第56話 憂き身をやつす
混乱の帝都。新皇帝はまだ幼く、傀儡だ。実権を握るのは宰相となったボーリンゲン。
彼は前皇帝の寵姫メーレルの兄だ。
壊滅同然のインペリアル・パラディンは解体され、生き残った者は投獄された。
皇帝を守れなかった責任は彼らにある。死んで詫びるならまだしも、おめおめと生きて戻ってきたのだ。
万死に値する。青の1ことマックスは脱獄した。偽皇帝の手で縊り殺されるのは耐え難い。死ぬのが怖いのではない。生きて戻ったのは復讐のため、皇帝の敵討ちのためだ。
残った三人もマックスの手引きで牢獄から出して4人で帝都を抜けた。山に入り、そこで襲撃を受けた。追っ手ではない。山賊だ。取り囲まれて弓矢で狙われている。
マックスは首領がどれか、見定めた。
こいつだ
その男に駆け寄って首を刎ねる。瞬時にその男の周囲、数人が屍となった。
山賊はその場に膝をついて命乞いした。そして首領になってくれと頼んできたのだ。
「頼むよ、あたいらを助けてくれよ」
そういうのは一番年下と思われる少女だ。
「お前は?」
「あんたが殺した首領の娘だ」
山賊か……。誇り高き聖騎士の成れの果てがこれか。
「首領にはならんが、一度位は手伝ってやろう」
山賊程度がお似合いかもしれないと、そう思うマックスだった。
山賊は30数人だ。女はこの少女一人。商隊を襲ったり、村を襲撃したり、傭兵に雇われたり、そんなことを繰り返して生計を立てていた。
商隊は襲うこともあれば依頼で護衛することもある。
今日の依頼は護衛だ。山賊旗を掲げて護衛するのは、友好的な山賊からの襲撃を予防するために掲げるのだ。だが敵対している山賊や山賊を取締る正規軍からは逆に狙われる。
だから護衛するルートや場所によって使い分けるのだ。友好的な山賊の縄張りでは旗を掲げる。その場所で襲撃を受けた。
敵は30人ほど。こちらの護衛は20人。弓の斉射で犠牲者が出た。マックスたち四人が馬で反撃に向かう。この四人の戦闘力はけた違いだ。
敵わないと見た敵の山賊はその場で降伏した。
「なぜ攻撃してきた」
友好関係にあるはずだとマックスが詰問すると、彼らはより大きな山賊の傘下になったのだという。150人を超える規模の大山賊だ。
夜襲を行う。そう主張したのはミリアだ。メルギド復讐戦の練習だと言うのだ。
「この程度で怯んでいたら陛下の仇は取れない。敵はもっと大胆だった」
7万の陣中に潜入し皇帝を討った敵。そう考えると恐ろしい。
なら150人程度は人もいないに等しいと言える。
決死隊20人。これで敗れればこの山賊は壊滅だ。首領の娘、ラム。彼女は自分も行くと言ったが、もちろんそんなことは許されない。
いざとなれば4人で突撃する。正直、山賊連中は当てにならない。勝ち馬に乗ったと知れた時しかまともに動かないだろう。
弓と蛮刀ともった山賊を従え、マックスは先頭に立つ。先頭に立ったマックスを追い越して敵の山塞に突っ込んだのはミリアだ。
なぜあの時、自分は陛下のそばに居なかったのか。
当直などは言い訳に過ぎない。姉の想いも背負って陛下に命を捧げる。そう誓ったのではなかったか。メルギドに復讐する。
それだけ。それだけが自分に残された命の使い道だ。
深夜に急襲に山賊たちは浮き足だった。何が起こったかさえ分からないものも多数。攻め込まれるなどと夢にもおもっていなかったのだ。反撃を試みた者も一刀のもとに斬られる。技量が違う。経験も違う。攻め込んできた敵は血刃をかいくぐり、血風の中を進んできた猛者たちだ。
血の匂いと悲鳴。暗闇の中、混乱同士討ち。
「待ってくれ、降伏する。降伏するから斬るなあッ」
誰か叫ぶと他の山賊たちもそれに倣った。
山塞はミリアの突撃から30分ほどで陥落した。
ミリアは大山賊の首領となったラムに向き合う。
「ラム。街に行って普通の暮らしましょ?ラムのような子を預かってくれるところがオレルネイア王国にあると聞いたわ。山賊なんかしてちゃだめ。いつか裏切られて殺される」
自分だってどうなるか、分からない。
分からないと言うか、死ぬしかないのだ。メルギドに切り込んで、死ぬしかない。この子にとっては親の仇の一人だ。
そんな立場をこだわっていては死ぬ前に何もできない。せめてこの子は生かしたい。この山塞に残したところで、暗い未来しかないのだから。
「どうかよろしくお願いします」
ラムを連れて向かった先の街にある学校で、副校長だと言う若い先生にラムを託す。戦争孤児。王国アヴァロン付近にある王女領はそういった子供たちを保護している。
かつて宮廷で大臣まで務めた男がその責任者をしており、そのための大きな施設もある。そして子供たちを指導するのがトライアド魔法学校の先生だ。
帝国の騎士であったミリアには分かる。いたるところに防衛兵器が用意され、兵士の訓練が行き届いている。
領内は様々な産業が誘致され、賑わいそして経済的にも豊かだ。よほど領主が有能なのだろう。
「ミリアさん。事情までは私どもは聞かないことにしています。ただ一つのお願いは、また子供たちに会いにきてほしいのです。それだけお願いしております」
メリッサ・アビスフィールド。思い出せないがどこかで聞いた名だ。清廉でしかし厳しい雰囲気が漂う若い先生。
「私も、そして校長のムーンストーン・ハイランドもその日の再会をお待ちしております」
思い出した。確かヒルダ・ムーンストーン・ハイランド。大陸最強の魔女。そのヒルダの好敵手とされたのがレベル3の魔法使い、メリッサだ。
ヒルダが大陸最強とされる理由。それは彼女がレベル4ポゼッサーだからというだけではない。彼女が称えられるのは、彼女が倒した相手が強大だったからだ。
「ええ、もちろん」
「いえ、あなたからはその気持ちが希薄に感じるのです。あなたはきっと大事な何かを抱えておいでです。ですが、命より重いものはありません。名のある騎士様とお見受けします。この地は戦火で済む場所を追い出された人たちが、不安なく暮らせることを目指した場所です。ミリアさんのお帰りをいつまでお待ちしております」
見透かされた。だが、どうしようもないこともある。丘の上で仲間が待っている。もしかしたら、この地でラムたちと生きる道もあるのかもしれない。
そうは思う。だが死んだ仲間や姉の想いはだれかが果たさなければならないのだ。
四騎が駆ける。街を離れ、あてどなく。敗残の四騎。守るべき皇帝を守れず、かといって死に損ない、生きる場所も無い帝国の四騎。かつてインペリアル・パラディンと呼ばれた栄光の騎士団の残骸だ。彼らは死に場所を求めた。
◇◇◇
おなじころ、決意を秘めた一人が旅立とうとしていた。
「アウレリア」
呼び止められて振り返る。普段はトライアド魔術学校の近くで木工工芸品を作っている男だ。
そして彼女をアウレリアと呼ぶ人物はこの世に一人しかいない。
「シグルド」
「送っていくか?」
「ええ、お願いするわ」
二人が乗る竜は巨大な竜、バハムート種だ。この一頭で一国の首都を焦土に変えることもことも可能だ。必要であればそうするように手懐けたが、人間を殺し過ぎるので駄目だとソフィに念を押されている。
元凶はカイエンではなかった。メルギドにその答えはある。アリオロスの野営地に忍び込み、パラディンごとアリオロスを始末できる腕の人間は――、いない。
魔人か半魔だ。
人間同士の戦いではない。そうであれば自分が出なければならない。
ソフィは決意した。戦うことを。だがバハムートで丸焦げにすることは出来ない。裏で糸を引いているものを暗殺する。それで事態は変わるのだ。相手はおそらく魔人。
アリオロスを殺した手際から推測するに、強敵だ。




