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第23話 秘策あり

「ひとつき半か、はやいなあ」

 サーナキアの隣にいるジータがつぶやく。魔学での交流の日々はジータにとっては充実の数日間だった。

 初めて見る魔道具。大昔の遺跡、何がかいてあるのかよく分らない不思議な石板。忘れられない流星群。見上げるたくさんの生徒たちの影。生徒の瞳に映る星空の瞬きは明日への希望の星光だ。

 素晴らしい!


 環境もそこで学ぶ生徒も、とても素晴らしいと思った。使徒たちには、用意された環境に甘えず、さらに自己研鑽の姿勢がある。

 もっとここにいたい。ここで学びたい。もちろんそれは叶わぬことだ。


 ジータは一か月半前のあの日、2番手中堅で舞台に向かった。対戦相手はハンディを持ちながらも研究に一途にまい進する尊敬すべき魔女、テオドラだった。

 左側面一本に編み込んだ三つ編みのブロンドがかわいらしく、そして決してくじけないテオドラをジータは尊敬し、そして好きになっていた。

「ジータも帝国の巫女になるの?」


「なれたらね。でも今はそんなことより魔術の研究が楽しくて。一つ知るたびに世界が広がるし、魔学にきて魔術の深さと楽しさをもっと知った。卒業なんかしたくないな。もっともっと調べて知りたい。ね、あたしたち、交流戦が終わっても友達だよね」

 テオドラの質問に答えながら、ジータは言いたかった一言を言葉の終わりに込めた。

「もちろんだよ」

 二人は背たけも同じくらい。遠目に見ると姉妹のよう。


 レイブンの先鋒はこれまでよく面倒を見てくれた魔学のフレデリカと対戦し、既に敗れている。フレデリカ。ピキピキと言う不気味な音と共に彼女の周囲に煌めきが浮かんだ。

 魔法を使った。知らない魔法だ。しかしそれは魔法の光ではなく、ガラスが陽光を反射するような輝き。その反射する何かが動き、その正体を知る前にレイブンの代表は魔弾を受けて敗れた。

 動く反射の何かに気を取られて。一敗。レイブンはすでに後が無い。


 ジータが敗れれば、すなわちレイブンの敗北だ。

「ごめんね、テオドラ」

 ジータは必勝の策の使用を決意した。

 真剣勝負。謝る必要はもちろんない。


 だが戦闘に特化した魔術の使用は罪悪感が湧く。マジックショットが続けて二発。先発の魔弾を打ち落とした瞬間、後発が飛んでくる無敵のコンビネーションだ。素早い詠唱と術式構築。高度な集中力と血のにじむ努力を要する技術だ。威力が分散するラピッドショットやチェインショットとは別物だ。二発のマジックショットをほんのわずかの時間差で撃つ実践的な攻撃手段。


 すごい……!工夫したんだね。

 工夫してそれを実現する。研究の成果だ。研究に時間をかけた成果だ。普段の言動から、いかにジータが魔術に対して真摯な姿勢であったかは知っているつもりだった。しかし、こうやって見せられると、彼女に対する尊敬の念はより深さを増す。


 対するテオドラのマジックショット。単発だ。中ほどでジータの放った先発の魔弾と衝突する。

 破壊されたのはジータの魔弾だけ。


 テオドラの放った魔弾はそのままジータの後発の魔弾も破壊し、なおも直進。

 そしてジータのシールドを赤く染めた。テオドラの魔弾はジータの魔弾二発を破壊して、なお威力十分だったのだ。

 完敗だった。


 その後に見たあの優しい生徒会長の戦いぶりも恐ろしかった。すでに大学対抗戦として勝敗は決していたが、カークは意地を示すべく舞台に上がった。それを見ていたジータ。魔法使いがおそろしいものだと初めて感じた。その日、恐ろしげな夜空を見た。メリッサの影、凹凸の陰影に満点の夜空が見えた気がした。

 目の錯覚とは違う。古い魔術の文献にあった。

 魔術への深識と憧憬は、その果ての魔術と表裏をなすと。

 魔術への理解を深めるということは、魔力の量を意味せず、いかに深く魔力と結びついているかであり、その究極に辿り着けば五体は魔力と表裏をなすに至るのだと。魔力とはその量ではない、深度なのだ。その姿がこれなのだろうか。文献には星が見えるとは書いてなかった。


 風も無いにマントが揺れ、マントの内側にも満点の星空が見える。手元にいくつもの星の輝きが浮かび上がり、最後に金星が浮いて出た。

 金星の魔法と言うが、太く長い赤い光の束がカークの頭をかすめて上空に飛んだ。太く凶悪な赤い光線。カークはそれを見て降参を申し入れたのだ。


 彼女たちがどう戦ったのだろう。魔学が頂点に立ったと言うが、彼女たちの誰が優勝したのだろう。早く詳細が知りたい。

 そこへカークが来た。

「王学の口車に乗らなくて良かったよ」


「ああ。カークとオスカーは王学からスカウトされたんだっけか」

 その話はサーナキアも聞いている。あの王女と公女はあろうことか、帝国と王国のエリート校同士として親睦を持ったばかりのカートとオスカーを王学に引き抜こうとしたのだそうだ。王学の生徒として交流戦に出場させるためだ。

 そんなこと思いついたところで、実行に移すか?

 下劣というかなんというか。言葉にしがたいものがある。


「まあ、そうなんだが・・」

 カークはサーナキアに頷き、そして当日のことを思い返した。

 王都最後の夜、ソフィに言われた。

「プリシラはカーク様のご助力を望んでおられます。単刀直入に言えば王学に編入入学してほしいのです。こちらは学費も不要ですしフリーパスです、その上、専用のお住まい、専属メイド、支度金に、お小遣いと、準備金。生活費も贅沢費も。必ずやご満足頂ける環境を用意しております。詳細はこちらの書面に」


 金のことがたくさん書いてある紙を渡された。詳細とは言うが、ほぼ金のことしか書いていない。しかし、魔学に負けたその日のうちに別の手紙が見知らぬおっさんから届けられた。

「諸事情により編入の件は難しくなりました。機会があればまたいずれお会いできますよう」


 負けた場合を考えてプリシラが会場付近に手紙を持った人を張らせておいたのだろう。魔学に勝てない魔法使い、或いは武大の剣士に劣る剣士。それが明らかなら、引き抜く価値がない。だから張らせておいたのだ。

 そのことを苦々しく思い返した。


「どうすんのよ」

 ソフィはぷりぷりしている。恥ずかしいのを我慢してあんなにシナを作って勧誘したのに二人とも負けてしまったではないか。しかも負けた途端に手のひら返し。不実だ。

 ソフィとプリシラは今回の活動を通じて仲良くなっている。友情が二人をつないだ。そして実行委員会は解散したが、結局ソフィは正式に生徒会役員にさせられた。


「さすがにまずいわね。でも策は残っているはず。考えるのよ」

 難しいことを言う。それでも来たる三校交流会では、王学の面子を何としてでも守らなければならない。だがどうみても難しい。

 クリスに復学してもらって、私と一緒に出場する。イケる。これならイケる。確実だ。だがそれをやるわけにはいかない。


 一週間後、プリシラがスカウトに成功したと言うので見に行った。

「お、お前……」


 ソフィは驚愕した。制服を着たおっさんが5人。こいつらを生徒として交流会に送り込むと言うのだ。

「腕は確かよ」

 プリシラがソフィを見てニヤリとした。

 ほんとかよ。例えそうでもこんな茶番に参加するほど食い詰めているのか。ならやはり腕の程度が知れる。そもそもプリシラよ、お前の気は確かなのか?


「き、奇遇ね。わ、私の家に姿を見た目だけ少しわ若く見せるマリック、マジックアイテムがあるのよ。そそれを使えば、いっそうバババ、ばっちりね」

 もちろんそんなものはない。だがちょっとした目くらましの魔術の応用で何とかしてみせる。悪い予感しかしないが、するしかない。

 こんなものをこのまま出場させたら王学のメンツは丸つぶれだ。100年先までののしられる恥辱として残るだろう。


 金の延べ棒を配って回ったというあのゼビルでさえ、ここまで露骨にやりはしない。


「さすがソフィ。そういうのを期待してたのよ」

 プリシラがうっとりしている。このおっさんたちはきっとプロの傭兵。おそらく出自も偽装しているのだろう。さらに(※私の手によって)見た目まで。文字通り何でもアリだ。


「当日まで見られないようにしなくちゃね」

 言いながらも一体自分は何をしているのだろうかと情けなくなった。


「そこは抜かりないわ」

 プリシラのウインク。

 はは。そうでしょうとも。


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