表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/67

第25話 ぼんくら、取るに足らぬ男

 三校交流実行委員会。

 開催内容の一部見直しを迫られていた。

 これまで武大も参加していた魔術競技だが、今回該当する者がいないとして、武技のみのエントリーとしてきたのがその理由だ。

 魔術エントリーは王学3人、魔学3人の合計6人。


 6人による総当たり戦が委員会に提案された。


 王都闘技場、あの日に見たそこでの魔術戦は素晴らしかった。自分もあんな戦いがしたかった。無為の日々。王都から離れることのない退屈な任務。

 王都魔術騎士団、マイク・ロバーツ。彼は退団を数年早めて王女が極秘に工作員を募集しているのを聞きつけ参加したのだ。


 それがまさか学生に化けて交流会に参加することだったとは。しかも発案は王女本人だと言う。

 自分が命を懸けて護衛するその対象がこんなカスだったとは。王国魔術騎士団を退団してまでのことだっただけに当初は落胆した。

 しかし良く考えると、あの闘技場のもう一人の主役、メリッサ・アビスフィールドと戦うチャンスがあるということだ。


「おお、神よ……」

 考えなおしたマイクは教会で涙を流して神の感謝の意を示した。


「よお、マイク」

 振り返るとと先日までの同僚の一人がいた。


「おお、任務はいいのか?」

「ああ。外国の来賓をいま王城に送ったところだ」

 そういって彼は任務の成功を神に感謝した。


「外国か……」

「隣国の皇太子さ」

 明日は何だかの記念日で式典がある。退団していなければ自分にも護衛の任務があったであろう。ただ会場で垂直姿勢を維持するだけの仕事だ。


「うう……。なんであたしまで……」

 ソフィは泣きそうだ。


 本来なら父であるディムランタン公に式典参加の義務がある。それをプリシラが曲げさせた。友達と一緒がいいと。公爵の代理に実子であるディムランタン公女。別に何も問題はないのだ。

 だからプリシラが今回は公女を参加させろと言っても、反対も無ければ妨害も無い。


 ソフィに宮廷から正式な参加要請が出された。

 参加者は大きな声で呼ばれる。席次順だ。

 まずは国王クラスから。次いで皇太子や王弟。継承権順位の通りに。

「マケドニア帝国皇太子アリオロス殿下」


 いちいち立って挨拶などしない。ただ順に名前を呼ばれるだけだ。

 どのレベルの人間が参加しているか、それでこの式典の権威が決まる。大事なことだ。


「ディムランタン公爵領第一公女ソフィーティア・ディムランタン様」

 ほお、とあちこちでため息が漏れる。あの美女は誰だと会場では着席前からその話題で持ちきりだった。式典が何の式典かなど誰も覚えていない。ただ、参加者のランクと人数、それが全てだ。

 晩餐会が始まるといの一番でアリオンがソフィの元にやってきた。


「やあ、ソフィ。今日は一段と美しい」

「あら、アリオンでもそういうこと言うんだね」

「美しいものを美しいと言わかったためしのないボクだけど?」


 互いにバチバチ牽制を入れる。それも仲の良い男女のちょっとしたゲームでしかない。

「じゃあ、素直ってことか。わかるわ。君は別の意味でも素直になっている。以前ほど隠し事をしていない。使いこなせるまで練習したか、偉いね」

 アリオンの顔色が変わる。全てを見透からせられたよう。

 そう、アリオンは皇太子として公式の場にも出るようになったし、剣の腕も隠さない。


 だが剣の腕があがったことが分かるのか。

「そう隠しはしない。ボクは君のことが―」

「待って、何を言おうとしているの?」

 後の先を取られた。


 信じられないことに唇に彼女の人差し指が当てられている。

 この女、剣の達人か……?

 冷や汗。


「私、許嫁がいるんだけど」

 近くを通った給仕がビクッとした。


「はッ……。し、失礼した……。しかし君にふさわしい相手……、まさかあのぼんくら、それともその隣のぼんくらか……?」

 アリオンは王国の第一王子と第二王子のほうを見た。揃ってケーキにむしゃぶりついている。さっきまで上に乗ったイチゴの大きさで揉めていたはずだが、そんなことはもう過去の事だ。

「ふふ。たしかに君の言うとおり。ぼんくらはおことわり。私の相手は次代の魔神大帝さまよ」

「???」


 ほんの少し先で給仕のおっさんがすっころんで派手にテーブルをぶちまかしたのが見えた。


 ベッドの上、用意された部屋の天井がやけに低く見える。酔っぱらったのか、天井が近づいてきているように錯覚した。

 彼女は400年前に約束したからと言っていた。


 どこかおかしいのか、それともふざけているのか。

 惚れた女は男の真剣を理解しないくだらぬ女だったか。だが怒りが湧くと次の瞬間、ソフィから不思議な波動を感じ、怒りが収まった。


 まあ、断られたのだ。それだけが揺るぎない事実だ。

 これが挫折とかいうものか。なかなか甘美でくせになりそうだ……。

 常勝の男、アリオンはこの夜敗北と挫折の涙の味を知った。


 ボクに残ったものは剣だけだ。

 大きな何かを失うということは、失う以前に大きな何かを持っていたという証明だ。

 なら最初から何も持たないものよりよっぽど幸せだ。


 そしてそれを失ってなお何かが手元に残るものはさらに幸せ。

 そしてそれらは全て彼の成長の余白だ。

 余白を埋めたとき、或いはその意志を持った時、彼はもっともっと強くなる。


 ソフィから見れば後に軍神と呼ばれるアリオンでさえ今は王国の王子たちと大差ない。

 ちょっと腕が立つだけの贅沢なぼんくらだ。


 ◇◇◇


 6人による総当たり戦。なんで、と言いたかったが、受け入れてしまえば、そんなおかしな話ではない。

 実質テオドラとの一騎打ちだ。テオドラに勝てるだろうか。クリスには相談できない。彼は中立の立場のはずだ。


 私の味方になって。そんな気配を見せれば、きっと軽蔑される。嫌われる。

 参加者はフレデリカ、テオドラ、そして私。メリッサの脳裏をさまざまな思いが駆け巡る。


 そしてこれが終われば卒業だ。魔術省で働くことが決まっている。魔学の生徒会長。その立場はまず落とされることはない簡単な入省試験。

 こんな日々とは永久にお別れだろうか。


 残る後輩がうらやましくて仕方ない。

 また一日が終わる。こんなに一日が名残惜しいなんて。

 私はまだ何も成し遂げていない。


 ◇◇◇


 その日王都は朝からお祭りムードだ。

 魔学、武大の生徒に関係者、地方からも大勢が見に来る。出店が稼ぎ時と軒を連ね、王都にもとからある店とあちこちで衝突している。

 参加者向けの説明会を前に、マイク・ロバーツは椅子に座らされ、布を被らされていた。

 折角自腹で用意した薄毛隠しのカツラは術の妨げになると没収されている。


 布で何をされているか分からないが、なにやら魔力を感じる。

「はい、出来あがり~」

 布が外された。


「す、すごい。これほどとは……!」

 プリシラが口を押えて目を丸くした。

 公爵家のマジックアイテム。代々女性に伝わる“たぶらかしのヴェール”という家宝なのだそうだ。もちろんソフィのうそだが。


 説明会でも違和感が無かった。髪だってなぜかふっさふさに見える。マイクは調子に乗ってあちこちの出店で買い物をし始めた。

「ちょ、マイクさん」

 マイクを追いかけるソフィは背後に気配を感じた。


 いや気配ではない、気配殺しの気配。手練れ……!

 振り返るとクリス。

「ちぇ、びっくりさせてやろうと思ったのに~」

「あら、モテ男のクリスくん。噂は聞いてるよ~」


 メリッサの学内改革、帝都師範学校インペリアル・レイブンとの試合の完勝。その裏に必ずいたとされる少年。

「いやいや、それほどでも。それにしてもボクの尊敬する姉さんは、しばらく見ない間に堕落を極めたようだねえ。なんだい?あの化け物たちは?」


 チッ……。

「ほ、ほほほ。分かってると思うけど、余計なこと言うんじゃないよ?」

「どうかな。最後の交流戦と思い定めている人もいる。悪いけどそこはボクが判断して決めるよ」

 ソフィはお手上げのポーズを取った。


「で、魔学はどんな感じ?」

「すごくハイレベルだよ」

「まさかクリスは出ないよねえ」

「出るよ」


「えッ、うそッ」

 さっきチェックした名簿に名前はなかったはず。まさか……

 あった。

 名簿を取り出してもう一度よく見ると、そのまさか。魔術ではなく、武技出場者の方に名前があった。

「あんた、人のこと言えないよ」

「言いたいことは分かるよ。でもボクは全て正規の手続きを踏んでいる」


 むう~。

 この件は勝ち目がない。しかもその上で交流会の結果もヤバそうだ。


「でもクリス。一つだけ言わせて。彼らは彼らで正規の手続きをふんでいる。それは間違いないのよ。参加資格にも王学の学籍にも年齢制限ないし」

「OK。そっちにはそっちの事情がある。それはこっちも一緒だ。メリッサの代が魔学最強、その証明を記録に残す」

 武技の部の優勝を譲る気はないようだ。そこは諦めるしかない。


「そっちとかこっちなんて言い方しないでよ」

 ソフィの涙目にクリスが慌てた。

「ご、ごめん、姉さん、そういう意味じゃ……」

 顔を両手で覆う姉に歩み寄る。


「ちょろりんぱ!」

 両手をぱっと開いたソフィが笑って逃げた。クリスがこらーとか言いながら追いかけている。その様子をうらやましそうに、そしてさびしそうに見ていたのはアリオンだ。もちろん彼だって参加者説明会に出ていたのだから。


「アリオン、どうしたの?」

「いや、なんでも……」

 隣を歩くミネルヴァの質問に、アリオンは動揺を気取られぬよう冷静を装う。


「あれは確かクリストファー・ディムランタン、魔学の武技の部出場者ね。ふっ、あの魔法使い、余裕あるみたいだね」

 ミネルヴァはちゃんと参加者をチェックしている。特別な相手には見えない。

 魔法で上に立てない落ちこぼれが魔法使い相手に蛮勇をふるって得た代表権か。


 その上、この期に及んで女とイチャつく取るに足らない存在。もっと言えば恥知らず。


 武技の部はトーナメント戦だ。アリオン、レイ・アーセナル、そしてミネルヴァの三人の争いになるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ