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第12話 ふたり

 

 視線を横に向けて見るとそこに座るゼビルの顔色も真っ青だ。

「徹底して魔力を練る基礎を繰り返した。星の光を体内に取り込むほどに。努力、研究。魔学の目指すものを体現している」


 いつもの軽薄な様子が消えて真面目な表情でゼビルが言った。

「去年観たメリッサではない……。あれから鍛錬を積んだのか。交流会であれだけ圧勝して、それでも慢心することなく」


 がっくりと頭を垂れるゼビル。この男はこの男でちゃんとメリッサを見に来ていたのだ。


 もちろんアレクシアもエステバルも知っている。普段の彼のふるまいから知性を感じ取ることは難しいのだが、その実、彼はまごう事なき賢者だ。


 その賢者が去年メリッサを見て、その上で連れ来た魔法使い。その子もただものではないのだろう。だが、ゼビルの様子が饒舌に語っている。勝負にはならない。

 果たしてヒルダが現れた。彼女の傍らにシルバーベージュの髪の少年がついている。


「ヒルダの番ですよ」

「へ?」

 エステバルが目を泳がせているゼビルに言うと慌ててゼビルも試技場に視線を戻す。


 見るとヒルダはすでに詠唱動作に入っていた。

 ヒルダの優雅な杖の動き、大気の流れが可視化されたように。そして詠唱の美しくしかし低く響く声は清流のせせらぎのよう。杖から放たれた光はゆったりと明滅し鏡に吸い込まれた。


 歓声はそれほど上がらない。


 水銀も上がらない。いやよく見ると今になってゆっくりとは上がっているようにも見える。しかも見ているうちに少しずつ水銀の上昇速度が増している。


 やがて盆の水銀の水面が生き物のように波打ち始める。いや鏡も目盛もガタガタ震えている。もはや疑う余地は無い。鏡に当たってから暫くたっているのに。


 威力が高かったようには見えない。

 だが、違う。アレクシアもエステバルもゼビルも気付いた。


「だ、大臣、今のは……?」

「わ、分からん。すごかったのか?そうでもないのか?」


 その横で今度はアレクシアが青くなっている。魔学の魔法体系ではない。だが、あれは魔法そのものだ。人類が使えるための研究の果てに辿り着いたものではない、もっと原初のナチュラルな魔法。


 その後数値の発表会がなされた。

 発表会の直前、数人の役人が慌しい様子でエステバルのところに来た。


「数値に間違いはないのだな、よし、魔法省本部に連絡しろ、これより警戒態勢を敷け」

 既に異様な気配が会場を包んでいる。全員の試技がおわり、いよいよ順位発表だ。


「3位、フリューゲル・イスピア。115」

 ワッと歓声が上がる。もともと100が満点だった。それが上限を達するものが現れ、測量鏡が改良されたのだ。とはいえ100を超えるのは数年に一人。115は過去最高だ。


 3位の数値がすでに過去最高。

 会場に異様なボルテージの高まり。


「1位は二人です。共に200!」

 大歓声が上がる。


 200は正確な数字ではない。200までしか目盛が無いのだ。実際の数値が210だろうが300だろうが、目盛は200。よって計測の限界が200まで。

 もちろん過去最高。しかも同時に二人。


「それもなんと二人とも学生です」


 歓声がさらにボリュームを増した。熱狂、狂乱。


「メリッサ・アビスフィールド!そしてヒルダ・ハイランド!」


 この日、王国の魔法史に二人の若き魔女の名が刻まれた。


 ◇◇◇


 ゼビルは壁に掛けたネックレスに膝まづき、祈りを捧げていた。

 同率1位などではない。ヒルダの圧勝だ。


 ヒルダの測量鏡をよく見れば、しばらくの間水銀は石柱を登り切り、盆まで垂れてまた溝を伝い登るということを繰り返していたのだ。はた目には流体金属の動きが分からず、流れ続けているように見えないのだが。


 ゼビルはまるで信仰する神でも見るようにずっと石柱を見ていた。周囲に人がいなかったら、その場で膝を追ってその石柱に祈りを捧げたであろう。


「師匠、さすが師匠のお嬢様。さすがに御座います。よもやここまでとは。そして運命の神よ、よくぞこのゼビルにヒルダ様をお預け下さった。心より感謝申し上げます。師匠、どうかお嬢様の行く末は、このゼビルめにお任せください。必ずや、必ずやヒルダ様を盛り立ててお家再興をお約束します」


 ゼビルが忘我の祈祷に酔いしれているその頃、テオドラは眠れぬ夜を過ごしていた。

 今はメリッサのサポートに専念し、競技会が終わったらクリスとソフィに会いに行くつもりだったのだ。


 ところがクリスは会場にいた。ライバルのサポートとして。しかもとても仲好さそうに。

 きっとクリスにとって今一番大事なことはヒルダのサポートなのだ。良く分かる。自分だってそうだ。邪魔しちゃいけない。


 ただ王都まで来た目的の一つが失われた気がする。それも一番大きな目的だった気がするのだ。

 翌日は朝から競技会場に多くの人が集まっていた。

 それもそのはず初日は伝説の一日だったのだから。


 ◇◇◇


 二次予選の競技は打ち出した球を魔法で打ち落とす競技だ。300人いた出場者は既に32名まで絞られている。


 石を落とすからくりで球を上に刎ね上げる。ポポーンと球は跳ね上がり、そして中空にある状態で魔弾が当たると割れる仕組みだ。

 ゼビルは余裕綽々の様子だ。


 注目はもちろんメリッサとヒルダ。ヒルダの出番が先にやってきた。ここまでの最高が5個だ。打ちあがる球は一度に15個。連射と正確性が要求される。ヒルダはいきなり裏技を使った。

「デフュージョンショット」


 デフュージョンショットとは散弾のように爆ぜる魔弾だ。レベル2魔法。散弾が落とした球は13個。一度に13個に当てていきなりトップだ。


 レベル2確認。魔法省本部に連絡が入る。想定内ではある。なにせ魔導騎士団員でも測量鏡で150以上出したものはいないのだ。魔道騎士団員の水準を超えるものが出場しているとの認識で魔術省の職員は臨んでいる。


 メリッサの番が回ってきた。彼女の心境はいかばかりか。アレクシアは心配した。彼女は間違いなく天才なのだ。なのに、テオドラが入学し、テオドラを超えると言う姉弟に出会い、そして昨日のヒルダだ。


 しかしこれは幸運なのだ。身近なライバルの存在は必ず自身を高める。心が前を向けるなら。

 レベル2確認。チェインショット。


 レベル2のこの魔法は5連射の魔弾の魔法だ。それを素早く3回詠唱。15個すべてに当てた。レベル2を使用する者はたまにいる。たまにはいるが、しかしここまでの精度はないのだが。15個すべてが撃ち落されたのは祭りの競技会で初めての事だった。


 二巡目。ヒルダ再び散弾の魔弾、デフュージョンショット。一巡めより少し外して11個。やや集中力が低下したか。メリッサは二巡めも15個全部。パーフェクト。研ぎ澄まされていた。アレクシアの心配は杞憂だった。


 二日目、メリッサはヒルダを圧倒した。


 その日、異例の発表がなされた。翌日の決勝進出者は二名。通例16名の決勝トーナメント戦からの変更だ。今年の決勝トーナメント出場は二名のみだと言う。


 メリッサとヒルダ。それ以外の組合せは実力差によって危険性があるため、ここで脱落。一切の異論は認めない。


 3位候補のフリューゲルもレベル2魔法は使えない。フリューゲルではヒルダの散弾の魔弾、デフュージョンショットも、メリッサの連続魔弾チェインショットも防げない。一方的になる。仕方のない判断だ。フリューゲルの二次予選の結果は二回合わせ合計8個。一次・二次での大差をもって納得してもらうほかない。


 翌日の決勝戦。たった一試合、でもとても多くの観客だ。

 急遽王立闘技場が解放された。一晩がかりで模擬戦の舞台が運び込まれ、防護壁が用意された。


 ◇◇◇


 王国魔導騎士団がずらりと模擬選舞台を囲んでいる、観衆を守るシールドを展開するためだ。魔道騎士団に加え、王都騎士団までが来ている。


「大臣、調子はどうですか?」

「まずまずですな」


 今日の二人はあまりしゃべらない。エステバルも今日は舞台近くに陣取って現場に張り付いている。高度な戦いになる。緊張が支配していた。


 ヒルダの控室。初日からクリスがずっと付っきりだ。あの日不安を打ち明けて良かった。クリスがもしこの場にいなかった自分はどうなっていたんだろう。きっと一人で泣いていたに違いない。


「ぎゅってして」

 手を握ってとヒルダのリクエスト。

「緊張しているの?こんなの勝っても負けても誰も救わないよ」

 クリスはリクエストに優しく応えながら言った。


「勝っても負けても出るのよ。救われる人、救われない人両方が。だから気にしなければどっちでも一緒。でも気にしなきゃならない。気にして決めなきゃならない。戦うか、戦わないか。戦うなら勝つしかない。誰かに救われた経験があるなら猶更ね」


 そうかもしれない。ボクだってシグルドのおかげでいまの生活が出来ているのだ。誰かに救われた。それが彼女の戦う理由なのかもしれない。


 勝ち負けなど関係ないと言ったけどその考えは正しくなかったかも。


「勝ってね」

 クリスは手を離してその代りにヒルダの肩を引き寄せた。そしてギュッと。この日はあの日とは逆にヒルダが硬直。でもなんだかヒルダに力が漲る。


 シグルドに習ったクリスが唯一使える補助魔法。全デバフ解除と同時に全状態異常耐性向上。全デバフ解除なので不安や動揺といった精神的状態異常もすべて解除する。魔神大帝の嫡子シグルドが授けたとっておきの魔法だ。ヒルダは気づかない。ヒルダだけじゃない。誰にも気づかれない。気づかれないならズルじゃない。


 勝てる人間がより多くを救うのだ。クリスに迷いはない。


 一方のメリッサの控室。テオドラは祈りを捧げた。メリッサに与える魔力向上、魔力防御向上のバフだ。神聖魔法は彼女の独壇場。負けることは許されない。


 少し足の不自由なテオドラを優しく介助し、学内を案内してくれた。不自由は無いか、友人とのトラブルはないか、その後も教室にまで来てくれて気に掛けてくれた。いつも図書館で夜遅くまで魔法書を読んでいた。早朝詠唱練習をしていた。平日寝る間もなく努力し、休みの日にはデザートを食べに連れて行ってくれた。


 生徒会がまとまらないと泣いていた。学内戦で彼女と戦った。彼女は負けてしかし、代表おめでとうと声を最初にかけてくれた。あの日だって勝利を祝福してくれながら、こぼれそうな涙を必死にこらえていた。


 他人に優しく自分に厳しく。だがメリッサはいつも魔学の発展を考えていた。王学ごときに負けてはならない。

 アヴァロン、いやオレルネイア王国の魔術の未来はヒルダなどではない。


 メリッサだ。


 どちらにも言い分はあるのだ。そしてやっていることは両者似たようなものだ。だがシグルドがクリスに教え、そしてクリスがヒルダに施した補助魔法はより実戦向きだ。


 精神的な不安要素の解除。この効果は何より大きい。人魔戦争で魔王を殺した男。魔人や魔王相手に血で血を洗って戦いを知り尽くしたシグルドが選び、そしてクリスに授けた魔法。


 戦いの場で彼が間違うことなど無かった。


 ざわめく闘技場。間もなく出てくるだろうメリッサを待つアレクシアの鼓動は高まっている。


 アレクシアはテオドラの補助魔法を知っている。彼女はメリッサに補助魔法をかけるだろう。そう。メリッサとヒルダ。

 実力伯仲だが、テオドラの差で勝つ。それがメリッサにあって、ヒルダにないものだ。


 ヒルダは素晴らしい魔法使いでそれだけに本人の実力以外のところで勝負がつくのは少し気の毒だ。だがそれが勝負というものだ。より多くの味方、あるいはより強い味方を作る、勝負はそこからもう始まっているのだ。


 言い換えれば勝負はもう終わっている。ヒルダは敗れる。メリッサを支える失われた神聖魔法の使い手、奇跡の存在。勝負を決するに決定的な差だ。


 この差を覆すことはたとえ魔神でも出来はしない。


明日土曜日、そして日曜日も投稿します。次回は明日朝7時10分投稿予定。ついに決着!魔女の色気が匂い立つ!第13話「見て」。読んでもらえると嬉しいです。

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