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第27話 すごいヤツ

 マイク・ロバーツは昨日のことを悔やんでいた。あの日憧れた舞台、その舞台に立つことが出来た。浮かれてしまったか。もっとよく相手を観察すべきだった。あんな戦い方があったとは。マイクの対戦相手、フレデリカは念動魔術を得意としていた。


 だが魔術模擬戦では使いにくい。杖以外の武器の携帯及び使用は禁じられているし、舞台には何もない。動かせるものがないのだ。だが本来の彼女には秘技がある。アイシス教の秘技魔術、結晶の魔術だ。彼女は地中や構造物から結晶成分を抽出し、結晶体を作ることが出来た。


 だが反則にならないのか、微妙なところだ。なにせ、魔術の部では杖以外の武器の持ち込み、携帯、使用は禁止事項だ。


 いや、結晶は武器じゃない。

 もちろんそのこと自体は事実だ。問題はそれが物理攻撃なのか、魔法攻撃なのか、という点にある。


 マイクは先日まで現役の王国魔術騎士。その名に恥じない使い手だった。レベル2ラピッドショットでフレデリカを防戦一方にする。飛んでくる3連弾に、フレデリカは防御魔法を張るので精一杯だ。

 このままでは押し切られる……。


 防御魔法を張りながら結晶化の魔法詠唱。ペキペキと舞台の一部、壁などから結晶成分が集まり、中空で結合していく。

 ビシッ。


 飛ばすと舞台のシールドが反応して弾いた。

 対魔法シールドは有効だ。なら、悩まない。魔法シールドが反応する以上、これは魔法なのだから。

 マイクが気づいた時には無数の結晶の礫が四方から飛んできていた。まったく対処できず、シールドが赤く染まった。魔力を帯びていたからシールドが反応した。そしてこの攻撃がルールに沿うものとして認識された。躊躇うことなく使用できるということだ。

 しかし、実態は物理攻撃に近い。その上、その結晶は物質生成時から魔力を帯びているので、コントロールがし易い。本来制御が難しく、魔力の消費が激しい全方位からのフルレンジ攻撃が、結晶を介すことによってより容易に出来る。容易に、ということは、より多くの物量を、よりく制御できるのだ。


 フレデリカはアイシスの秘術、圧倒的有利を手にしてこの場に立っている。アビス研究会の中心人物だからではない。アイシス教皇の娘、そしてその能力もまた彼女の血筋や運命同様普通ではない。普通ではないからこの場に立てるのだ。


 昨日と同じ轍は踏まない。昨日は攻撃だけに気を取られ過ぎた。今日はもっと観察する。テオドラと言う少女はフレデリカより下の学年だ。よほどのダメダメなのか、先輩と思しき少年がつきっきりだ。これは勝てそうだ。


 その様子はミネルヴァも見ていた。明日の対戦相手、クリスが荷物運びをしながら、常にテオドラに話しかけている。

 聞けば昨日の午前中、つまり武技の試合が始まる前も三人の魔学出場者をつきっきりでサポートしていたという。


 つまり昨日の試合も午前中三人のサポートを務めた上での出場と言うことだ。実際魔法の試合に興味があるのではない。昨日の話が本当なら今日もいるはずと、見に来たのだ。


 そして。いた。

 あの学友たちの熱心な声援も良く分かる。


 魔法使い相手に蛮勇をふるった未熟者。どうせ魔法で落ちこぼれ、本来の競争とは違うところで勝った気になっている愚か者。


 最初にそう見た。浮ついていたように見えた。とても今の献身的な姿勢と重ならない。だが、そうではないのだ。

 じゃれ合っていた相手は姉。今更そう知った。久しぶりに王都に帰って再会した姉に弟らしく振る舞ったに過ぎない。


 先日の幼稚に見えたふるまいも、昨日の雄姿も、今日の献身も、全てが彼の真実だ。


 来てよかった。すごいヤツがいた。


 ◇◇◇


「クリス。あたしにバフはいらないよ」

 テオドラが微笑む。初めて会ったときに比べ、すごくメンタルが強くなっている。いや弱いはずがない。左腕の自由と引き換えに地域の町と住民を守った聖女。そのことを誰にも言わずに。

 彼女はボクの使命だ。

「ありがとうクリス」

 何も言っていないのに。


 テオドラが階段を上がる。重力魔法を使っているが階段はやっぱり苦手だ。

 上位魔人や古龍の魔法、重力魔法。テオドラはそれをもう自分のものにしている。歩様がややおぼつかないものの、魔法を階段を登る補助に使っているようには見えない。正直なところ、大会の結果も試合の勝敗もどうでもいい。でもこの場に立つ限り、クリスがそばで頑張れと言ってくれる。

 クリスは間違ったことを言わない。きっと自分が進むべき道なのだ。


 どこかおぼつかない足取りの少女をじっと観察するマイク・ロバーツ。油断はしない。まずは牽制の3連弾ラピッドショット。これにどう対応するか。まずは対応力を見せてもらおう。

 これに対し、テオドラは普通のマジックショット。

 3連弾を貫通して、そのまま直撃を受けたマイクのシールドが赤くなった。


 三日目。

 プリシラは会場には来ないまま自室で休んでいる。もう諦めているのだ。マイクだって先日まで王国魔術騎士だった男だ。そんな奴でも手も足も出ない。他に誰を連れて来いと言うのだ。


「ねえ、ここいいかしら?私もクリスの応援したいんだけど」

「ソフィ」

 やってきたソフィに、メリッサもテオドラも嬉しそうにする。


「初めましてソフィーティア様。よろしくお願いします」

 フレデリカが丁寧に挨拶した。


「できれば名前で呼び合う友達になってくださいね、フレデリカ」

「ええ、ソフィ」


 魔学の3人、今日三日目で初の同学対決となった。

 テオドラとフレデリカ。

 フレデリカにとって憧憬の対象はメリッサだ。だが魔学最強の魔法使いは誰かと聞かれればテオドラだと思う。それに彼女の心情は真っ直ぐで慈愛に満ちている。


 憧憬しようにも出来ない年下。今も何となく距離感を詰められないでいる。もどかしい。

 そんな思いを振り払い、フレデリカは持てるすべてを解禁する。


 アイシス教教皇の娘、フレデリカ。荘厳な大聖堂に独自の発展を遂げた魔術。彼女とてとある魔術都市における頂点の存在だ。

 それでも魔学での生活は驚きと発見の日々だ。みんなで見た流星群、学生寮の屋上。なにもかにも、全て素晴らしい体験だ。


 そんな時にもいつもそばにいた少女。


 彼女に見せるのは異国の神を奉じ、迫害された民たちの、その心の拠り所だ。

 テオドラを囲むように結晶が中空で結合する。宙に浮くいくつもの礫。マイクに使用したのとは数が違う。遠慮の無い本気だ。これから行われる全方位フルレンジの攻撃。もうテオドラの四方八方を、びっしりと埋め、囲んでいる。逃れるすべなどない。


 その礫が突如落下し、地面にビタッと張り付いた、ひとつ残らず全て。念動魔術じゃない。全く動かせない。ビクともしない。焦るフレデリカの前方にテオドラのマジックショットが瞬いた。とっておきが何もさせてもらえず封じられた。赤く染まったシールドを見る目が呆然としている。


 3日目を終わって魔術の部の成績、メリッサ、テオドラ共に3勝0敗。


「ねえ、テオドラ。さっきのあれ、教えてくれる?」

「うん。あたし、足とか悪いでしょ?クリスがバランス崩して転ばないように教えてくれたの」

 会場を見ながら二人の会話。


 他の観客が周囲にいる。それで声を少し落とした。

「重力魔法。その応用」

 フレデリカは驚愕した。以前その話をテオドラから聞いているメリッサも改めてその力を見て驚いている。今は誰も使えない、文献にしか残っていないロストスペルだ。

 眼下、会場にロストスペルを伝えたという少年が登場した。彼がこれから行うのは剣の試合だ。


「あの、重力魔法って、本当ですか?」

 テオドラたちはギョッとした。声を殺したつもりだったが、他の客に聞こえたのだ。前の座席、テオドラと同じくらいの背たけの少女が振り返って聞いてくる。


 光に加減で青にも見える黒髪はショートソバージュ。透き通るほど白い肌。年相応には見えない暗紅色のルージュはしかし肌の白さを引き立てており、決して浮いてはいない。何よりその大きな黒い瞳の奥には赤い光が宿っているかのよう。


「注力魔法と言ったんですよ」

 フレデリカがごまかす。一点に注力する魔法だと。もちろんその場しのぎのデタラメだ。

「そうなんですか……。あ、魔学の生徒さんですよね?あたしも来年から入るんです。ウルスラと言います、よろしくお願いします」


 その一連の会話中、テオドラは一瞬ぞわっとする感覚を感じた。そして彼女はソフィに視線を移した。ソフィは青ざめている。


 ミネルヴァは防具の紐を締めなおし、もう一度作戦を整理する。

 何度も頭の中で展開を練った。クリスの打突は、自分が目指す理想だ。最短を最速で。待っていてはその速度に及ばない。

 より先に、より早く。


 彼の防御のスキルは見ていない。だが先に打つことさえ出来れば、私の剣は簡単に防御できない。勝利は掌中にある。


 舞台には相手が先に来ていた。今にも微笑みだしそうな涼しげな目元。相手に気負いはないように見える。

 対戦相手はゆったりと正眼に構えた。正対するとよりよく分かる。隙が無い。だが待ったら負ける。

 行け、私の剣は迷わない剣、迷いなき剣。


 水が形をなしたかのような流体の流れる剣戟。大気がバリバリと裂けた。力みとか、緊張とか、そういった無駄をすべて置いてけぼりにした無我の剣は、木剣で大気を裂いてみせた。

 コッ……。

 クリスは剣を寝かせ、その先端で、ミネルヴァの剣を突いた。コッ……と。その突きの衝撃でミネルヴァの剣の衝撃を相殺する。弾かれたショックがミネルヴァの手元にない。ゼロの衝撃。


 化け物!

 だが怯んでいられない。さらに続けて最速の剣戟5連斬。ミネルヴァ渾身の連撃は全て切っ先のさらに先端で突き返された。


 ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。

「く……」

 さっきとは違う。今度は木剣と木剣が打ち合った際の重い衝撃が、全て刎ね返されてミネルヴァの腕に伝わっていた。


 ビィンと木剣が震えている。僅かに動かすだけで激痛が走る。もしかしたら、骨にひびくらいは入っているかもしれない。


 クリスがミネルヴァを見つめてくる。目が語っている。

 勝負ありだと……。

 彼は打倒することなく決着させたのだ。


 いえ、まだよ。

 視線で返す。自分にはまだ秘技一拍子雷斬りがある。七龍最強の剣技だ。

 闘志はまだ失われていない。と、クリスの手元から剣が消えた、いや、見えなかっただけだ。


 クリスが払った剣に、ミネルヴァの剣は撃たれた瞬間もぎとられて中空高く舞い、観客席の男の前に落ちた。その男が誰かを知って観客が湧きかえる。剣の落ちた先は偶然か、それとも打ち払ったものが意図したものか、そこにいるのは準決勝の舞台に立つ男、アリオンだった。


「キャー。クリス先輩すごーい」

 いつの間にか席を移動してテオドラの横に来たウルスラが叫んでいる。

「ねー」

「強いよねー」


 ソフィやメリッサたちも大騒ぎだ。初対面なのにもう輪の中に溶け込んだ不思議な女の子。さっきまで青ざめていたソフィが満面の笑みで喜んでいるのがテオドラには少し不思議に思えた。


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