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第13話 「見て」

 万雷の歓声。興奮の坩堝。平民も貴族も貴賤の差がなく一堂に会し、また王国の臣民以外でもたくさんの観衆が集まっている。


 二人が舞台に上がる。王国魔導騎士団員たちによってドーム状にシールドが張られた。


 開始の合図と同時にいきなりメリッサの先制。素早い詠唱。5連射の魔法、チェインショット。ヒルダが防御魔法で防ぐ。冷静。


 一般に防御魔法は種類が少なく、詠唱も短い。攻撃魔法の詠唱が始まってからの防御対応が可能だ。とはいえ先に攻撃に入った相手への焦りから詠唱ミスが起こりやすい。


 メリッサが狙ったのはそこではない。チェインショットにあえてディレイを差し込む。とまどいとほんの少しの隙を作らせる。それは敵が私に与える次の攻撃魔法詠唱の時間。攻撃は最大の防御だ。

 ここで一気に決める。


 模擬戦で踏んだ場数が違うのよ!


 魔導騎士団員、魔術省職員に緊張が走った。

 チリのような光が収束し、杖の動きに合わせて動く。

 来賓席のアレクシアが立ち上がった。

「おお……」


 レベル3。尾を引く彗星の魔法、コメットクロラ。

 レベル3魔法の使用者は魔術省の監視対象になる。

 魔術省に、常にその人物の動向を把握する義務が生じるのだ。犯罪ではないものの、対応する公安魔術師には必要に応じてそのものを逮捕監禁する権限が与えられる。


 レベル3使用者確認。用意されていた伝書梟が魔術省本部に向けて飛び立つ。もっとも魔術省大臣も政務官もこの場にいるのだが。


 コメットクロラの彗星が長い尾を振り新体操のリボンのように杖の動きに追随する。魔術の彗星の完璧な制御だ。

 この彗星は敵の魔弾とぶつかるとその魔弾を吸収する特性がある。攻防一体の魔法。


 発動までは出来ても制御は難しい。だがメリッサは、星を、彗星を見事に操っている。

 アレクシアは感激した。魔学が創立以来追及してきた星を操る魔女の完成系。

 それに対し……。


 ヒルダに視線を移してアレクシアははっとした。

 レベル2散弾の魔弾、デフュージョンショット。その後に連続魔弾、チェインショットの5連射が放たれる。二つの魔法がほぼ同時に発動。


 連結詠唱だ。メリッサの先制、チェインショットにディレイを差し込む駆け引き。ヒルダはそんなメリッサのゆさぶりにまるで動じていない。

 次の判断と行動が速い。


 デフージョンショットをチェインショットに繋げる。散弾に続いて5連射弾の合計およそ20発。ほぼ同時にだ。


 魔術省職員の混乱。レベル2魔法同士の魔法連結は例が無い。レベル3よりも脅威度が上かもしれない。でも前例がない。過去の記録にあるのはレベル1同士の連結魔法。連結魔法といえばレベル1を二つ連結することを指す。しかし、メリッサは別の事で驚いた。


 彼女もチェインショットを使えたのだ。それもメリッサより高度な使い方で。二次予選はわざと手の内を隠したのだ。それを今メリッサに知らしめる。


 目元に柔らかな笑み。ゆさぶり。精神戦。高度な魔法連結を駆使しながら。ヒルダの手数に防御詠唱のヒマがない。


 メリッサは杖で彗星の制御を試みた。。慌てて尾を引く彗星が渦巻き状に防御の形をとる。彗星の尾には魔力を巻き込み吸収する特性があるのだ。ここでその特性を防御に使用する。それにデフュージョンショットやチェインショットは当てやすくなるが1発当たりの威力は通常の魔弾1発より格段に落ちる。


 連弾が彗星の渦に飲みこまれる。テオドラの施したバフ、魔力攻撃向上、魔力防御向上が効いている。攻防一体の魔法と相性がいい。咄嗟の判断、うまくいった。


 メリッサに有ってヒルダに無いもののひとつ。テオドラ。


「上手い!」

 アレクシアが唸る。

 受け切ったのだ。


 レベル2同士の連結魔法という滅多にお目にかかれない秘技を。

 正直ピンチだった。


 だが、後は攻撃に転じるだけでいい。ヒルダが先ほど見せた防御魔法ではレベル3のアタックは防げない。

 勝った。


「まだよ!」

 ヒルダは攻撃に転じるメリッサに言った。


 クリス。見て。

 君に見てほしい。きっともう学校で一緒に勉強することは無いのだから。もしかしたら会う機会も無くなるかもしれない。あたしの秘密。君に見せていないもの、あたしの奇跡、あたしだけの世界。


 アレクシアはヒルダの表情に絶句した。

 絶体絶命ではないのか、奥の手であるレベル2連結を弾かれ、お手上げではないのか。


 口元に微笑をたたえながらの詠唱。紅潮した頬に柔らかな目元。しかし視線はしっかりと対戦相手を見据えて優雅な杖の軌跡。


 その表情、まるで男を籠絡する悪女のように。まっすぐ向かってくる凶悪な彗星を前にして何という豪胆。何という冷静。焦燥と言う精神状態は彼女に存在しないのか。


 詠唱が完了する。レベル3魔法だ。

 星雨メテオシャワー。

 散弾魔法デフュージョンショットを遥かに超える魔弾の雨嵐。


 とっておきを用意していた。

 こんなのを隠し持っていた。彼女もまたレベル3の魔法使いだったのだ。

 恐るべき相手だったが、しかし間に合わない。

 すでにメリッサの彗星はヒルダに向かって放たれている。


 ヒルダの放った星雨の魔法を防御することはもう出来ないが、先に敵を捉えるのはこの彗星だ。星雨の魔法を持ってしても彗星を消すには分散されている分だけ僅かに威力が足りない。そしてこの距離、このタイミング。もうヒルダは彗星から逃げられない。


 ヒルダは一手間違えた。

 ほんの一手だ。模擬戦の経験の差が出たのだ。


 先に被弾するのはヒルダだ。その後に彼女のメテオシャワーがメリッサに当たったとしても先にシールドが赤くなった方が負けだ。この舞台の仕組みは、一方が赤くなった瞬間、もう一方は相当のダメージをその後に負っても赤くならない。

 あくまで勝敗を決めるためのシステムだからだ。


 これが実戦なら両者倒れて相討ちだったかもしれない。そう思いながらアレクシアは再びヒルダの表情に視線を戻す。ヒルダの口ずさむような口元。


 まだ詠唱が終わっていない?

 さらに魔法連結だ。メリッサは彗星を撃ったのではなく撃たされたのかもしない。


 今、メリッサは彗星の制御に全てを集中させている。アレクシアは信じられない。


 出し尽くしたのではないのか、こ、ここに来て、まだあるのか……!

 恍惚、妖艶。笑みを湛えて舞うように杖を振るヒルダ。

 高揚か狂気か。


 その目に紫の炎が宿る。

 詠唱の終わり、湛えた笑みから表情が変わる。


 クリス。これがあたしだけの世界。

「トライアド!」


 光が明滅し、闘技場の観客たちの視界を奪う。危険を察知し、メリッサをかばいに入ってシールドを張った魔導騎士が二人。装置のシールドを破壊されて弾き飛ばされた魔法使いが一人。やがて闘技場を覆った眩い光が終息すると舞台には合計三人が倒れているのが明らかになった。


 彗星は飛翔の半ばで数限りない流星雨に穿たれ引きちぎられ、ヒルダには届かなかった。

 三重詠唱魔法トライアド。


 どんな魔法でも3度同時に詠唱するのと同じ効果を発生させる。連結専用魔法だ。例えばメリッサのコメットクロラにトライアドを使えば、三つの彗星が出現する。三つになった上で威力が落ちることも無い。


 アレクシアはその瞬間を見た。ヒルダはわざと詠唱を不完全にしたのだ。不完全にすることで、二重詠唱魔法と同じ効果に落とした。


 レベル4魔法スペル・トゥワイスと同じ効果。完全なトライアドならメリッサと彼女をかばった魔道騎士たちは死んでいた。会場に設えたマジックシールドさえ引き千切る凶悪な魔力の束。数えきれない魔弾を放つ星雨。二重魔法によってそれが倍だ。


 魔の彗星がレベル3なら星雨もレベル3。そしてそれが倍、極端に言えばレベル3とレベル6のぶつかり合い。レベル6相当の魔法行使などいくら歴史を遡ったところで、過去にも記録がない。倍になった人類史上最高のメテオシャワー。勝敗を決するにあまりある奇跡。


 ヒルダはだから途中であえて不完全にしたのだ。勝敗だけ決し、それ以上の被害を出さないため。あの土壇場でこの冷静。ヒルダの精神に動揺という要素はないのだろうか。高揚でも狂気でもなく、ただ彼女は状況を正しく理解し、最適な手を打ったに過ぎなかった。それを知ったアレクシアのほうが動揺しているようだ。魔導騎士団員たちが駆け寄って三人が救助される。一瞬意識を失ったものの、メリッサは無事だ。


 とはいえ、いかに冷静であったとしても彼女の恍惚はその場において確かに存在した。

 その表情の正体は恍惚ゆえだ。その際の精神状態は彼女の能力を高めはしても、マイナスには作用しない。そのことは誰でも知っている。見て欲しいと思う異性の前で、渾身の姿を見せることが出来たのなら。その精神状態はクリスのかけた魔法を凌駕し、しかしそれもまた魔法と呼べるのではないか。ならば、かけたのはやはりクリスだ。


 アレクシアの横でゼビルが立ち上がって天を仰ぎながら子供のように号泣している。おんおんと声を上げて泣いており、周囲がドン引きしている。異様な状況だが、しかし勝敗はついたのだ。


 その宣言がなされるはずだ。だが審議が始まった。


 ざわめく会場、審議を改めて後ほど実施し、表彰は後日行うと発表があったのだ。決勝の二人だけでなくアレクシアもエステバルも審議に収集される。


 審議の内容は一つだけ。禁呪の使用の有無だ。アレクシアは思い至る。トライアド魔術学校の校名は理念「優」「知」「善」を表したものなどではなかった。


 あれは禁呪の名前だ。

 トライアドと言う単語に良い印象を付与したかっただけなのだと。そしてトライアドと言う単語をこの世から消してはならないという願いなのだ。ゼビル、小さな学校。あの日の若き情熱の校長先生。


 本当の目的は何なのか、いずれにせよ彼は一つのことをいまだに成し遂げようと生涯をかけているのだ。


 なにが「優」「知」「善」だ。禁呪じゃないか。

 しかしアレクシアは結局、あれは間違いなくレベル4魔法スペル・トゥワイスだったと証言した。


 禁呪と証言すればヒルダは失格、監獄送りでメリッサが優勝者になる。そして事実として不完全ながらあれは禁呪トライアドだった。それでもアレクシアはヒルダをかばった。


 ヒルダ、そしてゼビル。この二人はこの先の世界に必要な気がするのだ。自分にはそんなに長い時間は残されていない。アレクシアの証言の内容を聞き、エステバルも倣った。アレクシアを偽証者にすることは出来ない。アレクシアを失えば魔学は衰退する。魔学は彼のすべてだ。


 魔学学院長と魔術省政務官の発言の一致は大きい。

 事実はどうあれだ。


 最後にヒルダ本人の聴取。なぜか教育省大臣ゼビルが同席した。いきなり冒頭からへっへっへ、御挨拶でございますよとか言い出し、用意してきたぶっとい金の延べ棒を配り出したのでぎょっとした警備の騎士団に左右から両脇を抱えられ連れて出された。


 何を考えているのか、切れ者の彼らしくない動顛ぶりだ。ゼビルのこころを理解しているヒルダはそつなく、かつ明瞭にそして巧みにウソを織り交ぜて証言し、審議は終了した。


 優勝「ヒルダ・ハイランド」


 優勝者の発表共に、王国二人目のレベル4ポゼッサー公認認定がなされた。建前上、審議の理由はポゼッサー認定できるかどうかの判定のため、ということにされた。なにせ、歴史上の二人目だ。一人は100年生きる高齢の大魔女アレクシア。


 大魔女に対し、一方のヒルダはまだ15歳。若き魔術の頂点。長い時を経て大陸に再びレベル4の魔女が誕生した。王国のみならず、大陸で実在と生存が確認されている二人しかいないうちの一人レベル4ポゼッサーだ。


 一月もしないうちに大陸中に彼女の名が轟くことだろう。もっとも、彼女はレベル4魔法スペル・トゥワイスを知らないし、使うことも出来ないのだが。


 一方ゼビルはというと、その日の内に釈放された。かろうじて贈賄にはあたらないと判断されたようだ。


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