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第33話 Ⅳ

 阿鼻叫喚の敵本陣。落石に続いて真上からの敵の襲来。混乱して同士討ちが発生している。敵は左手に赤のバンダナを巻いている。アリオロス陣営の撒いた虚報だ。バクスター派の剣士隊は全員赤のバンダナだ。

「すごい……。ついていく方を間違えなくて良かった」

 僅か数メートル先で長身の皇帝が打ち取った敵の首を掲げている。バクスターの首だ。歓声が上がる。勝鬨が響く。


 先代を遥かに超える決断力、行動力、カリスマ。剣の腕も自分たちを優にしのぐ。

 帝国は安泰だ。

 良かった。でも、もう少し長くお仕えしたかった……。


 青の4ことライラは乱戦の中、わき腹を槍で貫かれ、致命傷を負った。傷口から血が流れ続けている。皇帝を見上げる瞼が重くなってきた。寒くて眠い。

 でもまだ寝たくない。この皇帝と一緒に未来をみたい……。

 初代ネメシス陛下もかくや。薄れゆく意識の中おもう。彼はネメシス陛下の再来だ。


 黒龍山の天落とし。後世でも軍事学戦術学の教材となる歴史上有名な戦いでパラディンの唯一の戦死者が青の4ことライラだった。騎士団の紅一点でもある。


 混乱の帝都に帝国元帥イグナス卿が入場した。彼は帝都手前でバクスター派の軍隊8000人と交戦し、散々に打ち破った上での堂々の入場だ。イグナスの2500人が合流し、帝都の治安は回復した。


 ◇◇◇


 翌日広場でバクスターの首が晒され、その首の横で宮廷内で捕らえられたセレーヌとセリウスが斬首。

 セリウスはまだ子供だ。アリオロスは涙を流した。それはセリウスのためではない。大勢が死んだ。罪なき者たち。そのものたちのためだと。


 国民の大歓声。新皇帝が帝都を掌握したのを見届け、青の13は教会に向かった。安置されている青の4に最後の報告をするため。彼女の安眠を祈るため。


 そして日和見していた黒騎士カイエンこと公爵ワグナー卿が恭順を表明。宮廷の再編は急ピッチで進んだ。


 ◇◇◇


 フレデリカは王都の往来を小さな窓から見ていた。一室に閉じ込められ、出ることは叶わない。それでも日に一度はソフィが会いに来てくれる。もっともフレデリカを幽閉させたのもソフィだ。

 そしてクリス。

 魔学の寮から抜けて出てアイシス領に行こうとしたフレデリカを捕らえて王都に運んだのがクリス。話を聞いたソフィは王都に一室を用意し、そこにフレデリカを幽閉した。さらに事情を聴いたプリシラが護衛兼監視を用意して24時間張り付かせている。

 アレクシアにもそのことはクリスが包み隠さず報告しているので魔学の中でも混乱は無い。


 ソフィは何度も丁寧にフレデリカに説明した。


 正式な手続きを経てアイシス領に入ったジータ・イーマ達イーマ枢機卿に関係するものが投獄され獄中で殺されたこと。

 今いけば同じように捕まって殺される可能性が高いこと。


 そして帝国皇帝の暗殺。

 王国から出ることなど不可能だ。できたとしてもさせない。

 強い口調ではっきり言うソフィ。だがフレデリカも譲らない。


「ソフィのお父さんは健在じゃない!事情が違うんだよ!」

 それはそうなのだ。だが友人が抱える事情は、自分が友人を見殺しにする理由にはならない。そんなおり、また事態が動いた。


「フレデリカ。帝国がアイシス領に宣戦布告したわ。もう諦めるしかない」

 すでに帝国軍25000が進軍している。100人で12000人の反乱軍を破った戦上手の皇帝が自ら出陣し、その上、先鋒は七龍公筆頭だと言う。


 ソフィは昨日までシグルドと言い合いをしていた。アイシスの背後で糸を引いているのは半魔だと。そしてアイシス領でクーデターを起こし、実験を握る計画なのだと。

「そこまで分かっていてどうにもできないの?」

「まあ、半魔は殺す。だが、もう少し待てばもっと出てくるかもしれねえ。隠れている奴らがな」


 今動かなければより多くの人が死ぬ。それがソフィの主張。対してシグルドは戦火が拡がっても潜在的な敵が見えるなら様子を見たほうが良いと言う考えだ。


 だが帝国は、アリオン、いやアリオロスは予想より大きな討伐軍を結成し、徹底的にやるつもりだ。

 結局シグルドは折れたのだ。

「偽教皇の首を届けて停戦させる。王国を動かせるか?」

 仲介国が必要だ。ソフィは必ずやると断言した。


 ◇◇◇


 シグルドはアイシス領に入った。半魔との戦いになる。クリスのほか、ウルスラを連れてきていた。魔人とそのハーフの行く末。共存できるのか、もっと違うやり方があるのか。これは彼女たちの問題だ。


 大聖堂周辺、この辺を離れれば漆黒の闇だ。アイシス領は王都のような明るさは無い。

「魔力感知だ。お前なら半魔の位置がわかるはず」

「はい」


 シグルドに言われ、探るのはクリスだ。魔人駆逐の方法を覚えてもらう必要がある。

「気配を消せ。逆に探知されるな」


 相手の気配を感じながらの尾行。あいつが半魔だ。枢機卿の格好。人間に化けて国を裏から操っていたのだ。

「始末していいですか」

「いやまだだ、もう少し追うぞ」


 大きな家の前まで来た。男がドアに手を掛けた瞬間、男の上半身が吹き飛んだ。

「散れ」


 シグルドの声でクリスとウルスラが散開する。やったのはクリスではない。新手だ。

 だが――。


「テオドラ、テオドラだね。出てきて」

 無防備にクリスが庭の中央に出てきて声を駆けた。するとふらふらとテオドラが現れ、そして泣き崩れる。そのテオドラをクリスが抱きしめた。

 今見た魔法はホーリーブラスターだか何だかと言う神聖魔法だ。神聖魔法の中でも攻撃魔法は術者に代償を要求しない。文字通り代償を払うのは標的だ。こんなものを使える人間が何人もいてたまるか。


 二人の様子を見て警戒を解いたシグルドがそばに来た。

「どういうことだ?」

「分かりません。でも彼女の友達、フレデリカを王都に幽閉していることもあって、テオドラに断片的な情報を与えたのはボクです。それにテオドラは重力魔法を使える」

 クリスから聞いた断片的情報をもとに真の敵を割り出し、重力魔法を駆使してここまで来たと言うのか。


 クリスに習ったのであろう目くらましの魔法も使っている。

 魔人とはいえ人を殺すのも初めてだろう。どうして、ここまで……。


 ヒックヒックと言葉にならないテオドラ。だが振り絞るように。

「ジータの仇……。それに放置したらもっと人が……」

 そうだ。ジータとテオドラは仲が良かった。ずっと友達でいようね、と約束した。確かにあの時そう言っていた。テオドラはクリスたちが来ることを知らない。すべて一人でやろうとしたのだ。


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