。ホワイトフットに弾かれ、裂けて飛び散った肉体が宙で静止し、四散する血液が肉体に戻っていく、というか傷口、いや切断面に吸い込まれていくおぞましい光景を。パニックになりかけた。そして次に目の前でクリスが振り下ろされたホワイトフットの前足を蹴ってさらに高く飛び、すれ違いざまにその首を切り落とすのを。


「サスキアさん。どうぞ」

 ウルスラが布をサスキアの腰に巻いた。世話好きの彼女はすぐに気づいた。サスキアは恐怖のあまり失禁していたのだ。二人の視線が交差する。一人は恥ずかしそうに。一人は優しい笑顔。


「私の本名はサーナキア・オライオン。帝国のブラッククロー公爵家に仕える家柄の出身です」

 彼女は正体を名乗った。


「ミネルヴァ・ウエストザガを簡単にあしらった剣士の名は聞いていました。私はミネルヴァを目の前で見たことがあるので彼女が簡単に敗れるなど信じられませんでしたが、先ほど見た技量なら納得です」


 あんなことが出来る人間は他にはいないだろう。この世界のどこにも。だがウルスラが空気を読まずに口を挟む。

「そんなことないよ。この間だって、テオドラが助けてくれなかったらもうちょっとで負けるところだったんだから」

「本当?今度こそ信じられない。その相手はいまどこに?」


「殺したわ、テオドラが。それも一撃で」

 誰も何も言わない。否定しないのは肯定と一緒だ。そう思ったときにテオドラが口を開く。

「あ、あれは不意打ちだったから……」

 事実かよ!

 でもどんな相手とは誰も聞かない。モンスターじゃなく、人間だったらどうしよう。


 サーナキアの話はこうだ。彼女は冒険者を辞めて故郷の貴族領に戻るという。

「そうか。お前はそれがいいよ」

 マイク・ロバーツは理解を示した。

「それでなんだけど……。出来たらロバーツさんたちも、一緒に来てもらえませんか?」

 仕官してほしい。そういう依頼だ。


 サーナキアの主君、ブラッククロー公爵家はゲルニア帝国にある。

「いいよ。一緒に行こう」

 サーナキアの顔が喜色に綻んだ。


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